大分断:格差と停滞を生んだ「現状満足階級」の実像

  • NTT出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784757123632

作品紹介・あらすじ

アメリカはどこに向かうのか
19世紀、トクヴィルの時代以来、米国を世界一の経済大国に発展させてきたのは、アメリカ人の比類なき開拓者精神だ。よりよい暮らしを求め、リスクをとって革新の道を歩む米国人のメンタリティは、フランクリンからスティーブ・ジョブズまで、米国のダイナミックなイノベーションの礎となった。
しかし、その精神がいま減退し、アメリカ社会に格差と停滞を生み出している。本書ではその原因を、変化を先延ばし、現状維持しようとする人たち(本書ではそれを「現状満足階級」=complacent classと呼ぶ)の拡大に見出し、現状満足階級の台頭が、企業間の競争や移住、転職、様々なイノベーションを停滞させる要因になっていると警鐘を鳴らす。
アメリカ人はなぜ創造をやめたのか?デジタルテクノロジーの普及は米国社会に何をもたらしたか?
開拓者精神を失いつつある米国はどこに向かうのか?
全米ベストセラー『大停滞』『大格差』で話題を呼んだ経済学者が、米国社会の行方を占う問題作。

感想・レビュー・書評

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  • タイラー・コーエンの「大停滞」「大格差」に感銘を受けていたので本書も迷わず購入しました。コーエン氏の主張は極めて明瞭、しかも日本語訳もとても読みやすく一気に読了しました。本書ではとくにアメリカを念頭に置きながら「現状満足階級」というものの存在感が大きくなっていて、これが米国経済の停滞、つまりイノベーションの芽を摘んでしまっていると警鐘をならしています。コーエン氏によれば「現状満足階級」は所得階層に関係なく、富裕層から貧困層まで満遍なく広がっている。残念ながらそれを直接傍証するデータ(アンケート調査など)は示されていないのですが、社会の停滞を間接的にあらわす現象として、アメリカ人が移住しなくなっていること、そしてそれに連動して転職数も減少、さらに起業数も実は減少していると述べています。

    コーエン氏の主張は非常に明瞭なのですが、本書については正直かなり違和感を持ちました。コーエン氏の主張は、米国人の生活満足度が高まったことで、イノベーションの意欲が下がっている、それがひいては社会の停滞につながっている、というものですが、それは本末転倒だという指摘もできるでしょう。つまりあなたは生活満足度が低下し社会の不満も高まっているがイノベーションは活発に行われている社会の方がよいのですか?ということです。あるいは常にアニマルスピリットを持ち、渇望感を維持して「more, more!」と叫んでいる人生が良いのか、ということです。その意味で本書からは進歩至上主義的なニュアンスを強く感じるとともに、20世紀的な価値観という印象を受けました。ただ米国の場合は、経済力や軍事力が衰えてしまうと、世界の少なくない国から軍事的な報復を受ける可能性も高く、国民の幸福度だけを追求しているわけにはいかない、という事情はあるのだとは思います。

    急速に発展するデジタル・プラットフォームは無料もしくは安価で様々なサービスを提供してくれるようになり、本書でも述べられているように、マッチングの質を高めることを通じて生活満足度の向上に大きく寄与していると思います。この流れは変わりませんし、私は個人的に、「現状満足階級」が社会の停滞をもたらすことを恐れるよりも、デジタル・プラットフォームが良からぬ使い方をされて、世論操作、人心操作ツールになる、すなわちソーシャル・エンジニアリング、人心エンジニアリング社会になるシナリオをよほど恐れます。

  • アメリカ社会が全体として現状満足に陥り、革新力が落ちていると言う見解には、非常に驚きを感じた。黒人の状況は悪化しているにもかかわらず、現状満足で改革を求めない人が多いとのこと。
    アメリカでこの状態であれば、日本は更に現状維持派が蔓延しており、保守も革新もあまり主張に差は無い。失言の揚げ足取りに明け暮れている。やるべき事は多いが、誰もが強く訴えない社会。それほど困っていないのか、困っていることすら気づかないのか?

