ファーム・コミットメント: 信頼できる株式会社をつくる

  • NTT出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (335ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784757123342

作品紹介・あらすじ

①従来の株式会社の中心思想である株主優先の構造の限界を指摘。
②ステークホルダー(企業の利害関係者)への義務の確保や信頼できる多様なコミットメント(関与)を形成するためのメカニズムを考察。
③そのための具体的な企業統治の形態(=信頼に基づく企業)を提案し、その仕組みを解説。

原著は「フィナンシャル・タイムズ」の推奨文献にも挙げられた。
(原題:Firm Commitment: Why the corporation is failing us and how to restore trust in it)

感想・レビュー・書評

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  • 著者の提唱するトラスト・ファームが現実的であるかは別として、企業の所有権を考えるあたって独特の切り口であり、示唆に富む。

  • 世界各国の株式会社の殆どは次の3つの類型の何れかに分類される。
    アングロアメリカ型(英国、米国)、、、年金基金、保険会社、ミューチュアルファンドと言った多数の機関投資家によって広く所有されており、ある会社の株式の大部分を所有する投資家は存在しない。
    欧州、南米、極東アジア型、、、支配株主である創業家一族により支配されている。
    日本型、、、インサイダー(銀行、保険会社、他の事業会社)とアウトサイダー(海外機関投資家)による、バランスの取れた混合的な所有構造。

    株式会社の掲げる目的は多様かつ独自性を持つべきであり、所有と支配の形態も達成しようとする目的に従って選択されるべき。

    株式会社の最優先かつ最大の目的は、株主またはステークホルダーの利益ではない。その目的とは、人々、地域社会、国家に対して財を生産し、開発し、供給し、サービスを提供する事にある。この目的は、債権者や株主などの投資家に加え、社員、サプライヤー、地域社会といったステークホルダーの関与があって初めて実現される。

    2010年の全世界における株式市場の時価総額はおよそ50兆ドル。民間部門への信用供与総額は90兆ドル。社債の総額は60兆ドル。全世界のGDP総額が60兆ドルなので、世界の負債と株式の時価総額はGDPの3倍超に達している。

    英国と米国以外の国では、大企業を含む株式会社の大部分が株式市場に上場していない。英国でさえ、上位1,000社のうち、25%しか上場していない。フランス、ドイツ、イタリアではその割合は20%。これら非上場企業も含めた世界の時価総額は約150兆ドルと見積もれ、民間部門の負債総額150兆ドルと同額となる。よって、両者の合計は300兆ドルとなり、金融危機において危険性が囁かれた銀行の損失2兆ドルは、はるかに小さい額である事がわかる。

    世界ではおよそ30億人の人々が企業に雇われている。このうち、十分に保護されていない被用者は全体の50%。20%が1日あたり1.25ドルしか賃金を得ておらず、40%が2ドル未満しか得ていない。

    今回の金融危機が起こると、債権者が第一幕の犠牲者となる。第二幕の犠牲者は従業員。続いて、将来世代、環境、地域社会、動物種が犠牲となる。

    オーストリア、ベルギー、ドイツ、イタリアでは、単一または集団としての投資家が企業の議決権株式の過半数を支配している企業が上場会社の約半数を占める。オランダ、スペイン、スイスの上場企業では、その半数は単一の株主が30%以上の議決権株式を支配している。英国では単一の株主が議決権株式を支配している割合は10%未満。

    今後対処すべき課題は、経営者と株主の利益をいかに一致させるかではなく、株主に投資対象の企業に対していかに責任を持たせるかである。

    敵対的企業買収市場がもっとも確立されている国は英国。

    アジアにおける企業買収総額は全企業買収の25%。

    企業買収によりある企業が吸収された場合、雇用の19%が削減され、解雇は製造拠点よりも本社に集中している。

    敵対的企業買収が成功した場合、対象企業の取締役の90%が買収完了後2年以内にその地位を失う。

    株主は、企業の所有者である為、企業が株主に代わって留保している利益は株主のものである。従い、株主は利益を内部留保されるのか配当として支払われるのかを気にするべきではない。株主は、企業が事業活動の資金を必要としている場合には、配当によって株主自身に対し、不要な所得税が課される事や、企業自体に余分な手数料の支払いが生じないように企業に促すべき。

    ケニアのサファリコム社が提供しているモバイルマネーサービス(M-Pesa)の利用者は1,300万人(世帯普及率70%)であり、ウエスタンユニオン社が全世界で行っているよりも多くの取引を行っている。


    株式会社には、契約を締結しない当事者が多数存在しており、自らの利益を危険に晒している当事者が従業員、顧客、購入者として株式会社に進んで参加するかどうかは、株式会社が彼らの利益を確保する為にその組織において構築する信頼に依存する。このような信頼を提供する為に、株主は長い時間をかけてそれぞれの個人に対してコミットメントを示す事ができなければならない。このようなコミットメントを示すことは、株式市場を指向する英国と米国に出現した分散株主と、他の世界各国に存在する創業家一族という支配株主の双方にとって困難となっている。

