ポスト・モダン世界のキリスト教: 21世紀における福音の役割

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  • Amazon.co.jp ・本 (282ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784764266469

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  • アリスター・マクグラス(Alister McGrath、b.1953)は北アイルランドのベルファースト生まれの神学者で、オックスフォード大学神学部歴史神学教授、ウィクリフ・ホールの学長を務めている。英国国教会(聖公会)内における福音派だ。

    マクグラスの議論で興味深いのは、マルクス主義を通過した神学者らしく、冒頭の神学および神学者の役目(モデル)を論じている場面で、いきなりアントニオ・グラムシ/Antonio Gramsci の名前が出てくることだ──しかもそのイタリアの共産主義者に対し多大な評価を与えている。

    一般信徒は、神学者に対して「よそよそしい」「日常生活の下世話な問題に通じていない」「一般信徒とは全く異なる問題意識を持っている」「なにが言いたいのか全く理解できない」という印象──というか本音を抱いている。すなわち、専門神学研究と教会生活のあいだには「きわめて深い溝が大きく口を開けている」のだ。しかし、だからこそ、神学者マクグラスは、信仰の共同体に、「その内側から仕えるべく召された」「愛と慈しみを持った」神学者の模範(アプローチ)が必要だと唱える。

    ”このアプローチは、マルクス主義者アントニオ・グラムシ(1891-1937)によって展開されました。彼は、自らが提唱する「有機的知識人」のパラダイムを、16世紀宗教改革に求めました。現代の教会における神学の正しい位置づけを再発見しようと試みるとき、これは極めて重要な概念です。

    グラムシは、二種類の知識人があると論じます。第一の知識人は、外的権威によって、共同体に押しつけられる、いわゆる「伝統的知識人」で、その共同体によって選ばれたのではなく、その権威が実際のものである限りにおいてのみ、その共同体に影響力を及ぼします。これとは好対照をなすものとして、グラムシは「有機的知識人」を推奨します。これは共同体の内にあって形成され、その共同体の展望を代表すると認められるがゆえに権威を持ちます。つまり、その権威は、御着せではなく、自然に出現するのであって、共同体が自分たちを代弁する知識人・文化人であると積極的に見なし、敬意を表することの反映です。

    神学者のこの規範は益するところ甚大です。教会の一般的信徒や牧師が抱懐する、「神学の専門家」不信と響き合います。この根深い不信感は、1960、1970年代に横行した無責任の結果です。

    神学者は今こそ評判と支持を取り戻さなければなりません。徐々に尊敬と権威を獲得するためには、共同体の風潮や行動様式にしっかり根ざして表現する能力や、教会および教会員の福祉を願う思いが問われます。福音主義陣営について申せば、ジョン・W・ストットなどは、この「有機的知識人」の典型的な実例でしょう。仰々しい学問的肩書きなど一切持ち合わせておりません。しかし、英国国教会内、さらにはそれを超えて、世界的な信望を持っています。その尊敬は彼が自ら勝ち取ったものです。人々は、彼を尊敬に値すると認めたがゆえに、彼の権威を受け入れるのです。このように、彼と彼が責任をもって語りかける共同体の間には、有機的で自然な関係があります。
    ── p.13-14”


    [関連]
    ●「キリスト教神学は科学的か?」http://d.hatena.ne.jp/HODGE/20081124/p2

  • マクグラス氏の来日公演集。福音主義神学・歴史神学・科学的神学・霊性神学の各分野で活躍するマクグラスの神学を俯瞰するのに良い本。特にその中の一編「福音主義とはなにか」は、日本の福音派の自己理解のために一読に値すると思う。ちなみにマクグラスの個人的キャラクターは、いかにも英国人風のはにかみ屋で奥ゆかしい雰囲気を持っている。

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著者プロフィール

1953年生まれ。現在、オックスフォード大学教授。著書『キリスト教神学入門』『宗教改革の思想』『ルターの十字架の神学』『プロテスタント思想文化史』ほか多数。

「2020年 『宗教改革の知的な諸起源』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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