海軍の逸材堀悌吉: 海軍良識派提督の生涯 (光人社ノンフィクション文庫 120)

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  • 潮書房光人新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (300ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784769821205

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  • 山本五十六の親友として、また海軍良識派の代表格として知られる堀悌吉中将(除隊後は実業家へ転身)。この方の人生については、これまで細部に触れる機会もなく、対英米戦争突入に強固に反対したがために、予備役となり現役を退いたといった程度の知識しかなかった。本書は堀の幼少期から、海軍を志望し要職を担い、最終的には実業家として戦争協力をする事となった波乱に満ちた人生を描いている。
    堀は山本五十六が軍縮会議でヨーロッパを訪問している最中に予備役編入となったが、それを聞いた山本が怒りを込めて「巡洋艦一隻と堀とは海軍にとってどちらが大切か」と言わしめるほどの逸材であった。海軍兵学校時代では山本と同期(入学試験は山本が2位で3位が堀)で学び、山本からも生涯の共としてその後の人生を2人歩んでいく事になる。堀は学業成績は常に1番、人間性の面からも誰からも慕われる様な存在であった。とにかく頭の回転が早く、誰よりも状況を的確に掴み瞬時の判断においては誰も敵わない存在であった様だ。まさに戦場においては最も必要とされる能力ではあるが、士官時代に参加した日露戦争の悲惨な状況を目の当たりにし、戦争は悪であるとはっきり態度で示す様になる。似た様なタイプでは井上成美が思い起こされるが、井上も先輩である堀を相当に尊敬していた様である。
    戦争とは人の運命を数奇に変えていく。アメリカ留学で国力差をいやと言うほど見てきた山本が真珠湾を攻撃し、誰よりも戦争に必要な能力を備え海軍きっての逸材であった堀は、太平洋戦争開戦前に予備役に下る。山本は嫌いな戦争により殺され、堀は嫌いな戦争のために民間事業で支える事になる。戦争の残酷さは堀の人生を見ていく事で十分理解できる。
    堀の優れた人間性を知るに、家族との向き合い方についても本書では多く触れる。最初の妻が亡くなった際の描写もそうだが、次の妻が40代で結核により亡くなるシーンは、堀の優しさと家族への愛が伝わる場面として、読んでいて涙が止まらない。息子の正も同様に病気で亡くなり、親友の山本の死、その後の古賀峯一の死など次々と不幸に見舞われる堀の悲しみが伝わってくる。
    実業家として過ごした人生後半において様々な不幸に見舞われ、また戦争のための軍需産業に身を投じなければならない苦悩。先の大戦において、多くの国民が亡くなり国土が焦土と化し、何も無いところからスタートするしかなかった日本。そんな日本と家族の将来を憂いつつも、自身は最後に癌で亡くなる。葬儀に際して山梨勝之進の言葉に再び涙が出てくるのは、本書を読み進めるうちに堀の見に起こった不幸の多くに対する悲しみではなく、自身の信念を貫き通した1人の日本人の喪失からである。

  • 時勢・体制の恐ろしさが分かる。人間一人の力では抗えないのが時代である。

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