ハバナへの旅

  • 現代企画室
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  • Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784773801002

作品紹介・あらすじ

著者が自由を求めて亡命した国=米国は、すべてが金次第の、魂のない国だった。忘れがたい故郷への幻想帰還旅行を描いた表題作ほか2編を収録。

感想・レビュー・書評

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  • ハバナの海岸や数々の路地に散乱した魂の欠片を取り戻すなど、打ち寄せる波を止めるのと同じくらい難しい。
    空と海、光と風との合奏の調和は記憶のなかでしか実現されない。今現実にあるのは廃墟の街、廃品の山、廃絶した栄華、それから錯乱した法律。ニューヨークのアパートには平和や生や愛の死骸を横たえる。雪が無関心に、都市の欺瞞を隠すように降りしきる。
    孤独と絶望はどこにでもある。自由は一体どこにあるのか。
    あのとき、岩場でうずくまって流した悲嘆の涙は、波に乗り、沖へ運ばれ、どこかへ届くのか。
    《2015.08.23》

  • 自由への希求と絶望は背中合わせ。体制に反発し締め出されたゲイの亡命作家には、新天地にすら心休まる居場所はなかった。アレナスは旅をする、自由を求めて言葉でもって。奇抜な服装でキューバの街々を驚異の色彩に塗り替えても(「エバ、怒って」)、亡命先のニューヨークで謎めく美女に魅せられ狂気に彷徨い歩こうと(「モナ」)、結局は失われた過去と自分自身を取り戻しにキューバに戻る(「ハバナへの旅」)。そこで見出した死をも恐れぬ生への渇望、抑えきれぬ慟哭は、アレナスの果たせなかった真の帰郷即ち自由への嘆きの叫び声に他ならない。

  • 三人の主人公が旅をする三つの短篇。しかしこれらの短篇に共通するのは旅よりもむしろ「これはひどい」という読後感。主人公が放り込まれる状況と彼らの判断とその後の展開のどれもが無茶であり強烈過ぎて、大変疲れる。アレナスの熱さとリズムが、現実寄りの舞台設定と噛み合っていない気がする。豪速球だけどコントロールが効いていないような。

    「モナ」はスラップスティックな怪談話として面白いのでアンソロジーに入れたら結構いいんじゃないか、とか、「ハバナへの旅」は『夜になる前に』の亡命以降の心情が偲ばれて切ないとか、アレナス好きなら読みようはある。最初の一冊には薦められないけれど。

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著者プロフィール

レイナルド・アレナス
1943年、キューバの寒村に生まれる。作家・詩人。1965年、『夜明け前のセレスティーノ』が作家芸術家連盟のコンクールで入賞しデビュー。翌年の『めくるめく世界』も同様に入賞したものの出版許可はおりなかった。だが、秘密裏に持ち出された原稿の仏訳が1968年に仏メディシス賞を受賞し、海外での評価が急速に高まる。ただ、政府に無断で出版したことから、その後いっそうカストロ政権下での立場が悪化。そうした国内での政治的抑圧や性的不寛容から逃れるため、1980年、キューバを脱出しアメリカに亡命する。主な作品には『夜明け前のセレスティーノ』から続く5部作《ペンタゴニア》(『真っ白いスカンクどもの館』『ふたたび、海』『夏の色』『襲撃』)『ドアマン』『ハバナへの旅』、詩集『製糖工場』『意思表明をしながら生きる』、自伝『夜になるまえに』などがある。1990年、ニューヨークにて自死。

「2023年 『夜明け前のセレスティーノ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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