ソウルフルな経済学―格闘する最新経済学が1冊でわかる

  • インターシフト
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784772695145

作品紹介・あらすじ

経済学は、いま「新発見の黄金時代」を迎えている。行動経済学、神経経済学、実験経済学、情報経済学、進化経済学、新制度派経済、新開発経済学-これらの最新分野が、私たちが抱えているさまざまな社会問題にどのように役立つのか?格差、幸せ、信頼などの核心は?情報と市場、経済と社会は、いかにリンクするのか?公共政策にどう有効活用できるのか?-最優秀経済ジャーナリストとして、ウィンコット賞を受賞した著者が挑む。

感想・レビュー・書評

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  • 『GDP――〈小さくて大きな数字〉の歴史』の著者で、twitter界隈で評価が高い経済ジャーナリストのダイアン・コイル。本書では、今の経済学が取り組んでいる最新のトピックに関してあれこれと紹介されている。内容が詰め込み過ぎて、自分みたいな経済学のプロパーでない素人には読み進めるのには、ちょっと苦労したが、論旨は明快なので読み難くはなく、最近の経済学の潮流を知るにはとても良い本だろう。稲葉振一郎先生の『経済学という教養』よりは断然読みやすかった。

    経済史、開発経済学、行動経済学、情報経済学、新制度派経済学など多岐にわたる現代経済学の紹介がされている。とくに分かりやすかったのは、第三章の開発経済学、第五章の行動経済学、第六章の情報経済学を扱った章で、初めてこれらに触れるにはいい入門となっているだろう。リーマンショック前に書かれたので仕方ないが、情報経済学を扱った章で「効率的市場仮説」に好意的な点は大きくマイナス。進化経済学はそれほど有意義な研究には思えなかった。一時期、持て囃されたブータンの実情が書かれた部分も印象に残った。余談だが、ネットでは日本のマスコミの「反成長主義」がどうたらとよく嘆かれているが、イギリスでも状況はあまり変わらないようで(P.11~P.12)、別に日本だけが特殊ではないようだ。

    熟達した経済ジャーナリストによる最新の経済学紹介本として素晴らしかった。それらの紹介をしつつも礼賛一辺倒ではなくて、距離を置いている姿勢は立派。最終章での俗流経済学批判論に対する回答も誠実である。度々比較に出して申し訳ないが、今から稲葉先生の「経済学という教養」を読むよりはこっちをお薦めするかなあ。

    評点: 9点 / 10点

  • 室田教授が訳された本として読む。実社会に経済学がどう貢献してきたか?しているか?を広範な文献を元に紐解く。専門家には、総説的な感じで、一般には、ややヘビーな印象を持った。

  • 最新の経済学の動向を豊富な研究事例とともに紹介。コンピューター計算や経済統計が普及した、ここ20年で古典的な合理的期待仮説などの仮定モデルから、行動経済学をはじめ、実際のデータを用いた実証分析を行い、心理学や社会学、進化論まで取り入れた”活きた”経済学とする取組み、研究が広く行われ、私たちの幸せに貢献する学問となってきている、とする。教科書には載っていない経済学の面白さを掴みたいなら手に取ってみるべき良書といえる。

  • 最新の経済学の動向やその有用性が専門家でない自分にも理解できた。最新の経済学の非常によいカタログ(巻末にレファレンスあり)になると思う。

  • 著者の中途半端な知識が鼻に付くばかりで、経済学に対する偏見は取り除かれるところか不信が強まるばかりだった。著者のいう幸福は効用の言い換えにすぎず、何が言いたいのかわからない。別に学問なのだから、知的好奇心があれば十分ではないのか。スミスやリカードを重商主義擁護のために非難する人などいないのだから。