    もっとも重要なのは、求められるコミットメントと支配のバランスが、会社、業界、時代によって大きく異なるという点。株式会社は規制の代わりに信頼に値するコミットメントを提供できるような形態を確立する必要がある。株式会社は、受託者評議会と株式保有制度を組み合わせる事でこのような形態を確立させる。

    取締役会が経営陣によって支配されている伝統的形態から、受託者評議会によって監督される形態や、短期志向の株主から長期的観点に立ってコミットする株主等、異なるガバナンスの仕組みや構造は会社内部や国内において共存する事が可能であり、また共存しなければならない。

    投資家、従業員、供給者、消費者が信頼を寄せる会社の使命が存在しないならば、これらの者は株式会社にとって有益な投資を行わない。これらの当事者による投資の価値を維持する為に、株式会社はそれらの当事者による投資を消失させるような活動に従事するのを控えなければならない。

    その会社組織が表明している使命が全ての当事者との関係で尊重されている事を確保する責任を負う受託者評議会を設置する事。受託者評議会は経営陣とは別個の組織体であり、非業務担当取締役は、経営陣への助言者として取締役会で活動するのに対し、受託者は経営陣がその会社組織が掲げる使命に従っているかどうかを監督する「トラストファーム」。トラストファームは、信頼とコミットメントを高めると同時に、株式所有が分散した株式会社において所有と支配の分離から生じるガバナンスの崩壊という従来からの懸念にも対処する。

    長期間その会社への投資を継続する事にコミットしている株主に対し、より多くの支配権の付与を許容する。

    共有地の悲劇、、、株式会社に将来参加するステークホルダー(未来の人間)の犠牲の下に、現在の株主が利益を得ている事。

    現在世代と将来世代との間で生じる信頼問題を解決する3つの制度改革
    株式会社がその追求する使命を確立する事。
    会社が掲げる使命のカストディアンとして行動する受託者評議会を創設する事。
    株保有期間に比例して議決権を付与する株式を発行する事。
    これにより、株式会社は我々の伝統や遺産に悪影響を与えるどころか、商業的良心や永続的な経済的福祉の守護者となる。(トラストファーム)

    トラストファームは企業の倫理的原則に関する問題に対処し、株主以外のステークホルダーの利益を促進し、長期的観点からの投資を促す。投資家やステークホルダーの利益を超えたより広範な公益についても考慮する事ができる。信任義務は私益のみならず、公益にも拡大する事ができる。

    受託者は見識があり、規則を遵守させるだけでなく裁量権を行使する地位にある事から、その権限を用いる事によって、規制を画一的に課した場合に生じる問題や、規制当局側の情報不足に伴う問題を解消できる。


    株主の議決権は株主による投資期間を通じたコミットメントに比例する形で記名株主に集中的に付与される。

    コミットメントの提供には、信頼できる使命、効果的なガバナンス、長期の株式保有が求められる。


    株式会社の生産活動が、流動性のある市場からの影響を受けないようにしなければならない。

    共有地の悲劇(投資の外部コスト)と環境破壊に対しては、トラストファームにおいて世代間に跨がる株式保有制度を構築し、満期までの期間がもっとも長い株主に支配権を付与する事で対処する。

    デュアルクラスシェア(優先株、普通株等)は米国企業で既にある。

    記名株式を発行する際、保有期間を0,1,3,5,10年の何れかに限る。

    株主は残存登録期間に比して議決権が付与される。満期になると無議決権株式となり、再び譲渡できる。

    株主は期間満了前でもペナルティを払えば譲渡できる。

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著者プロフィール

コリン・メイヤー
オックスフォード大学サイード経営大学院教授
オックスフォード大学サイード経営大学院(ビジネススクール)ピーター・ムーア経営学教授。1953年生まれ。オックスフォード大学卒業、同大学経済学博士。ロンドンシティ大学教授等を経て、94年より現職。2006‐11年まで同経営大学院の初代学院長を務めた。同大学ワダムカレッジフェロー、セントアンズカレッジ名誉フェロー。金融論のトップジャーナルの編集委員を務める一方、ヨーロッパ経済政策研究センター(CEPR)フェロー、ヨーロッパ・コーポレートガバナンス研究所(ECGI)フェロー、ハーバード大学ハークネスフェロー、イングランド銀行ホーブロン-ノーマンフェロー、ブリュッセル大学ソルベイビジネススクール客員教授などを歴任 。ブリティッシュ・アカデミー「企業の未来」リサーチプログラムのアカデミック代表として、企業と社会の関係の変遷について研究している。こうした活動により、2017年、大英帝国勲章CBE(Commander of the Order of the British Empire)を与えられた。

「2021年 『株式会社規範のコペルニクス的転回』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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