インド洋圏が、世界を動かす: モンスーンが結ぶ躍進国家群はどこへ向かうのか

  • インターシフト
4.50
  • (5)
  • (5)
  • (0)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 80
感想 : 4
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (528ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784772695329

作品紹介・あらすじ

中国・インドの台頭によって急速に変貌しているインド洋圏は、どこへ向かおうとしているのか?アフリカ東部から、アラビア半島、インド、東南アジア、中国まで、現地取材をとおして、その複雑な力学と多極化する未来の構図を明らかにする。米政権ブレーンにして、「100人のグローバルな思索家」に選ばれた著者による徹底考察・未来戦略。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/673236

  • 久々に読み応えがあり、知的刺激に富む労作でした。それにしても、アングロサクソンは、物事を俯瞰的に捉え、一つのテーマで絡め取ってしまう稀有な才能があります。読み終わると、見事にカプランのロジックでインド洋圏を見る自分がいました。
    中国は敵対すべき相手ではなく、ソフトなパワーバランスこそが、これからもリーダーシップを保持する米国の道だと説いています。「100人の思索家」とされる筆者の視点は胸に留め置きたいと思います。インド洋圏の国々の歴史や現状に無知であったので、基礎知識を得ることもできました。

  • 本書の著者、カプラン氏は元々は国際的なジャーナリストとして知られており、2008年からはワシントンにあるシンクタンク「新米国安全保障センター」の研究員の職につき、現在アメリカ国防総省の防衛政策協議会のメンバーでもあります。

    本書は著者が実際にインド洋沿岸各国に赴いた時の経験をもとに執筆されており、これらの国家の発展が21世紀の世界にどの様な影響を与えていくかと言う点のみならず、アメリカの政策に影響を与える立場にいる著者がそれらの動きに対してどの様な考えを抱いているかと言った点がうかがい知れる本となっています。

    内容の方は1章でインド洋圏をめぐる中国とインドの動き等、この地域の将来見通しにふれ、21世紀は世界の中心はインド洋圏になると言う考えを紹介しています。
    その後、アラビア半島の先端にあるオマーンから東へ順番にインド洋沿岸各国の内情を解説し、インドネシアまで紹介した後、中国のインド洋戦略の根底にある考えを解説。
    そしてアフリカに戻り、海賊で有名になったソマリア、その南にある島、ザンジバル島について解説し本書を締めています。


    本書によれば、

    インド洋圏は元々モンスーンを利用した貿易活動により、ヨーロッパ人が侵入してくる以前から密接な結び付きがあったと言う点。
    そして同地域は、貿易活動と共に普及したイスラム教の影響が強く見られる地域でもあると言う点。

    この2点が将来の同地域、そして世界全体に強い影響を与えるようです。
    また、アメリカ、中国、インドと言った現在の大国、および大国化への途上にある国々でも支配的な立場を確立することはできず、代わりに同地域の貿易システムが同地域、ひいては世界全体への影響力を持つようになるとの事。

    つまり著者は、突出したパワーを持つ大国が世界秩序を構築する時代は終わり、アメリカ海軍の艦艇数の減少や中国とインド海軍の増強等により、これまでアメリカのみが保証してきたインド洋の安全が、日本や韓国なども含めた複数国家の手によって保証される未来が待ち受けているかもしれないと予想しています。

    そして、そのような世界において、アメリカは津波などの大規模災害時の緊急救助活動を通して、同地域において少なくとも必要とされる存在となる事を目指すべきと主張しています。


    本書には、日本ではあまり報じられることの無いインド洋圏各国の強みや弱味、マラッカ海峡やホルムズ海峡と言った”急所”を避けようとする中国の動きなど、興味深い内容が多数記載されています。
    また、実際に著者が現地に赴いたときの様子(風景や現地であった人々の様子など)と言った内容もあり、旅行記的な側面もある一冊となっています。

    原著の出版が2010年の為、内容が若干古めの所もありますが、視野が広がるのは間違いがない本となっていますので、興味のある方は一読されては如何でしょうか。

  • なかなか読みごたえのある一冊でした。  本の厚さ & 重さもさることながら、やはり KiKi にとっては未知のエリアについて詳細に書かれていた本だったという意味からして、ゴロリと横になってさらさらっと読むには歯応えがありすぎで、同時に時に世界地図やらネット情報を参照しながらでないとなかなか読み進められない部分もアリで、久々に「知識を得るための読書をしたなぁ!!」と感じます。

    今、世界的に「7つの海」と呼ばれている海は「北大西洋」、「南大西洋」、「北太平洋」、「南太平洋」、「インド洋」、「北極海(北氷洋)」「南極海(南氷洋)」の7つ(上図参照)だけど、中世アラビアでは「大西洋」、「地中海」、「紅海」、「ペルシャ湾(アラビア湾)」、「アラビア海」、「ベンガル湾」、「南シナ海」を7つの海と呼び、中世ヨーロッパでは「大西洋」、「地中海」、「黒海」、「カスピ海」、「紅海」、「ペルシャ湾(アラビア湾)」、「インド洋」を7つの海と呼び、これがあの大航海時代になると「大西洋」、「地中海」、「カリブ海」、「メキシコ湾」、「太平洋」、「インド洋」、「北極海(北氷洋)」と変化していったと聞いたことがあります。