  • 経済学なんて科学じゃないと言われる偏見に対して、「そんなことない!全然違うよ」と言い返した一冊。

    最先端の経済学の成果を広く浅くカバーしており、経済学に抱く誤解を解こうと努めている。

  • 「サラリーマンの悩みのほとんどには科学的な『答え』が出ている」からのリファレンアス。
    スタートレックに登場するミスター・スポックと名探偵ポワロを(そうするげきかどうかは別にして)かけあわせると、エコノミストたちの言う「正常な人間」が出来上がるとするw。
    経済学者に対する批判を踏まえた上で、果たすべき役割を模索する。政策という建屋において経済学で用いる数式は、終始すべきものではなく、骨組みと位置付けるべきであるとし数式やデータの利用がコモディティ化した現在こそ、改めて経済学の礎となった先人達の論文とその背景を評価すべきとする。
    良い論述ってのは熱を帯びてるもんだなー。精緻な視点と高い使命感に好感がもてる一冊。

  • 新書『サラリーマンの悩みのほとんどにはすでに学問的な「答え」が出ている』で、最新経済学理解におすすめの本として紹介されていたので購読。読むのに時間がかかったけど、経済学に対する誤解が氷解してよかった。

    (印象的な箇所のまとめ)
    <経済成長の原因>
    ・ある国、地域が他の国より経済成長を遂げる原因は何なのか? 労働力の増大なのか、資本の蓄積なのか、文化なのか、社会なのか、地理的要因によるのか? 単なる偶然なのか?
    ・「内的成長モデル」という最近の経済学理論によれば、経済成長の原因は、技術力の革新と、新しい知識の蓄積である。

    ・残業時間が増えても、1時間あたりの生産性は低下するように、労働力が増大すると、収穫は逓減する。これを収穫逓減の法則という。故に労働力の増大や資本の蓄積は、そのうち経済停滞を招く。
    ・産業革命のような技術革新が起きると、1時間の労働によって、技術革新前より膨大な生産が可能になる。技術革新は、収穫逓減の法則に従わず、収穫逓増をもたらす。
    ・知識の発展も、収穫逓増をもたらす。何故なら、労働力や資本はそのうち磨耗するけれど、新しい知識は公共財であり、みなに共有されるし、使い尽くされることなく何度も利用され、次の知識の礎になるからである。


    <GDPと幸せ>
    ・GDPによって国の成長をはかるのは、確かに問題がある。GDPの計算には、公害による社会的損失、家庭内家事労働、技術革新が考慮されていないし、経済発展しても、人々が幸福になるとは限らない。
    ・最近GDPに変わって、幸福を国の発展の尺度とする考え方が人気だが、何を幸せと感じるかは、個人の主観や地域の文化によって異なるし、GDPのように幸福量を計算するには、まだ学問的に無理がある。
    ・国家が幸福の基準を決めて、それを国家目標とすると、個人の幸福とずれて、個人が不幸になる場合もあるだろう。
    ・何を幸福と感じるか実験したら、セックスしている時一番楽しいという実験結果に至った研究もあった。快楽を目標とすると、GDPを目標としていた頃のような発展は望めない。一時的な満足と将来の幸福は異なる。


    <行動経済学、神経経済学、実験経済学>
    ・新古典派経済学が想定する合理的で自己の利益を最大化しようとする個人は、人間的でないと批判されてきた。
    ・心理学の成果を取り入れた行動経済学が最近人気。
    ・行動経済学は不合理に行動する個人の行動を研究する。
    ・行動経済学の研究成果をもって、個人にこうしなさいと経済学者が指示するのは、パターナリズムで危険である。
    ・行動経済学が隆盛したからといって、ミクロ経済学の学問的成果が全面否定されるわけではない。ミクロ経済学のモデルは、現実の経済事象に当てはめることができる。
    ・多くの個人が感情に基づいて、直感的に、非合理的に行動したとしても、なかには合理的に行動する個人がいる。個人の行動は非合理でも、最終的にミクロ経済学が描いたような市場均衡に至る場合がある。これは、合理的な個人の行動を他の人たちが学習して、模倣することによって生じると思われる。
    ・実験経済学という分野では、教室で少人数で市場ゲームのシミュレーションをする。実験の結果、経済学が描いたような市場均衡に到る場合が多い。まず実験をしてから、経済政策をうつという手法が効果を出している。

