- Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
- / ISBN・EAN: 9784763013118
作品紹介・あらすじ
生きるという冒険。大宅賞作家が10年にわたって追った誰にも似ていない10人の肖像。感動の人物ドキュメント。
感想・レビュー・書評
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ノンフィクション
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すっかり売れっ子ノンフィクション作家となった著者は、『散るぞ悲しき』で単行本デビューを果たす前から、『アエラ』の看板連載「現代の肖像」の執筆者の1人だった。
私が彼女の名前を記憶したのも、「現代の肖像」で脚本家の中園ミホを取り上げた回があまりに素晴らしかったからであった。
本書は、これまでに梯が「現代の肖像」で書いてきた10本の人物ルポを集めたもの。常連執筆者という印象があったが、意外にも、彼女が書いた「現代の肖像」はこの10本がすべてなのだという。
以前当ブログに、「梯久美子が『現代の肖像』に書いたルポにはいいものが多いから、彼女のものだけ集めて本にすればいいのに。出たら私は絶対買う」と書いたことがある。約束どおりゲットしたしだい。
11年前に私を驚嘆させた中園ミホのルポも、当然収録されている。
ほかに登場するのは、丸山健二(小説家)、西川美和(映画監督)、槇村さとる(マンガ家)、谷川俊太郎(詩人)、かづきれいこ(フェイシャルセラピスト)、石川真生(写真家)、向田和子(エッセイスト)、ウー・ウェン(料理研究家)、石内都(写真家)――。
副題のとおり、広義の「表現者」ばかりである。
10本とも素晴らしい出来。「人物ルポのヴィンテージ」と言ってもよい1冊になっている。
私がいちばん感動したのは、かづきれいこを取り上げた回。そこには、次のような印象的な一節がある。
《うつむいている人に、つい目がいく。それが、かづきれいこの習い性だ。自分にも下を向いて生きていた頃があった。顔を上げるために、化粧を学んだのだ。
「でも化粧ってイヤな言葉や思わへん? 何で“化ける”いう字、使うの? 私これきっと、男が作った言葉やと思うわ」
いつものように予定時間を大幅にオーバーした講演の帰り、タクシーの中でかづきが言う。テンションが上がると関西弁が交じる。大阪で生まれ、西宮で育った。》
これは導入部の一節だが、読者の心を鮮やかにつかみ、「つづきが読みたい」と強く思わせる文章だと思う。むずかしい言葉、奇をてらった表現は一つも使っていないのに、深い滋味と心地よいリズムがある。
本書に舞台裏が明かされているが、「現代の肖像」はすごく厚い取材を重ねて作られている。
一本のルポのために、「数ヵ月から、長い人では一年間にわたって、仕事をする姿を見せてもらい、普段着の時間をともに過ごすことを許してもら」ったという。昨今のあわただしい日本の雑誌ジャーナリズムの世界では、めったに見られない贅沢さと言える。
当代屈指の名文家・梯久美子がそれほど贅沢な取材をして書いたルポなのだから、よいものにならないわけがない。
『散るぞ悲しき』で脚光を浴びたため、梯はなんだか「太平洋戦争もの専門のノンフィクション作家」みたいな扱いになってきている。
私は、そのことを惜しいと思う。本書のような普通の(というのもヘンだが)人物ルポを、ぜひまた手がけてほしいものだ。 -
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図書館。
書店では出会えなかっただろうな。
一人の対象にじっくり向き合って練られた文章は
読んでいて人生の重みが感じられて、よりいっそう
対象に興味がわく。 -
いわゆる有名人も含まれているが、ああこの人だったのかという方も含めて、十人十色の濃厚で重たい生きざまを、ある意味淡々とと思わせる文体ながら、短めの文章にもかかわらず核心に迫る取材と表現力に感心せずにはいられない。
11人の表現者と言ってもいいのではと思う。