悪意の科学: 意地悪な行動はなぜ進化し社会を動かしているのか?

  • インターシフト
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784772695787

作品紹介・あらすじ

●嫌がらせ、意地悪・・人間の心の闇にひそむ悪意は、
 なぜ進化し社会を動かしているのか? 
 ・・悪意の起源から驚きの効用まで、人間観をくつがえす傑作●

人間関係、ビジネス、政治、SNS、神話、文学、テロ、宗教・・・
具体例をもとに、悪意の力を解き明かす。

・悪意はなぜ失われずに進化してきたか?
・悪意をもたらす遺伝子、脳の仕組みとは?
・なぜ自分に危害が及んでも意地悪をするのか?
・善良な人まで引きずり下ろそうとするわけ
・「共感」は人間が本来持っている性質か?
・悪意と罰の起源とは?
・悪意にはどのような効用・利点があるか?
・悪意をコントロールするには?

・・・脳科学・心理学・遺伝学・ゲーム理論などの最新成果を駆使して、
まったく新しい人間観が示される。

★ニューヨークタイムズ激賞ーー「挑戦的で奥深く、しかも楽しめる!」
★「実に驚くべき洞察だ!」ーーデビッド・ロブソン『The Intelligence Trap』著者
★「人間の社会行動における必読書」
 ーーパトリック・フォーバー(タフツ大学、生物哲学・准教授)

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::著者:: サイモン・マッカーシー=ジョーンズ
ダブリン大学トリニティ・カレッジの臨床心理学と神経心理学の准教授。
さまざまな心理現象について研究を進めている。幻覚症状研究の世界的権威。
『ニューサイエンティスト』『ニューズウィーク』『ハフィントンポスト』など多数メディアに寄稿。
ウェブサイト『The Conversation』に掲載した記事は100万回以上閲覧されている。

::訳者:: プレシ南日子
翻訳家。訳書は、アレックス・バーザ『狂気の科学者たち』、
サンドラ・アーモット&サム・ワン『最新脳科学で読み解く0歳からの子育て』、
ジャクソン・ギャラクシー&ミケル・デルガード『ジャクソン・ギャラクシーの猫を幸せにする飼い方』ほか多数。

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::目次::

はじめに・・人間は4つの顔をもつ
第1章・・たとえ損しても意地悪をしたくなる
第2章・・支配に抗する悪意
第3章・・他者を支配するための悪意
第4章・・悪意と罰が進化したわけ
第5章・・理性に逆らっても自由でありたい
第6章・・悪意は政治を動かす
第7章・・神聖なる価値と悪意
おわりに・・悪意をコントロールする

感想・レビュー・書評

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  • 「悪意」という言葉が本著のタイトルとして的確なのかは、微妙な所。内容も最後通牒ゲームや独裁者ゲームなどをその読み解きに用いての論説。ただ、定義はどうあれ、面白い。

    最後通牒ゲームとは。相手の提示するお金を受け入れて手に入れるか、それを断るか。断る場合は双方がもらえない。受け入れる場合は残りの金額は相手が受け取る。選択権は1回だけだから最後通牒という。要は、相手に得をさせたくないから、自分の権利も放棄するかどうか。

    幼少期、似たような空想をした事がある。宝くじを当てて億万長者になるなら、どの範囲までの知り合いが良いか。親なら素直に嬉しい。兄弟も許容範囲。親友ならどうか。ただのクラスメイトと、全く知らない人の場合はどうか。結論は、見返りと嫉妬のバランスで決まる。更に、嫉妬の根源は、欲求争奪の射程範囲圏による、だった。

    さて、最後通牒ゲームでも、結果的に自分は何ももらえなくても、相手が得するのを拒む事が実証された。この実験は10ドルを原資に行われたが、金額が少な過ぎるのではないかという多額での検証も行われ、同じ結果。他に、マチュピチュに近いマチゲンガ族での実験やアルコールに酔った人による実験結果も紹介される。

    公平な人々が最後通牒ゲームで低額オファーを拒否するのは、コミュニティーの公平性の基準に違反した人を罰するためなら、代償を払う覚悟があるから。私たちは分け前が与えられると、分け前を多めにもらった人々がそれに値するかを考える。そして不相応だと判断したら、悪意のある行動をしがちだという事だ。人間が不公平を罰するのは正義を守るのは気分が良いからだ。人間の脳は正義を行使するチャンスを見つけると、コカインを摂取するチャンスを与えられた時と同じように反応する。

    読み解きは続く。正義感だけではない。人類だけが、自分には無関係な第三者をコストをかけてまで罰する。それは純粋な正義感ではなく、嫉妬や自らの存在を見せて警告することで悪意のある行動をとった相手からより協力的な態度を自分に対してだけ引き出すための振る舞いだ。利己的な行為、と理解すれば納得感がある。

