彼女が天使でなくなる日

著者 :
  • 角川春樹事務所
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758413596

作品紹介・あらすじ

九州北部にある人口300人の小さな星母(ほしも)島。
そこで育った千尋は1年前に戻ってきて、託児所を併設した民宿を営んでいた。
島には「母子岩」と呼ばれる名所があり、家族・子供・友達のこと……悩みを抱えたひとびとがそのご利益を求めて訪れる。
複雑な生い立ちを抱える千尋は、島の人達とお客さんと触れ合いながら、自らの過去と今を深く見つめていく。
明日への新しい一歩を踏み出す「強さ」と「やさしさ」が心に沁みる、書き下ろし長篇小説。

感想・レビュー・書評

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  • 親に捨てられた経験のある千尋。島中の者が千尋の生い立ちを知っている。その島に戻って託児所付きの民宿を始める。近くに母子岩と呼ばれるパワースポットがあることから、出産・育児に関する悩みを持つ人が多く訪れる。

    読んでいて常に気持ちがざわざわしていました。
    悩みを持つ人たちが千尋の民宿を訪れ、千尋の言葉に癒されたり気付かされたりして帰っていく。
    しかし、自分もまた可愛い妹のように思っている人に対して自分の気持ちを押しつけていたことに気付く。
    〜彼女が抱えている屈託は彼女だけのもの。千尋のどんな言葉もきっと彼女を救わない。ただあなたがいてよかったということだけを伝えよう〜
    間違ったことは言っていないのだけど、どこか頑なな千尋の姿に、読んでいて常にざわざわした感じがしていました。でも最後には自分に対するみんなの愛情を素直に受け止めることができたようで良かったです。窓から見える月がどんな風に見えるかは自分の心が反映されているだけなんだってことに気付けて良かった。

  • 千尋の人柄は『わたしの良い子』の椿に
    理津子の夢の場所は《ミナトホテル》に
    それぞれ重なる。

    寺地さんの理想像や、作品を通じて言いたいことが一貫しているということなのだろうな。

    人は年齢性別その他のカテゴリーごとに《こうあるべき》というあり方が決まっているわけではないし、同じカテゴリーにいたとしても自分と他人は同じではない(なので、他人の意見に振り回される必要はないし、自分の常識を他人に押し付けるのも違う)という信念。

    「何かの経験をした人が、その経験がない人に『あなたにはわたしの気持ちがわからない』と言う行為、わたしは嫌いです」
    「だって同じ経験をしても、見えるもの感じるものは違うはずですから。どんな経験があろうとなかろうと、そもそも自分以外の人間の気持ちなんかわかりません」

    正しいことって、本当にそんなにいいことだろうか?少なくとも正義はそれだけで人を救うことはないのでは?という懐疑。

    《あとになって他人があれこれ言うのはかんたんだ。まつりを置いていった亜由美さんを責めることだって、誰にでもできる。でも千尋やまつりが今日まで生きてきたのは、亜由美さんを責める正しい人びとのおかげではない。》

    それから、かっこいい女の人ってのは、こういう人だよね、というある種の理想像か。

    《なんといっても愛想笑いをしないところがよかった。「ふつうはそうでしょ」「常識でしょ」と言うような物言いをしないところがよかった。過剰包装を嫌いそうな、それでいて「ロハス」や「ていねいな暮らし」に一定量の疑問を抱いていそうな雰囲気が滲み出ていてよかった》


    今年出版された寺地はるなさんの本で、これが一番好き。

  • 親に対して抱く感情も、親になって抱く感情も本当に人それぞれ。
    確かに全くおなじ立場になることなんてできないから、推し量ろうとしすぎたり気休めの言葉を吐きすぎるのもよくないよなあと思った。
    個人的には、千尋が島みんなの子ども、というように、子どもが生みの親だけでなく頼れる場所をたくさん作れるのは素敵なことだとも感じた。

  • 個人的に寺地はるなさんブーム到来しており、ローリング中。

    ◆目次
    第一章 あなたのほんとうの願いは
    第二章 彼女が天使でなくなる日
    第三章 誰も信頼してはならない
    第四章 子どもが子どもを育てるつもりかい
    第五章 虹

