赤い魚の夫婦

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  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784768459058

作品紹介・あらすじ

第3回リベラ・デル・ドゥエロ国際短編小説賞受賞。
メキシコの作家が贈る人間とペットにまつわるちょっと不思議な物語。

初めての子の出産を迎えるパリの夫婦と真っ赤な観賞魚ベタ、メキシコシティの閑静な住宅街の伯母の家に預けられた少年とゴキブリ、飼っている牝猫と時を同じくして妊娠する女子学生、不倫関係に陥った二人のバイオリニストと菌類、パリ在住の中国生まれの劇作家と蛇……。
メキシコシティ、パリ、コペンハーゲンを舞台に、夫婦、親になること、社会格差、妊娠、浮気などをめぐる登場人物たちの微細な心の揺れや、理性や意識の鎧の下にある密やかな部分が、人間とともにいる生き物を介してあぶりだされる。
「赤い魚の夫婦」「ゴミ箱の中の戦争」「牝猫」「菌類」「北京の蛇」の5編を収録。
2014年にはエラルデ文学賞を受賞するなど国際的に高い評価を受け、海外では毎年のように「今年のベスト10」に取り上げられる実力派作家グアダルーペ・ネッテルの傑作短編集、待望の日本語訳。

感想・レビュー・書評

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  • 短編集だからスルスル読み進められたものの、読後胸の内にはわだかまりのようなものが残った。決して面白くないからでも、かと言って傑作と言い切れるものでもない。どの作品も極めて現実味を帯びているからだ。
    いずれも生物と人間を結びつけている。

    『赤い魚の夫婦』:終始モヤモヤ。人間の生活を水槽の魚に例える話はよく聞くし、本作も例外じゃない。ただリアルでで飼育している魚と自分達を無意識に重ねていく過程が今思い出しても心苦しい。ついでに言っちゃえば「ありがた迷惑」をあれだけ外野から浴びせられるのも、(当事者じゃなくたって)心が弱る。

    『ゴミ箱の中の戦争』:虫嫌いの方は御用心。無理やり人間と結びつけている気がしないでもない。主人公は大人になっても救われていないのか、自分の乏しい想像力では解明しきれなかった。

    『牝猫』:猫はどちらかと言えば不得意だが、彼らが登場する本作は短編集の中で一番前向き(?)で生命力がみなぎっていた。擬人化したってきっと違和感ないくらいに人間的。眺めている分には好きになれたかな笑

    『菌類』:ただでさえ狂気じみているのにタイトル名くらいもう一捻り欲しかった…構成は文句なしだがタイトルがしっくり来ずで、やたら気にしている汗

    『北京の蛇』:中国の言い伝えに絡め取られていく父親の描写が心底恐い。呪縛を解いても解かなくてもハッピーにはなれない。「蛇は命の継承のシンボル」と言うのに、こんな終末は嫌だ。

    メキシコ出身という筆者の写真を見ると「陽」よりも「陰」の方がよく当てはまる。日常に潜む毒素を嗅ぎ分けるような作風から何だかんだで目が離せなかった。ちなみにあのわだかまりは未だ抜けきっていない。

  • つながる/ひろがる/フェミ・ジャーナル -ふぇみん-|ふぇみんの書評
    https://www.jca.apc.org/femin/book/index.html

    観賞魚、ゴキブリ、猫、菌類、へび…多様な生物と、共存する人間の生き様を対照化する5つの短篇小説 | 文春オンライン
    https://bunshun.jp/articles/-/49186

    訳者の言いわけ: グアダルーペ・ネッテル『赤い魚の夫婦』
    https://unokazumi.blogspot.com/2021/08/blog-post.html

    赤い魚の夫婦 | 現代書館ウェブショップ
    https://gendaishokanshop.stores.jp/items/61028a581b946c4246e318a5

  • ペットのベタと夫婦、ゴキブリと少年、猫と妊娠する少女、菌と男女、台湾の蛇と父。
    5つのストーリーはどれも感情的で不安定で自己中心的な人間の煩悩や未熟さと、私たちの身近な生物達の本能に基づく生態との対比が「パートナー」としてというより「共存」という関係性で描かれている。

    動物や虫や菌にもそれぞれの生存戦略や考えがあって生きているのに、私たちは自分の心に余裕がある時しかそこに思いを馳せようとはしない。
    自分の人生ばかりに焦点が当たっている時は、すぐ近くにいてくれる人達のことさえ考えることができなくなるのだから、そのほかの生き物のことなんて意識できないのは当たり前のことかもしれない。

    そんな自分にも思い当てはまる自己嫌悪みたいな気持ち、日常の人間関係の中で芽生える憂鬱や絶望や不安な気持ち、さらにその中でほんの少しだけ抱く希望やさらなる絶望、なんかそんな人間ならではの自分ではどうしようもできない複雑な感情を読みながら抱くことこそが自分もしっかりと人間なんだなと思ったり。
    うまく言葉にできないけど、なんか不器用な人間というものが腹ただしくもなり、愛おしくもなった。