    自分と相手の健康や生活の豊かさを比較し、相手をどれだけ重視するかを表す厚生トレードオフ率という言葉がある。新しい出来事が起こるたびに更新する。彼らはこの率を用いてあなたとどう接するかを決めている。最後通牒ゲームで低額オファーを出した相手に怒りを表すことで、将来的に相手があなたにより重きを置くよう教育できるのだ。厚生トレードオフ率という言葉は初耳だが、よく分かる。

    種としての最適化を導くため、更に自らのヒエラルキーを確保するために、人は悪意を発揚する。そして、その悪意は時に正義という言葉に換言され、敷衍される中で正義が純化され、悪意は忘れ去られ、やがて信仰となる。正義と悪意は裏表ではなく、同一線上にあるのかも知れない。

  • 意地悪を本能に組み込まれた行動として考えたことがなかったので、かなりおもしろかった。人間は正しいことをしているつもりで意地悪をするけれど、実際は相手を傷つけたいだけだったり自分の地位を上げたかったりするからとのこと。DVする人の論理は一般人にも刻まれている。

    悪意によって正義が保たれたりコミュニティが維持されたりする効果もあるけれど、それらは目的ではなくて結果。「正しい」ことをするとお脳に快感物質が流れるらしいので、正義中毒にならないためにも、感情と行動を分けるように気をつけなくては、という気持ちになった。禅僧を集めて実験したら意地悪する人は少なかったそうだ。修行しているだけはあるんだな。

    一番多くページが割かれているさまざまな悪意を測るゲームの記述はややこしいので「図にしてください!」と思いながら何度も寝落ちしたが、それらをベースに展開するさまざまな研究の紹介が興味深い。社会的な孤立が無敵の人を作ってしまう過程や、保守とリベラルに人のタイプが分かれる理由がわかる。参考文献リストも充実していて、これから読んでいくのが楽しみ。

  • 他人を落として自分が利益を得るのは利己、しかし悪意は自分が損害を被る(可能性がある)ことを承知で他人を落とすこと、と本書では定義される。
    そんなもの、生存には不要では?なのになぜなくならない?という疑問を、多くの実験や文学から考えていくのがとても面白い。
    悪意に関する脳の働きにはゾッとした。
    悪意というのはほぼ誰しもが持つもので、それならばそれを有効に活用していこう、と意外にも着地点は楽観的。
    まあでもそうだなぁ。

    『「第4の行動」である悪意は人間の性質の重要な一部だ。自らコストを負担して他者に害を与える意欲は、良いことにも悪いことにも使える。また、悪意は他者を利用するためにも他者から利用されないようにするのにも役立つ。不公平が存在する限り、人間には悪意が必要であり、悪意がある限り、不公平はなくならないだろう。悪意は問題の一部であると同時に解決策の一部でもあるのだ。』

  • ダブリン大学准教授の心理学者によるポピュラー・サイエンス本。

    タイトルのとおり、人間の悪意にさまざまな角度から(心理学・脳科学・人類学・ゲーム理論など)科学のメスを入れている。

    本書で扱う「悪意(spite)」は、一般的イメージよりもかなり狭義だ。自分が得するために悪をなす、単純な利己心に基づく悪意は扱っていないのだ。

    自分が損をしてでも人に意地悪をしたいと思う、不合理な悪意の謎――人はなぜそのような悪意に基づく行動をするのか――に迫っている。

    たとえば選挙において、人は自分が嫌いな候補者に意地悪をするためだけに、社会のためにならない(したがって、自分にとっても損になる)対立候補に投票することがある。

    本書で扱うのは、そのような悪意だ。トランプを大統領にした要因の一つもそんな悪意だったと、著者は分析する。

    「人はなぜ利他心を持ち、自己犠牲的な利他行動に喜びを感じるのか?」という謎を心理学的に探究した本は、すでに多い。これはその裏返しのような本だ。

    「意地悪な行動はなぜ進化し社会を動かしているのか?」という副題のとおり、自分が損をしてまで人に向ける悪意の行動――その不合理性の背後にあるものに迫っているのだ。

  • ヒト特有の悪意は何を意味しているのか?この難題に本書はアプローチする。哲学や政治、心理学実験を踏まえ分かりやすく論を展開するため難しいテーマではあるが読みやすい。心理学や政治に興味がある方におすすめの本です。