  • 【目次】(「BOOK」データベースより)
    はじめにー日本は「現状満足階級」の先駆者だ/第1章 現状満足階級の誕生/第2章 移住大国の変容/第3章 甦る社会的分断/第4章 創造しなくなったアメリカ人/第5章 マッチング社会の幸福論/第6章 アメリカ人が暴動をやめた理由/第7章 活力を失った社会/第8章 民主主義の形骸化が進む/第9章 現状満足階級が崩壊する日/解説 タイラー・コーエンの思想的立ち位置ーリバタリアニズム(自由至上主義)という視点(渡辺靖(慶應義塾大学SFC教授))

  • アメリカでは開拓者精神が減退し、変化を望まない人が増えている。こうした「現状維持志向」がもたらす負の側面を指摘し“変わらない”ことに警告を発した書籍。

    ・アメリカでは「現状満足階級」が増えている。所得・教育レベルは様々だが、いずれも緩やかな変化をよしとする。リスクを嫌い、行動パターンを変えず、自分と似た人とつき合う。

    ・現状に満足できるのは悪いことではない。だが社会と経済の活力が減退し、変化が起きなくなれば、階層の固定が進む。行き着く先は、社会の活力の喪失。

    ・アメリカ社会では、様々な面で「分断」が深まっている。
    ①所得による分断:中流層が縮小し、明白に「貧困」もしくは「裕福」な地区で暮らす世帯が増えている。
    ②教育と社会階層による分断:富裕層や教育レベルの高い層は、自分と同じ層の人が多い土地で暮らしたがる。
    ③人種による分断:学校での人種統合が進んでいない。
    ④保守派とリベラル派の分断:民主党、共和党の支持者が、それぞれの支持者が多い地域に住むケースが多くなっている。

    ・アメリカでは社会・経済の停止状態が進んでいる。例えば以下のようなもの。
    ①新興企業の減少と企業の「高齢化」により、産業界の変化が滞り、雇用の流動性が落ち込んでいる。
    ②様々な業種で、大企業による市場の寡占が進んでいる。
    ③産業界が新しいアイデアへの投資に消極的になっている。
    ④生産性が伸び悩んでいるため、賃金が上がらず、生活水準も上昇していない。

    ・アメリカは安全で平和な社会となったが、その代わり、新しい活力源を生み出す力を失いつつある。しかも、今日の社会的・経済的停滞は一時的な現象ではなく、背景には構造的な要因がある。これは、小手先の改革では解決が難しい。

  • ・NIMBY(Not In My Backyard)
    ・社会の分断に関する指標は、刑務所服役者を考慮に入れていない場合が多い。
    ・黒人は、裁判で有役になる場合が多く、刑期も長くなる傾向にあった。
    ・マッチング社会の幸福論
    ・水面下で増加するサイバー犯罪

  • 経済成長を是として突き進んできた世の中が突き当たっている問題点を指摘した良書だと思います。マクロに見れば、世の中が全体的に現状満足階級になっていることは間違いありません。これからの人類が、成長なしの社会の持続という、新たな歴史の第一歩を踏み出すのか、グレートリセットがかかって歴史は繰り返すのか、それは我々次第ということでしょう。一読をおすすめします。

  • んー。

  • ・toppointで読む
    ・アメリカ、起業が減り、研究開発が減り、男性所得は成長せず、寡占が進む

  • 巻末の解説を渡辺靖教授が書いているのだけれど,渡辺教授といえば休刊になってしまった新潮社の『かんがえる』のアメリカ文化論の連載を楽しみにしていた.実際に氏が訪れた町の調査というよりはもっと洞察に満ちた観察と考察を通じてアメリカ社会を骨太に理解する.

    本書もそれに通じる骨太で洞察に満ちた論考.現代美術とサイバーセキュリティに共通するものは何か?興味かある人は本書へ.

  • ▼ここ10年くらいのアメリカから導きだされるいくつかの示唆
    ■現場維持の精神が許容され現場満足階級が増加
    ■教育レベルが高くても昔ほど移住はしない
    ■分断(所得,教育,社会階層,人権)が進む→イノベーション低下→成長しない

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著者プロフィール

米国ジョージ・メイソン大学経済学教授。1962年生まれ。「世界に最も影響を与える経済学者の一人」(英エコノミスト誌)。経済学ブログ「Marginal Revolution」運営者。著書に全米ベストセラー『大停滞』 (NTT出版)など。

「2020年 『BIG BUSINESS(ビッグビジネス)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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