仔羊の頭 (セルバンテス賞コレクション)

  • 現代企画室
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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784773810103

作品紹介・あらすじ

1940〜50年代に書き綴られながら、作家の出身国=スペインでは、フランコの死から3年後、1978年にようやく出版されたアヤラの短編集。「人びとの心の中の内戦」として展開した悲劇的なスペイン市民戦争の実相を、市井の庶民の内省と諦観と後悔の裡に描く。セルバンテス賞コレクション第6作。



読書を通して、人は「自由に想像する世界」を獲得することができる。ドン・キホーテの狂気は騎士道小説の読みすぎに由来すると考えた司祭たちは、彼の書斎に火を放った。書斎の扉を壁で塞いで、書斎そのものを無きものにした。元気を回復したドン・キホーテは、騎士道小説を読もうと書斎に行くものの扉は見当たらず、彼は、かつて扉があったはずの場所を撫で回すだけだった——この稀有な人物を生み出した作家の名を冠したセルバンテス文学賞の受賞スピーチで、アヤラは、「遍歴の騎士」ドン・キホーテにとって、この焚書こそ、彼が経験した数々の困難な冒険の中で、最も痛ましいものだと述べた。



〈セルバンテス賞コレクションとは〉

スペイン文化省は1976年に、スペイン語圏で刊行される文学作品を対象とした文学賞を設置した。名称は、『ドン・キホーテ』の作家に因んで、セルバンテス賞と名づけられた。以後、イベリア半島とラテンアメリカの優れた表現者に対して、この賞が授与されている。このシリーズは、それらの受賞作家の作品を順次紹介するものである。

感想・レビュー・書評

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  • 20世紀の巨頭の一人、103歳での逝去、アメリカに置き、大学教授の地位を持ちつつ、文学への愛を語り続けっというだけで、アヤラの内なるものが猛然と湧き上がってくる。

    内戦の「日常的な情景」を彼独特の「「記憶の断片をつなぎ合わせて行くこと」によって昇華された全体像が浮かび上がらせた傑作。

    中世~近世 世界の雄たる大国の一角を担ったスペイン・・世界中に吹き荒れたファシズムの嵐はこの国でも惨状を呈させていった。
    左派連合の人民戦線政府VS反乱軍(後の国民戦線)
    指揮を執ったフランコは内戦終了後から軍事独裁政権を36年も敷いた。その悲劇の情景はピカソ描くところの「ゲルニカ」でつとに有名。
    昨日の友が今日の敵となり、文字通りの「血で血を洗う日常の戦場」
    概略しか知らなかった経緯を描いた傑作とされた今作をかねて読みたいと思っていた。

    「言伝」「タホ川」「帰還」「仔羊の頭」「名誉の為なら命も」5つの短編が入っている。
    アヤラはリアルタイムで、身内の死も経験し、内戦時、重要なポイントであった地を舞台にした「切り取ったその時間」を綴っている。

    何れもとてつもないパッションが伝わるが、文は淡々とした一見、何処にでも見られる風景と会話・・しかし。
    個人的に「仔羊の頭」が最高熱量。
    舞台はアンダルシアの都市グラナダ  モロッコの親戚一家を商用で訪れた際の一こま・・・互いに、来し方を語る内、自分自身にダークな記憶で沈殿していたあるものがもや~っと沸き上がり・・出された仔羊の頭を食するうち・・食あたりを起こし 夜半までのたうち回る⇒当たったのは料理ではなく、おのれに内在する或るものが反乱を起こしたというもの。
    解説を読んで仔羊=内戦で犠牲となった「多数の従順な人々」
    を意味している事を知り脳天が沸騰させられた想いだった。

  • スペイン内乱を背景に、特別ではないある市民の、それぞれの日々。そのある日、ある時の切り取り方が絶妙。その一瞬でその人たちの人生が広がる。5編の短編と序からなる。

  • モロッコ、フェズなどを舞台とした作品です。

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著者プロフィール

(1906〜2009)スペインの作家、社会学者。グラナダ生まれ。保守的で地元資産家の家に育った父と共和国政府支持の家庭で育った母との間に生まれる。自由主義思想の影響は母方の親戚から受ける。高校卒業後マドリードに引っ越し、前衛主義文学を推し進めた「27世代」の若手作家の一人として活動を始める。1923年マドリード大学法学部に入学、1925年初めての小説『魂なき男の悲喜劇』、1926年『夜明けの物語』を発表。1929年にスペイン初の映画評論『映画の洞察』と前衛主義文学の影響を色濃く受けた『ボクサーと天使』を、1930年に『夜明けの狩猟者』を発表。1931年法学博士を取得後、大学で教職に就く。1936年スペイン内戦勃発後は休筆し、共和国政府で外交官などを務めた。内戦終了の1939年にキューバを経てアルゼンチンに亡命。この後「亡命作家」として新聞、雑誌への寄稿、翻訳、創作などの文筆活動を再開。ブエノス・アイレスではホルヘ・ルイス・ボルヘス、セルバンテス賞受賞者のアドルフォ・ビオイ=カサレスなどの作家らと交流を深める。14年ぶりに発表した『魔法にかけられた者』(1994)は、ボルヘスに「スペイン語で書かれた短編の中で一番印象に残る作品である」といわしめた。アルゼンチン亡命中に短編集『強奪者』(1949)と『子羊の頭』(1949)を出版する。また1947年に文芸誌『レアリダー』を創刊、ハイデッガー、エリオット、サルトル、サバト、コルタサルらが寄稿。ペロン政権に嫌気がさし、1950年にプエルト・リコに移住。プエルト・リコ時代は文芸批評をはじめ、特に社会科学に関する著書や論文を多く発表した。1957年に渡米後はスペイン文学の教員として米国の名門大学のプリンストン大学、ニューヨーク市立大学、シカゴ大学などで教壇に立つ。米国滞在中に『犬死』(1958)、『コップの底』(1962)、『快楽の園』(1962、スペイン批評家賞)を出版。1976年ニューヨーク市立大学を定年退職し、スペインに帰国。回顧録『追憶と忘却』の第2巻(1984)は国民文学賞を受賞。スペイン王立アカデミー会員。1991年セルバンテス賞を受賞。

「2011年 『仔羊の頭』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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