- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784772418348
作品紹介・あらすじ
ジャック・デリダとグレゴリー・ベイトソンに着想を得て、トラウマを抱えたクライアントとの仕事の中で考案された「潜?在(absent but implicit)」と「ダブルリスニング」をはじめ、治療文化の自然主義的ヒューマニズムに抗い、「本当の自分」ではなく「別の自分」になることを支えるコンサルテーションへと進むマイケル・ホワイト。
本書には、気鋭のセラピストとして後進の教育に当たりながら、ナラティヴ・セラピーの反響に伴うさまざまな疑問や誤解に熱く応答するホワイトの姿がある。九つの論考とインタビューを通して探求される概念は面接室とサイコセラピーの境界を越え、その省察は「人間精神の深み」ではなく「人生表現の厚み」を目指して展開する。
世紀の変わり目に自らの実践を振り返り、今世紀のセラピストが携えるべき問いを発する中期の重要論集。
感想・レビュー・書評
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原著は2000年にでているマイケル・ホワイトの「中期」の論文集。翻訳本としては、これが未訳で残っていたマイケルの最後の本で、これをもってマイケル本の翻訳は完結。ただ、本に収録されていない重要論文はまだありそうで、まだまだマイケルの思考を辿る旅はつづきそう。
「初期」のマイケルは、「外在化」と「再著述」がキー概念で、もちろん、その後もこれはナラティヴセラピーの最重要概念なのだが、だんだん、リ・メンバリングや定義的祝祭といった共同体的なリフレクティングのプロセスが重視されるようになった印象がある。
だが、だからといって、それは外在化と矛盾するものではなく、再・著述されたストーリーを他者との関係性を通じて、強化していくというプロセスであると思っていた。
そういう理解は多分間違ってはないのだけど、そこには理論や手法の単純な発展以上のものがありそうで、その辺のところを深堀するような論文、インタビューが収録されている。
前半の4つの論考は、子どもとの関係、消費文化、潜-在という概念、リフレクティング・チームの再訪など、とても面白いテーマが取り上げられいて、個人的にもどう考えるのか疑問に思っていたところも議論してあり、エキサイティングであった。
あと、いつも疑問に思っていたマイケルの「構造主義」批判については、マイケルのいう「構造主義」は私の理解する「構造主義」とは違うことが明確になったきがする。
マイケルは、ポスト構造主義をベースにしていて、構造主義は強く批判しているのだが、私は、ポスト構造主義は、構造主義の後に続くもので、反・構造主義ではないと思っている。つまり、構造主義においても、本質主義的な自己という概念は否定されているわけで、思想的には構造主義とポスト構造主義は連続したものだと思う。フーコーも構造主義として理解されているところも結構ある。マイケルが批判している構造主義は、多分、いわゆるフランス構造主義ではなくて、科学主義、自然主義、本質主義、啓蒙主義、個人主義的な方法論のことなんだろうなと思う。この本の説明を読んで、マイケル本で「構造主義」という言葉がでてくると、それは「科学主義」と読み替えて、大まか間違いないのかなと思った。
どの論考においても、自然主義的、個人主義的、本質論的なアプローチに対して、ナラティヴ・アプローチがやろうとしていること、つまり「人間の本質」を探究することではなくて、「人生表現の厚み」を記述していくことを目指していることが繰り返し語られていて、「これ、これ」という感じ。「やっぱ、マイケル最高!」と思った。
これらは、マイケルとしては比較的読みやすい感じで書かれているのかな?それとも、翻訳者がホワイトの文章を日本語化するのがなれてきたのか?あるいは、わたしがナラティヴにハマって、いろいろやっているうちに、おなじみの概念が増えて、わかりやすく感じてしまうだけなのかは不明。
後半は、インタビューなので、読みやすいかと思ったら、ここは結構、大変。
対談相手に自説をわかりやすく説明するという感じではなくて、専門的知識をもったセラピスト同士の緊張感のある議論というか、対話というか。一種、ポリフォニーな感じで、なにが問題になっているのかがしばしば見失いそうになるのだが、しばらく読んでいると、おお、そこに行くのか、という驚きがある。
おそらくは、最初から流れがきまっているわけではなく、まさに対話のなかで意味が浮かび上がっているんだろうなと、今まさに生成していくものをみるようなスリルがある。
テーマとしても、スピリチュアリティとか、倫理とか、政治運動との関係とか、わたしもナラティヴに関連して疑問に思っていたところを掘り下げるものが多く、自分のなかで考えが深まっていく満足感が得られた。
訳者の小森さんの解説も単純に内容をわかりやすく確認すると言う感じでもなく、マイケルの仕事を4つの時代にわけて、その議論の中心が動いていくさまを整理してくれている。いわゆる解説をこえたこれまたスリリングな論考で、後日、再読したい。
いろいろあるけど、「やっぱ、マイケルいいわ〜」としみじみとしてしまう味わい深い名著だな〜。詳細をみるコメント0件をすべて表示