  • 英国人の臨床心理士が、悪意について研究結果をまとめたもの。自らを犠牲にして相手に損害を与える「Win-Win」の逆の「Lose-Lose」を進んで行う心理を分析している。ただし、内容が発散していて、納得できる箇所は少なかった。悪意とはどういうものかの定義が曖昧で、捉えにくい内容であった。
    「(戦後のドイツにできた(反ナチズムで))資本主義、帝国主義、ファシズムの打倒を目指す急進的左翼組織(ドイツ赤軍)が誕生する。しかし、マルクス主義を掲げ、マシンガンを振りかざす無秩序な若者の集団の例に漏れず、結局のところドイツ赤軍もただ流血事件を起こしただけだった」p14
    「最後通牒ゲームで定額のオファーを悪意で断った人々について詳しく観察すると、この集団には2つのタイプの人がいることがわかる。一方は平等主義、もう一方は支配のために悪意のある行動をしているのだ」p46
    「人間はオオカミを家畜化してイヌをつくっただけではなく、自分たちも家畜化して、攻撃的なサルから穏やかで忍耐力のある生き物に変わったのだ」p52
    「公平な人々が最後通牒ゲームで定額オファーを拒否するのは、コミュニティの公平性の基準に違反した人を罰するためなら代償を払う覚悟があるからだ」p58
    「(強い互恵性を持つ)互恵性とは好意には好意で、親切には親切で、意地悪には意地悪で応えることだ」p58
    「人に親切にするという規範を持っている人ほど、最後通牒ゲームで定額オファーをよく断るのだ」p59
    「(最善は善の敵)成功しすぎると、人は支配的になるかもしれないと恐れられてしまう」p86
    「仮に政府が最低賃金の引き上げを提案したとしよう。あなたは誰がこの提案に最も強く反対すると思うだろうか? 答えは最も高賃金の人々ではない。なんと現行の最低賃金よりも少しだけ多く稼いでいる人々が反対するのだ」p91
    「絶対的な利益よりも相対的な優位を選ぶ傾向がある。最低賃金の引き上げを拒否するのは、相手より上になる、あるいは上でいるために自分と相手に害を及ぼす、支配的悪意に基づく行動を象徴しているといえる」p92

  • じっくり時間をかけて読めばとても面白い内容のように感じたのですが、翻訳本特有の読みづらさがあったのと、ちょうど読むべき本が溜まってしまったタイミングにあたったことから、やや斜め読みになってしまいました。

    インターネットの普及で、コストをかけずに匿名で悪意をばらまくことができるようになってしまった今、とても難しいテーマだと思いました。

  • 人は自分が損をしても相手を罰しようとする。

    面白いことに、悪意は悪人だけでなく善人にも向けられる。
    進化的な戦略として悪意は地位を高めるための競争道具として用いられてきたと考えられている。
    その結果、善良な人の行いが社会的に認められると、逆説的に自分の相対的な地位が下がるため、その人の足を引っ張ろうとする。

    悪意と罰の関係では、
    罰を与えるのは協調性を促すためではなく、相対的地位を高めるために悪意が先に進化し、その後この傾向を罰という別の用途に活用したというのも直感に反していて面白い。

    人は明らかに報復のために行動している場合でもそれに気づかないことが研究によって分かっている。
    それどころか人は悪意という狼を隠すために、羊の皮を被るのだ。
    つまるところ人は競争が好きで、道徳的に、常識的にといった卑怯な言葉で他人を蹴り落とすのである。
    今日、ネット上では、誹謗中傷や善行への批判という形で、悪意が現れている。インターネットでは、他者を罰することが容易でコストがかからないため、悪意が助長されやすい。
    特に日本人はこのスパイト行動が顕著であるとのデータもある。
    著書はネットの悪意には匿名性に利点があり手放したくないことから、個人が責任を持つしかないと語る。ただし自分を客観視することは難しいため、悪意を制限する仕組みを導入する必要があることを論じている。
    悪意や怒りをコントロールするには、悪意を減らすための合理的で慎重な思考が必要である。
    悪意の進化的起源と現代社会への影響を理解することは、その悪影響を軽減し、より協力的で思いやりのある世界を構築する手助けとなるかもしれない…

  • 「悪意の理由は単純だ。悪意のある行動をとるととくをするからだ。」悪意+時間=利己主義

  • 最後通牒ゲームとそれに付随する損得勘定の話が7割、他の本の抜粋が1割、他の人が実験・調査して得たデータとか結果の転載が1割ちゅー感じで、もっとオリジナルの違った視点からの話せんかい
    卒論の文字数稼ぎの手法みたい

    タイトルと内容の乖離がすごい

    フェラーリとランボルギーニの話が1番おもろかったわ

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著者プロフィール

ダブリン大学トリニティ・カレッジの臨床心理学と神経心理学の准教授。
さまざまな心理現象について研究を進めている。幻覚症状研究の世界的権威。
『ニューサイエンティスト』『ニューズウィーク』『ハフポスト』など多数メディアに寄稿。
ウェブサイト『The Conversation』に発表している論評は100万回以上閲覧されている。

「2023年 『悪意の科学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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