- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784766129441
作品紹介・あらすじ
18世紀から19世紀にかけて解剖学的に正しく分解できる精緻な人体模型が穏やかならぬ数で作られ世界各地の博物館や移動式遊園地で女性解剖模型として展示されていた。その、数奇な歴史と矛盾に満ちた存在、医学と神話、奉納品と民芸品、キワモノと芸術の狭間を揺れ動いてきたヴィーナスたちを、鋭い解説が追い、検証する。カラー図版324点を含む、図版366点を掲載。
感想・レビュー・書評
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18世紀から19世紀にかけて作られた解剖学的に正しく分解できる精緻な蝋製の人体模型の歴史や意義を豊富な図版366点と共に紐解いていく。本書で取り上げられているのは女性の体を人体模型として造った「解剖学のヴィーナス」。当時は人体解剖はおぞましく、倫理的にも問題とされていたため、人体を切り開くことなく解剖学的構造を教える手段として造られた。人体の構造を知ることは神が造った人間=小宇宙を知ることでもあった。「解剖学のヴィーナス」はどれも安らかな、見方によっては恍惚とした表情を浮かべている。グロテスクな体内を見せながら美しい寝顔を晒しているような様は酷くアンバランスであり、しかしながら奇妙な美しさ、死せる官能性を宿して見るものを惑わせる。女性の裸体や性が今よりずっとタブー視されていた時代、「解剖学のヴィーナス」は男性の性的な欲望を満たす側面も持ち合わせ、表面的には医学的知識(主に性病や出産)の啓蒙を装いながら見世物へと発展していく。移動式遊園地では公開解剖も行われたらしい。また解剖学はメメント・モリの思想と結びついていたが、やがてそれは不死の憧憬、人形愛と結び付けられていく。「解剖学のヴィーナス」は宗教、医学、科学、芸術が生んだ歪な美神なのだ。一体、私も欲しい。
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借りたもの。
解剖学の記録としてはじまった蝋型は、次第にリアリティ、その造形の美しさ、メメントモリ(死を想え)を追及していった。
医学的な見地やシリコンを用いた研修用の道具は、どこか人造人間――「人間が自身の似姿として創った」という神へのオマージュ――的なもの想像してしまう。
“眠れる美女”の変化系――官能性をも含んだ醜くならない死体ともいうべきそれらの写真に、息をのむ。
自身の人体の中身がどうなっているかという好奇心と死の恐怖が混ぜこぜになったために注視し、三島由紀夫『仮面』における主人公が《聖セバスティアヌスの殉教》を見た時の倒錯にも似た思いを共有する。