    翻訳者さんのあとがきを読んでメキシコ人作家の物語をもっと読んでみたくなった。

  • 語り手たちの不安感が言葉を持たない動物たちと重なって、ふらふらめまいがするような短篇集。主人公たちは状況に振り回され怯えているものの、あくまでも静かに自分で対処しようとするところがよかった。

    事態が悪化したときの配偶者やら恋人やらが、一様に話し合えない理解できない人たちに変わってしまうさまが怖ろしかった。そこに特段の説明はなく、語り手たちは人間のつながりをそういうものとして理解している。その世界観が怖かった。

  • まずはカフカやドイツの幻想文学を思い、
    フランス映画の香りも漂った。

    5つの短編、どれも面白くあっという間に読んでしまったけど、好きかと言われたら私には奇異が過ぎたかも。
    ただ、フェミニズム的な、開放された感じは好き。
    美しい比喩よりもリアルな感情描写が多いのかな。
    フランス映画を見てるように、いつも夫婦やカップルが苦悩して、別れていく。
    その理由のひとつ?あるいはきっかけ?それとも運命の中に、赤い魚や、ゴキブリや、牝猫、菌!そして蛇があるのかな。

    この本の中で私が付箋をしたのはなんとたったの一箇所。

    『牝猫』
    ルームメイトとの暮らしに疲れた主人公が、捨てられた子猫を引き取り、パートナーとして暮らし始める。ある日牝猫が発情期を迎え、彼女を憐れに思い、避妊薬か発情を抑える薬をもらえないものかと獣医に行くと、避妊手術を提案される。
    そこで主人公が言ったセリフ

    「子どもを産めなくするんですか?」「そんなことのために、先生は獣医になられたのですか?」

    これを言われて医者はすまなそうに黙り込む。私もこの医者も同じ気持ちだった。。
    その後、主人公も妊娠しちゃうんだけど…こういう視点は女性ならではだなー。

    短編だからとても楽しめたけど、長編になるとどんな感じなのだろうとかんがえてしまうけど。
    どうやらグアダルーペさんは村上春樹がお好きなようで、ちょっと親近感はありました。
    あと、小説を書くようになったきっかけが、視力のことでいじめられ、悔しさのあまり、いじめっ子たちを呪いにかけたりするお話を書き上げ、それをみんなの前で読まされたところ、続きを書いてと大喜びされ、それ以来書き続けている。

    というあとがきのエピソードが好きでした

  • ここ十数年ほど、スペイン語圏の女性作家の翻訳が極端に少ないことを気に揉んでいた訳者の宇野さんが、「スペイン語圏の女性作家もおもしろいぞ!」と思うきっかけの一つになれば、という思いで翻訳された短編集。

    著者のグアダルーペ・ネッテルは現代メキシコを代表する作家。
    家庭内の不穏な空気やひとの心の微妙な移り変わりを、人間以外の生き物を描くことによって可視化する。

    表題作「赤い魚の夫婦」は、オスとメスの二匹の魚を飼い始めた夫婦の話。オスは発情しメスはストレスの兆候があり、互いを傷つけ合ったので別々の水槽に移した辺りから、夫婦にも修復不可能な溝が生まれ・・・。その他、「菌類」や「北京の蛇」など、夫婦関係に悩んでいるひとに刺さる作品が多いのが印象的だった。

    本書を知ったのは、日本翻訳大賞のTwitterで、最終選考対象作品として紹介されていたから。今年は日本翻訳大賞の最終選考対象作品を全部読もうと思っている。

  • 短編集。
    タイトルになった短編は読了。

    友人にもらった魚を赤ちゃんが生まれたばかりの夫婦が飼う。
    その観察具合や気になり方が、生活の違和感など読んでいてそうだよなと共感もできた。

  • なんだろな、この面白さは。金魚とか猫とか虫とか蛇とか菌とか出て来るけど、あくまでリアルで現代的。ほかの作品も読んでみたい。

  • 寂しげで湿り気のあるそこに、わたしのよく知る姿がある。それはわたしのこと。喜びを大きく上回る苦悩と痛み、女であることの性(さが)。そんなわたしたちを生きものたちが俯瞰している。

  • 5編からなる短編集。
    夫婦、妊娠、格差、などをめぐる当時人物たちの心の微細な揺れがモノローグ形式で語られている。
    観賞魚からゴキブリ、蛇にいたるまで様々な生き物と絡み合いながらの展開で、善悪ふくめた感情の移ろいが逆にストレートに心にささる。

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著者プロフィール

Guadalupe Nettel
 1973年、メキシコ生まれの作家。メキシコとフランスを行き来して育つ。フェミニズムとジェンダーをテーマとした創作に取り組み、2008年にアンナ・ゼーガース賞受賞、ラテンアメリカ文学のこれからを担う39人のうちのひとりにも選ばれるなど、早くから期待を受ける。
 2013年に第三回リベラ・デル・ドゥエロ国際短編小説賞(本作)、2014年にはエラルデ文学賞を受賞するなど国際的に高い評価を受け、海外では毎年のように「今年のベスト10」に取り上げられる。
 初邦訳『赤い魚の夫婦』(2021年8月刊)が、2022年第八回日本翻訳大賞最終選考作品に。

「2022年 『花びらとその他の不穏な物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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