    <経済学はこの四半世紀で黄金期を迎えた>
    ・経済学を批判する人は多いけれど、経済学内部でもかつての合理的に行動する個人、新古典派の経済モデルは批判的に考察され、内的成長モデル、行動経済学、神経系在学、実験経済学、進化経済学などの成果を生み出している。
    ・コンピューターの発展による大量データ解析が経済学の発展を生み出したし、政策にも効果を上げ始めている。

  • すでに時空間にいながら時間を別立てで二重に加味しているからだろうか
    人間は得体の知れない脅迫感に襲われて利息という自然界に逆行する
    不自然なシステムを持ち込んでしまったのかもしれない
    あるいは悪魔的誰かが意識的に人間社会を混乱させておいて
    甘い汁を吸おうとしているのかもしれない

    そもそも裏方であるはずの経済や政治が表舞台にしゃしゃり出て
    タクトを振って人間に指図していること自体がおかしい
    更に実業家を加えたそれを
    実質的に管理してしまっている官僚の在り方も本末転倒である

    子供達が楽しく自由に遊んでいる所へ
    見守るべきはずの親が大人の世界のルールを持ち込んで
    自由闊達だった遊びを奪い
    ダメダメ・イイコイイコと去勢してしまったようなものだ
    挙げ句の果てに親たちがお互いの権利を持ち出して争いだすしまつ
    こんな状況で騒いでいるのが学問の世界なのかもしれない

    経済学がソウルフルな科学だと提言するこの本も
    人間の魂に触れるということではなく
    魂を見失って熱中している人々の物語のようだ

    確かに学者と実践者は違うであろう
    しかし実践者である実業家や政治家にその手段と保障を与えているのも事実だろう
    学者だけが高みの見物というわけにはいかないのではないだろうか

    距離と時間の合理性ばかりに縛られずに
    急がば回れ・の精神を取り戻す必要がありそうに思う

  • 経済学(開発経済)に興味のある人にとっての入門書としてかなりいい。
    内容は、浅く広く今の経済学の流れが書かれているが、少しばかり基礎知識があるとより理解が深まると思う。

  • 最新の経済学成果を平易に伝える一般書。たとえていうならば、小島寛之さんの使える経済学的思考のグローバル版。扱う分野が広範囲で、色々な側面から愉しめる。

  • 現代の経済学の苦闘状況を包括的に紹介してくれている。そういう意味で、とても参考になる本です。経済学を過信せず、また同時に軽蔑することなく、人間にとって部分的にしろ、限界はあるにしろ、有用な科学を適切に使いこなそうとする態度は正しいものと私も考える。そんな態度で学ぼうとする人には、とても有益な経済学入門書だと思います。

  • 経済学でこんなことがわかりますあんなことができます、というおもしろ化学実験的な読み物を予想して読み出したら、思った以上に読み応えのある本格的な内容。実験経済学、開発経済学、神経経済学、計量経済学など広い分野を駆け足で追いながら、経済学の最前線で何がおこっているのかを説明しているのだけど、どの分野を説明でも著者の一本通った視点がある。それは”経済学は人間や人間社会を幸福にするための学問”だということ。この視点を常に外さないで話が進むから、広い範囲をカバーする内容でもついていける。それだけ、著者の問題意識がつよいということなんだろう。

    そして、その”人の幸福”という論点こそが、経済学が批判にさらされるいちばんの部分なんだと思う。経済学は金の話しかしていなくて冷徹で非人間的な学問だ、合理的な人間とか効率的な市場とか現実からかけ離れた机上の空論だ、と。でも経済学者は100年以上昔から人間のこと人間社会のことを考えてきた。さらに最新の経済学は批判者が思い描く経済学像のもっともっと先を走っている。要するに、非人間的な経済学という批判は、ひとえに経済学への無知から来る誤解にすぎない。経済学はみんなが思っているよりもずっとソウルフルだってことがこの本を読むとよくわかる。

    原題は「Soulful Science」。経済学にソウルフルなものとそうでないものがあるんじゃなくて、経済学=ソウルフルな科学。経済学そのものの謂いがSoulful Scienceということ。それだけ、経済学に対する著者の確かな信頼が伝わってきます。

