ウエハ-スの椅子 (ハルキ文庫 え 2-1)

著者 :
  • 角川春樹事務所
3.45
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本棚登録 : 4476
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  • Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758431026

作品紹介・あらすじ

「私の恋人は完璧なかたちをしている。そして、彼の体は、私を信じられないほど幸福にすることができる。すべてのあと、私たちの体はくたりと馴染んでくっついてしまう」-三十八歳の私は、画家。恋愛にどっぷり浸かっている。一人暮らしの私を訪ねてくるのは、やさしい恋人(妻と息子と娘がいる)とのら猫、そして記憶と絶望。完璧な恋のゆく果ては…。とても美しく切なく狂おしい恋愛長篇、遂に文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • 上質なレースに包まれた向こう側を見ているようだった。幸福と共に感じる強烈な孤独とはこういうものか。
    美しく静かな絶望の描かれ方が凄い。
    なぜこの人なのだろう。などという短絡的な言葉ではかたづけられない主人公「私」の心情。
    ストーリーに織り込まれる幼少期の回想で、「私」は閉じた自分と向き合うことになる。美しい文章で紡がれる数々の記憶がきらきらもするし、残酷にもうつる。この独特の空気感が、ざ江國さんだと思った。
    最後は、仕方ないにも、あきらめにも似た、これくらいがいいかもしれない、という着地。
    自己を満足させるには傷を負うこともあると、タイトルの意味にも感じられて痛い。
    一冊まるごと心の葛藤(心模様)こういうのが結構好きだと思った。

  • ホテルの静かな部屋で1人読むものではないな、と反省した。
    あまりに途方もない絶望の物語だから、明るいところで読まなくちゃ。
    冬より夏、夜より昼。カラッとした天気の日に読むべきもの。

    読んでいるうちはいい。読み終わったとき。物語の魔法が解けて、現実が帰ってきたとき。自分に忍び寄る絶望にゾッとして、でもそれは間違いなく自分が呼びつけた者なのに。

    孤独という名の絶望なしには生きられない。それは不幸なのかもしれないけど、でもホッとする。ああ帰ってきた、といつも思う。結局ここが自分の居場所なのだ。

    たっぷりたっぷり愛情を注がれて育ってきて、今だってそうなのに。どうして私は孤独ぶりたがる?何を格好つけているんだろう。
    遅くかかった麻疹は重い。いい加減に現実を見て、地に足つけて生きていく人生を受け入れたいのに。

    • 大野弘紀さん
      感想なのに、ウエハースの椅子の解説を、読んでいるみたい。ずっと、読んでいたい。
      感想なのに、ウエハースの椅子の解説を、読んでいるみたい。ずっと、読んでいたい。
      2020/07/05
  • きらきらひかる、落下する夕方、と三角関係の作品を続けて読んだあとだったので、登場人物が少なく、ストーリー展開も大きく変化がない今作で、少し物足りなさを感じた。
    しかし、それゆえに、文章の温度感を深く味わうことができ、恋人との別れが差し迫っている様子をひしひしと感じとれた。
    シンプルなストーリーに丁寧な心情描写を肉付けしていくようなスタイルが好きで、そういう意味では、江國香織作品の中では、この作品が一番それに近いと思う。
    この作品は、日曜の昼下がりに、日当たりの悪い部屋(よく言えば日陰の落ちついた部屋)で読むのがいちばんいい。

  • 解説に書いてあるようにストーリーがないです。
    狭い池が繰り返しの日々の中で、僅かに変わっていく機微を描いているような感覚でした。

    「上手く一人に戻れるように」
    「道があると思うことがそもそも錯覚なのよ。人生は荒野なんだから」

  • 恋愛の最高地点じゃん。と思ってしまった。ああ、書き手は女だなとも。好き。

    二人だけの狭い世界に生きる、希望と不安を「今」「記憶」「絶望」から描いてる。

    「私の恋人は優しいが、優しければ優しいほど、私は自分が架空の存在であるような、彼の産物であるような気がする。」
    自分の孤独が絶望になり、その絶望を遠ざけるためにどう抗うか。恋人という存在が鍵になるのだけど、存在が大きいからこそ、自分から切り離したくなる矛盾した気持ち。自由の代償みたいにまたやってくる絶望。人間ってよわいねえって思う。よわいから、出来るだけ暇をなくさないといけないかも、とちょっと余計なことも考えた。
    愛情の話ではない、恋愛の話。

  • ウエハースの椅子は…目の前にあるのに決して腰を下ろせない。
    仲の良い両親に大切に育てられているのに、何故か幼少期より絶望に囚われて生きている私の恋物語り。
    画家を生業とし、ときおり訪ねてくる7年越しの妻子ある恋人との時間のためだけに生きている37歳の私。
    6つ下の妹は、長続きしない恋ばかり。
    今は年下の大学院生と恋愛中。
    絵を描くこと…好きなことが仕事として安定し、姉妹中も良い。
    恋人はお風呂のカビとりをしてくれるし、旅行にだって連れて行ってくれる。
    過不足なことなどひとつもない。
    優しい恋人。甘い時間。狂おしい熱情。
    だけど、幸せであればあるほど、それは絶望でしかない。
    語りたいことは多くあるけれど、これを語るとネタバレにもなるし、自分の心の内をさらすことになる。
    今年の15冊目
    2018.8.13