    ◆あらすじ
    九州北部にある小さな島、星母(ほしも)島で育った千尋は、高校進学と同時に島を出たが、育ての親である政子さんが元々営んでいた民宿を継ぐべく島に戻り、託児所を併設した民宿のオーナーとして、島での生活を送っている。
    島には、子供にまつわる悩みにご利益があるとされる岩があり、さまざまな悩みを抱えた人々が岩を目当てに島を訪れ、千尋の民宿へとやってくる。

    ◆感想
    まず、目次からして、全部気になる、早く読みたいと思わせる章題!
    第一章は、夜泣きが激しい一人息子の育児に疲弊して島へやってきた理津子が島を訪れ、千尋との会話を通して自分の本当の願いに気づくお話。
    第二章は、娘を天使のように溺愛&束縛する母とそこから逃れられない娘のお話。
    第三章は、一人の男を巡って対立関係になってしまったしこりを持つ女友達のお話。
    第四章は、政子さんの孫娘であり、十代で子どもを産むに至ったまつりの過去、まつりからみた千尋、彼女を見守る千尋や麦生の視点が描かれると共に、育児ノイローゼの妻の休息のため、一人娘のひかると共に島に帰省した孝喜との交流も描かれる。
    第五章は、千尋と、千尋の過去を嗅ぎ回るライターの三崎塔子の決着が付く。

    一つ前に読了した『やわらかい砂の上』より断然こちらの方が自分好みの作品だった。
    前作の万智子の方が、本作の千尋よりも自分に近い性格(自己肯定感の無さ)なのに、あまり好きになれなかったのは同族嫌悪的なものなんだろうなぁと思う。
    あとは、ストーリーとして単純に、強い女の子(千尋)が好き、というのもある。

    千尋が島の人たちに対していた感情(「モライゴ」を蔑みの意で捉えていた)と、実際に島の人たちが千尋に抱いていた感情(蔑む人もいたが、政子さんやシロウさんは、だからかわいがってあげよう、という愛のある空気に満ちた)※の違い、また、千尋がまつりに対して抱いていた感情(まつりを妹のように大事に思う気持ち)とまつりが千尋に対して抱いていた感情(千尋への嫉妬と大好きの気持ちが入り混じった複雑な感情)のすれ違いが印象的だった。
    ※これもまたまつりからの視点だから真実はわからない
    また、二章で出てきた幸恵の、「結婚がゴールイン」、「子どもを産まなきゃ結婚した意味がない」、「親にならなければ、ほんとうの親の気持ちはわからない」という考え方、三章に出てきた麻奈の、「友達はいいもの」という考え方、五章の三崎塔子の、「親になってみないとわからない」という考え方は、どれも一方的な決めつけで、千尋がそこに対して違和感や憤りを感じる気持ちに大きく賛同しつつ、千尋の反撃のおかげでスッキリもしながら読み進めることができた。

  • 千尋が、麦生が、政子さんが、まつりが、陽太が、みんなみんな愛おしい。
    麻のような千尋と木綿のような麦生の絶妙なコンビネーション。政子さんのかっこ良さがそこに加わって、最強だ、この宿は。あぁ、泊まりに行きたいな。疲れ果てた心と身体を引きずってここで海を見ていたい。


    島で託児所付きの民宿を営む千尋。幼い時母親が「事故」で死亡、父親が逃げ出し捨てられた娘。政子さんちの「モライゴ」であり島のみんなの子どもである。そんな生い立ちなのに、あるいは、だから、子どもたちに好かれる。その特性を生かして保育士になり宿泊者の子どもや島で働く親から子どもを預かる民宿を始める。
    子宝のスピリチュアルスポットが近くにあるから宿を訪れるのは「子ども」にワケありの親たち。そのワケのひとつひとつが心にちくちくと刺さる。彼女たちはいっとき千尋の宿で過ごすことで、なにか大切なものを見つけて帰っていく。

    千尋の凛とした生き方のかっこよさよ。複雑な生い立ちから他人に対してむやみに距離をつめないスタンス。けれどそれは無関心や放置とは違う。きちんと相手と向き合う姿勢。そこにみんな惹かれるんだな。ものすごくよくわかる。優しさの芯にある強さ、強さと共にある脆さが壊れそうな人の心にまっすぐ向き合う。
    期待しないこと、相手に求めすぎないこと、は他人に対して冷淡なことではない。千尋のそれはやたらと子どもたちがなつくことで証明される。

    あぁ、そうか。大切なものを見つけていくのはワケありの親たちだけじゃなかったんだ。千尋も麦生もまつりも、みんな新しい何かを見つけていくんだ。新しく踏み出すその一歩にはいつも誰かがそばにいる。