    【メモ】
    幸福とは経済状態と心理状態の有益な結合から生まれる
    均整のとれた成長理論は、人的資本とプロダクト・イノベーションの二つを考慮する必要がある
    すべてのエコノミストは、制度が重要である、ということに同意する
    お互いへの信頼が、経済発展の基本要因である

  •  「ソウルフルな経済学」という題名から、なんだか怪しげな経済学の本と思ってしまう人もいるかもしれない。全く逆だ。最先端の経済学を、一流のジャーナリストが、誰にでも分かるように説明している。誰もが経済学に抱く誤解を解いてくれる。
     イギリスに滞在していたとき、私は著者が当時書いていた「インデペンデント」誌の経済コラムを愛読していた。経済学の最先端をみごとに一般向けに説明できるジャーナリストが存在するということに、驚いたことを覚えている。
     日本に彼女のようなジャーナリストがいたならば、日本の経済政策のレベルはもっと高くなっていたのではないだろうか。本書は、これから経済学を学ぶ人や大学の1年生向けの経済学の授業の副読本に最適だ。一般の人で経済学に懐疑的な人にこそ読んでもらいたい。(大竹文雄ブログ:2008/12/16)

  • 本書は、基本的に今までの経済学を体系的にまとめ、尚かつ最新の経済学研究を
    紹介し、今後の経済学行く道を考察する内容になっている。

    よって、ある程度「経済学」を学んだ事がある人にとっては、とても良い内容に
    ないっていると感じるが、個人的には飲み込みにくかった。(速読しているから
    かもしれないが)

    大きな流れとしては、数学的理論とデータ分析方法の物理的・理論的発展によって
    経済学が大きく発展してきた。そして、今は経済学は人間により歩み寄っている。
    という事だ。つまり、行動経済学の事を指している。行動経済学のすばらしさは
    何処を向いても言われている。それだけ、人間が置き去りにされてきた証拠だろう。

    個人的には、本書の中で最も興味があったのは、

    1.第3章 いかにして貧困を過去のものとするか
    2.第4章 経済学は幸せにどう役立つか

    1については、普段何気なく行っている「援助」について考えさせられる内容に
    なっている。確かなNPO団体に行う寄付は、良いとして、政府や大きな公的機関が
    行っている援助は、逆の効果をもたらすという指摘である。確かに、不合理な政府に
    対して援助を行っても、不合理な使い方しかされないのであれば、意味がない。

    2については、つまり「幸せ」とは何か?どのように図れるのか?とい問題から
    考察を始める。絶対的なものもあれば、相対的なものもある。日本国内においては、
    相対的な問題が多いかもしれない。また、人は貪欲であるが故に、どのような結果で
    あっても、それ以上を望む傾向がある事も憶えておくべき指摘だろう。

    まぁ、なんにせよ経済学は黄金期だ。よって、概要を把握しておく事は時間的にも
    文字通り知識的にも、損にはならないだろう。

  • 挫折。いつか読み直そう。

  • Amazonより紹介メールがきました。

    Webで見る限り、装丁はダサイと思うのですが、
    その内容や、目茶苦茶そそられるじゃないですか!

    う〜ん、今日、大ヒットとおぼしき本を購入したばかりなんですけどね〜

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著者プロフィール

ダイアン・コイル(Diane Coyle):経済学者、ジャーナリスト。オックスフォード大学ブレーズノーズ・カレッジ で学び、ハーバード大学で経済学のPh.Dを取得。民間調査会社のシニア・エコノミストや『インディペンデント』紙の経済記者などを務め、2000年には卓越した金融ジャーナリストに贈られるウィンコット賞を受賞。以後、英国財務省のアドバイザー、競争委員会委員、マンチェスター大学教授、BBCトラスト理事長代理などを歴任。現在は、ケンブリッジ大学公共政策教授、同大学ベネット研究所共同所長。おもな邦訳書に『GDP――〈小さくて大きな数字〉の歴史』(みすず書房、2015年)、『ソウルフルな経済学――格闘する最新経済学が1冊でわかる』(インターシフト、2008年)がある。

「2024年 『経済学オンチのための現代経済学講義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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