    上記のいずれの「7つの海」定義にも今回読了したこの本がとりあげている「インド洋圏」はその全体か一部分のみかはさておき、ちゃんと含まれているにも関わらず、KiKi にとってはさほど親しい海域とは呼べずにここまで生きてきていることにまず少なからずショックを受けました。  地図上の日本からの距離感からすれば地中海やら大西洋なんかより遥かに近いのにも関わらず、現代日本が依存している様々な物資の通り道であるにも関わらず・・・・・です。  要するにこのエリアに興味を抱いたその度合いが大したことなかったんですよね~。  

    最近(というよりもう何年も前から)、中国の世界戦略関係のニュースを読んだり聞いたりする際に、このインド洋圏地域への進出の話がひっきりなしに聞こえていたりもしたわけだけど、それでもさほどその戦略にもこの地域の文化にも積極的な興味を持ったことがあったとは言い難い KiKi。  今回この本を読んでみて「あれまあ、知らないうちにそんなことが?」と何度思ったことやら・・・・・・。  

    今回、この本を読んでいる中でかなり勉強になったのは、地図の見方に関してです。  KiKi は世界地図をイメージする時、学生時代の地図帳の最初もしくは最後の頁にあったメルカトル図法の世界地図をイメージするわけだけど、この地図だとインド洋及びその周辺地域に自然と目がフォーカスされるという経験が全くと言っていいほどなかったような気がするんですよね~。

    まして「海の繋がり」という観点であんまり物事を見て来なかったような気がするんですよね。  正直なところ今回この本を読むまで「スエズ運河」がどういう意味を持つインフラだったのか、KiKi はちゃんと理解できていなかったように思うんですよ。  もちろん知識として「スエズ運河は地中海と紅海(スエズ湾)を結ぶ、海面と水平な人工運河で、この開通によりヨーロッパとアジアはアフリカ大陸を回りこまずに海運でを連結することができるようになった。」とは知っていたんだけど、今回この本を読んでその意味する本当のところがしっかりと KiKi の中に落ちてきた・・・・・そんな感じです。

    これが米国で使われる地図だと地図の真ん中に来るのは当然のことながらアメリカ大陸で、アメリカ大陸の左側には太平洋が、右側には大西洋がドド~ンときたらインド洋への関心があまり喚起できなかったとしても無理ないなぁ・・・・と。  で、ヨーロッパの国々の地図だったら今度は太平洋が分断された絵になる(つまり太平洋の大きさはこの絵よりも感じにくい)のだろうし、これに反してユーラシア大陸という大きな大陸の印象が強くなるだけに、早くから交易相手として意識されていたのもさもありなん・・・・・と。

    そうやって考えてみると子供時代にどんな地図で地理を学んだのか?ということにこれまで KiKi は意識を向けたことがなかったんだけど、実はそれって想像以上に重要なことなのかもしれません。  今まで「地域地図」(「アジア」とか「南米アメリカ」とか「ヨーロッパ」とか「アフリカ大陸」とか)かこの構図(↑)の世界地図ばかり見てきた KiKi は「中心点をずらした世界地図」をイメージしたことが皆無と言ってもよかったように思うんだけど、その必要性を痛感した読書だったように思います。

    又、この本の中で著者も何度か繰り返しているように、このエリアの特徴と言えば、政治・経済的には安定せずどことなく混沌としているイメージが強く、宗教という観点にたてば日本人にとってもっとも距離感を感じる(要するによくわからない)イスラム圏だったりもします。  生活文化的な部分でも「豚肉は食べない」とか「お酒は飲まない」とか、要するに何気に「仲良くできなさ感(個々人に対する好き嫌いとか人種に対する感慨とは別次元で、例えばこの文化圏の人と一緒に暮らしたら息が詰まっちゃうような気がする感覚)」まで漂う国々であるだけに、ある種の心理的壁みたいなものも醸成されちゃってきたように思うんですよね。

    でも、今回この本を通読してみて感じたことの1つはこのエリアが混沌としている原因の1つは東西の文化交流(というよりは物流?)の交差点にある国々であり、それだけありとあらゆるものが通過していった(雑多なモノ、ヒトに晒され続けてきた)ゆえの「思想・活動の一本化の困難さ」みたいなものがあったのではないか?ということでした。  同時に赤道に近い気候風土ということで「じっくり物事を突き詰めて考えることの困難さ」みたいなものもあったのかもしれません。  少なくとも KiKi なんかは猛暑日が続くとあれこれ物事を考えるのは面倒くさくてたまらない・・・・・ ^^;



    この本の中で KiKi がかなりガツンとやられた一文は以下の一文でした。

    アメリカは民主制度を、法律や選挙のような基準から杓子定規にとらえすぎる傾向があるように思う。  中東のような国々における「民主制度」は、公式な手続きというよりも、統治者と被統治者のあいだの非公式な相談というかたちに近い。  アメリカ人は自国の恵まれた歴史という「善きなるものの一致」のおかげで、「善いもの」はすべて同じ源泉、つまり民主制度、経済発展、もしくは社会改革などから来るものだと信じている。
    これって著者が米政権のブレーンだし、衰退傾向にあるとはいえ現段階ではまだ「パクス・アメリカーナ」の余韻が残っているだけに主語が「アメリカ」になっているわけだけど、その西欧先進文化(文明)を死に物狂いで吸収してきた我が「日本」もその考え方にある意味毒されている部分はあったりもするわけで、そうであればこそ「混沌 ≒ 未発達」というプロトタイプで物事を捉えすぎているきらいがあったのかもしれないなぁ・・・・と。

    いずれにしろ、これまで KiKi がまったく気が付いていなかった多くのことに「気づき」をくれた貴重な1冊だったと思います。  「献本いただき感謝!」の1冊でした。

全4件中 1 - 4件を表示

ロバート・D・カプランの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×