  • 離島の民宿兼託児所を舞台に、親であったり子どもであったりそれ以外にも、人との関係の中で煮詰まった思いを少しだけほぐしてくれるような物語。さらっと読みやすかった。
    民宿を営む千尋の言葉ははっきりしていて、色々な気持ちを抱えた宿泊客に引っ張られて憂鬱になってしまいそうなところをスパッと振り払ってくれる。
    多様性を尊重しているような考えがいいなと思った。

  • 子育を奮闘して孤独を感じる人にオススメです。

    読後、子育てとは親も同時に育つ作業と言う認識が薄れました。子供と親は別々の個性の人格で互いに人間として尊重しなければならない。
    赤ちゃんを天使と例え、いずれ天使でなくるなる。
    そんな天使は社会のみんなの子供だ。
    モライゴに温かいメッセージを感じました。

  • 最初、千尋は考えたり悩んだりしないのかと思っていた。
    それほどに千尋は、
    強い意志を持っているように感じていた。

    でも、
    あれこれと考えたり、思い過ぎたりしない人などいないのだと
    そして千尋もそうだと読み進むと感じるようになった。


    みんな不完全でみんな悩んでいる。
    年齢に関係なく。


    子育ては間違いなく大変だ、
    それはわかる。

    でも、大変さの種類は
    多分、親と子どもによって違うのではないかと思っている。
    だから、誰とも同じではなくて誰とも比べられない。

    それを知るには随分な心の葛藤が必要だ。


    人の気持ちや想いはきちんと伝えないと伝わらないことも
    今さらながら教えられた。

    全体を通して、
    ただ、ぬるい優しさだけでなく
    優しさを通した強さを感じた。

    続編があれば是非読みたい。

    最後の「スナック ニュースター」での
    島民の振る舞いがすごく素敵だった。

    #彼女が天使でなくなる日 #NetGalleyJP

  • よかった。
    人は、自分の考える「普通」から外れたひとを見る目が厳しい。自分や我が子が「普通」から外れてると思うことに苦しむ。
    でも、そんなのクソ食らえだーと思える話。

    寺地さん、本当すごいなぁ。
    心理職なのではと思ってしまう。

  • 寺地ワールドを堪能。
    育児や女性という視点からの切り口で、本作も共感シーンが幾つもありました。

    子どもについての願い事を叶えてくれる島の「母子岩」。願掛けをするため島を訪れる悩みを抱えた人たちと千尋との短編集。
    事情はそれぞれなんだけど、どれも読んでいてモヤモヤしんどかった…。
    共働き夫婦の夫の発言、毒親の発言や振る舞いに神経を削られる。

    ワンオペ育児、終わりのない家事育児プラス仕事。誰かに押しつけられる役割に苦しくなる。
    明日が来て、また振り出しに戻るという絶望感よ…。

    「子どもが子どもを育てるつもりかい」の章は、子どもが発達障害なんだろうなぁ。
    毎日どれだけ大変で、世間から心ない言葉を投げかけられるか想像するだけで辛い。色々な感情がこみ上げてきて親子どちらに対しても胸が痛くなった。
    疲弊しきったパパが思わずこぼした言葉は、シンプルなだけに切実で胸が痛い。

    『「人それぞれ」と大人同士は認め合うことができるのに、どうして子どもの発達だけは横並びであるはずだとみんな思ってしまうのだろうか』

    役割や「ふつう」という概念。何かに縛られている人が、もっと楽に、自由に生きられるようになればいいのに。
    いつも私は感情移入しすぎるので、読むのに気合いがいる。

    苦しい中にも救いや希望を感じられる寺地さんらしい雰囲気の作品。
    言葉にできないモヤモヤを言語化してくれて、感情を揺さぶられたり、言葉が刺さることも多い。

    『なにかの経験をした人が、その経験がない人に「あなたにはわたしの気持ちがわからない」と言う行為、わたしは嫌いです』

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著者プロフィール

1977年佐賀県生まれ。大阪府在住。2014年『ビオレタ』で第4回ポプラ社小説新人賞を受賞しデビュー。他の著書に『わたしの良い子』、『大人は泣かないと思っていた』、『正しい愛と理想の息子』、『夜が暗いとはかぎらない』、『架空の犬と嘘をつく猫』などがある。

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