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- Amazon.co.jp ・本 (217ページ)
- / ISBN・EAN: 9784773808100
感想・レビュー・書評
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直前に読んだ『残余の声を聴く』での早尾貴紀氏の問題提起が強く印象に残ったので、書架から取り出してきた。早尾氏が語ったのは「苛酷な」という言葉さえ軽く感じられてしまうような暴力にさらされたガザの状況だが、だからといってヨルダン川西岸地区が「マシ」なのかと言えば、決してそんなことはないと理解できるルポルタージュである。
著者はユダヤ系フランス人で、アルジェリア独立戦争にも参加した経歴を持つという異色のジャーナリスト・出版人。取材は2006年に行われ、ユダヤ人入植地とイスラエル軍によって分断され、日常的な暴力にさらされ続ける現地のパレスチナ人たちの声が、ていねいに記録されていく。安易に引き合いに出すことは慎まなければと思いつつ、どうしても抵抗を続ける沖縄の人々のことを思い出してしまう。また、軍事=占領国家としてのイスラエルが、その根本において構造的な矛盾を抱えていることも見えてくる(まるで第二次大戦を生き延びた「満洲国」のようでさえある)。
「訳者あとがき」で益岡氏は、本書の著者の「トーンが写し取っているのは、日常生活に何か恐ろしい事件が起こる光景ではない。そうではなく、日常生活そのものの中に不気味な恐ろしさが入り込み、それが日常生活の一部となるような占領下の状況である」(204)と書いている。それこそまさに、「軍事占領下で生きる経験」であり、あるいは、植民地支配の下で生きる経験なのかもしれない。詳細をみるコメント0件をすべて表示