  • 子どもの頃の甘い記憶と、紅茶に添えられた角砂糖にたとえられた、38歳の中年女の甘やかされた生活。
    まるで詩のように、交互に、ぽつぽつと語られている。

    ときどき江國さんの言葉たちに閉じ込められたくなる。

    「すみれの花の砂糖づけ」にどこか似ている。

  • 読んでいると砂糖漬けにされていくような感覚を味わう小説

  • とりとめのない、女性によく見られる心のわずかな動きを、素敵な言葉で、一見柔らかく、実は残酷に、激しく表してるなと思いました。

  • 大好きで何回も読み返してしまいます。
    自分も恋人も、一度も名前を明かさないまま話が進んでいくところが、奇妙な美しさがあり好きです。

     「わたしははじめて、恋人が絶望に似ていることに気づいた。」

  • 江國香織を読むとき、私は旅に出ているような気持ちになりますが、この作品では息苦しさや閉塞感を味わいました。
    そりゃあそう。死と悲しみと絶望が題材だから。それなのにどこか軽やかなのが江國香織のかけた魔法だと思います
    「私たちはみんな、神様の我儘な赤んぼうなのだ」が出てくる章が好きです

  • 私とその恋人(妻子がある)
    冒頭に出てくる「絶望とは死に至る病だ」キルケゴールの言葉の引用が、読みながらずうっとついてきてた

    マジョルカ島への移住が二人の「将来」で「そんな毎日ならみちたりてしまうな」と話す恋人に対して「わたし」は、「それならなぜそうしないのか、みちたりてしまわないのか、わからなかった」

    二人の時間が進んでいくにつれ、私だけが閉じ込められている、と感じて追い詰められていく、絶望。

  • あとがきにあった、ストーリーはない、と言ってもいいと思う、というのはまさにそうで、
    繊細な感情が描かれた作品。
    愛されても愛されても足りないと感じてしまう、一緒にいて苦しいという感情は、わかる気がする。

  • 江國香織で初めて読んだ作品。ストーリーがどうとかではなく、ずっと雨がしとしと降ってるみたいな文章、雰囲気。生活の中の描写があまりにも美しい。恋することの孤独と絶望、まさにそう

  • 江國香織さんの作品は、あれも好きこれも好き、と言ってしまいますが、この本を読むとやっぱりこれが一番だと思ってしまいます。
    恋人との甘く閉じられた時間と、絶望が隣にいる時間。
    緩慢に訪れる死に、わたしもこんな終わり方がしたいと憧れてしまいます。
    緩やかに壊れていく、それは甘美です。
    わたしたちはみんな、一匹ずつべつべつの、孤独な、けもの。
    また絶望的な幻想のなかに、生きていきます。

    ちょうど聴いていた歌が、すっと落ちてきました。

    「もう終わろう 欲張りすぎたの あなただけ 信じて どうしようもない」

    「見届ける 最後まで 遠くまで 遥かまで どうか 逃げて」

  • ゆるゆると綴られる、「過不足はない」けれど、「絶望」と隣り合わせの日常。

    「恋人と別れるべきかもしれない。
    私は恋人以外の男性には興味がないが、恋人と生きようとすれば、閉じ込められてしまう」

    この部分がすごく理解できた。

    以前、あるTV番組で冨永愛が結婚生活を振り返ってこう言ったのを聞いたときも
    同じように感じたのを覚えている。

    「立っている場所がすごくぬかるんでて、いつ落ちてもしょうがないような感じだった」

    一緒にいるときは満ち足りているのに、離れた途端に襲ってくる不安。
    その不安が恐くて、いつの間にか好きな相手と一緒にいるのも恐くなっていく。
    だけど手放すのも、恐い。

    恋をするから孤独なのか。
    孤独だから恋をするのか。

    どちらも違うんだろうな。

    ところどころに登場する、“柘榴の甘い匂いのボディシャンプー”が気になった。

  • なんか完璧に閉じられた世界というか、
    完成してしまってる。世界が。登場人物の世界が。
    どこにも行かない。行けない。
    日記を読んでる感じがした、終わってしまった日記。
    増えることのない日記。
    うん、妹が好きやな、と思った。
    主人公は憎めない。
    恋人は嫌いです、なんだかずるい。

  • 江國さんの本は、何度も何度も、ゆっくりと噛みほぐすように読み返していって、やっと作品と一体になれるというか・・・そういうものが多い、と思います。この本もその中のひとつ。解説で翻訳家の金原瑞人さんがおっしゃっているように、この「ウエハースの椅子」にはストーリーが・・・ない。絶えず動くアクション小説・推理小説なんてのからは一番離れたところにある。でも、それがいいんです。例えば自己紹介などするときに、「あなたの好きな食べ物は何?」と聞かれて咄嗟に頭に浮かぶもののように、何度も食べたい=読みたいと思わせる本。ストーリーよりむしろ、本当にちょっとした感情の揺れをひどく繊細に細かく描いていく。そんな江國さんの持ち味が遺憾なく発揮!されています。通学途中などに、これからももっともっと読み返したいなあ。とろりとして病み付きになるチョコレートのような小説でした。

  • 誰かを何処かに閉じ込めるなら、そこが世界の全てだと思わせてやらなければならない。
    このワンフレーズが印象に残りました。

  • 偶然、再読。
    私、すてき。姉妹の関係おもしろい。
    絶望で仕方なくて笑っちゃう感じを分かる。

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著者プロフィール

1964年、東京都生まれ。1987年「草之丞の話」で毎日新聞主催「小さな童話」大賞を受賞。2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で山本周五郎賞、2004年『号泣する準備はできていた』で直木賞、2010年「真昼なのに昏い部屋」で中央公論文芸賞、2012年「犬とハモニカ」で川端康成文学賞、2015年に「ヤモリ、カエル、シジミチョウ」で谷崎潤一郎賞を受賞。

「2023年 『去年の雪』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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