てのひらに未来 (くもんの児童文学)

著者 :
  • くもん出版
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感想 : 22
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784774330549

感想・レビュー・書評

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  • なんのための"もの"なのか?

    工藤純子氏らしく、1人ひとりの気持ちをないがしろにしない、いろんな視点を見せてくれる物語。押し付けがましすぎない戦争について考える機会あり、恋愛要素あり。さわやかな読後。しかし、お利口すぎ感を少々感じる。

  • Jアラートとか無言館とかが出てきたから、これは何かの伏線であるなと思って読んだ。
    反戦平和は大切だし、それについて歴史を学び考えることもとても重要だと思う。
    しかし、作者のやむにやまれぬ情熱を感じたり、虚構であるはずの登場人物達が個性をもって自分と同じように「生きている」と感じたりすることが小説を読むよろこびではないだろうか。
    この本は作家の言いたいことありきで作られた物語であることが鼻につく。
    表向きは女子中学生が好みそうな淡い恋愛ものになっているが、結局作者の反戦平和を唱える道具に過ぎない。
    何度も繰り返すが、反戦平和が悪いわけではない。しかしこんな薄っぺらな物語で、読んだ今どきの中学生が、「やっぱり戦争はいけない。平和のために私ができることは何だろう」なんて考えないよ。天馬くんと両思いになれて良かった~、以上終わり。小手鞠るいの『ある晴れた夏の朝』よりひどい。

    が、落ち着いて考えると、様々な事情が見えてくるような気がする。
    この本を開けて見ればわかることだが、改行が非常に多く、おそらくこれは今どきの「読めない子ども」に配慮した結果なのだろう。このごろの子どもの読む力の低下は驚くほどなので、たくさんの子どもに読んでもらいたいと思ったら、改行を多用し、難しい言葉は決して使わず、子どもが好きそうな表紙絵にして、子どもが好む物語(例えばこの本みたいに恋愛もの)にしないと、とても反戦平和の物語は読んでもらえないという危機感から、こういうことになったんだろう。そういう意味では作者はすごく頑張った。

    ただ、ここに物語を読む本当のよろこびはない。
    古いし表紙絵も子どもがいやがりそうだけど『ふたりのイーダ』とか『ガラスの兎』なんかを丁寧に紹介して読ませた方が良くないか。
    あるいはもう少し読解力が必要だけどパウゼヴァングの『片手の郵便配達人』や朽木祥の『八月の光』なんかを読んだ方が、小説の醍醐味と反戦平和への思い、どちらも感じることができると思う。
    経験者であれば、それを語るだけでも迫力があり、拙くても反戦の思いを新たにさせることができる。しかし戦後76年、戦争をリアルに感じたことのない世代が反戦を伝えるにはどうしたらいいのか。そういう意味では考えさせられた。

  • いきなりミサイルの話から始まって驚いたけれど、戦争や家族問題を扱いながらも、さわやかな気分で読み終えることができました。

    15歳で町工場に連れられてきた天馬が本当の家族に捨てられたも同然だったのも、戦争が原因だったとわかる。

    暗くて悲しみにあふれたものばかりだと思っていた戦時中の画学生たちののこした絵が、明るい色づかい、生き生きとした人の表情、のんびりして美しい風景画で笑みがこぼれそうになる。

    学校で歴史として学ぶだけでは伝わらない、人々の日常生活。

    何気ない日常を変えてしまうのが戦争。

    『憎しみをぶつけても、新たな憎しみを生むだけです。だから…だれかが、終わらせないと』

    『「戦争をしない」というのは、とてもシンプルだけど、どんな言葉より力強く思える。
     だから、それが日本から、世界中に広がっていったらいいな…と、あたしは本気で思った。』

    中学生に読んでほしい。



  • 戦争や家族のこと、新春期の女の子の気持ち、それらのテーマがぎゅっとつまった一冊だった。
    星を3つにしたのは、物語に必要なことを行儀よくつめて仕上げた感じがして、よぶんな余韻がないというか、、、、。文章もテンポが良く話が進むんだけど、もう少し心象風景の描写をいれるとか、作品としてもう少し凝ってほしかった。
    テーマはほんとに大事なことを扱っているので、小中学生に安心しておすすめできます。

  • 今のことたちがこれを読んでどう思うのかなぁ
    戦争とか平和とか、感じるのかなぁ

  •  下町で工場を営んでいる琴葉の家には、17歳の天馬という青年が住み込みで働いている。天馬の家族は問題を抱えているため、琴葉の父親が中学校の校長に頼まれたのだ。
     琴葉は工場の経営が厳しくなっていることを知った。父親がある注文を断ったからだというが、父親はその理由を誰にも明かさない。
     
     天馬の家庭の事情、工場の危機、全ては過去に原因が…。

  • 家族関係、家の家業、ミサイル、色んな問題が中2の琴葉目線で進む。天馬が男前!

  • 中学2年生の琴葉の家は職人気質の寡黙な父が営む町工場
    身寄りのない少年天馬を預かりいっしょに暮らしている

    目標にむかって工場で懸命に働く天馬
    やりたいことが見つからずなんの夢もない琴葉

    工場の注文が減り家族の関係がぎくしゃくするところに天馬の父が訪ねてくる

    おたがいの家族のこと、注文を断った父の信念を知った二人は……

    ほのかな恋心と生き方に悩む中学生のさわやかな青春物語にとどまらないのは、冒頭から見え隠れする戦争の影

    《あたしたちと同じ日常や、夢や、家族を、突然戦争にうばわれたのだ。》

    琴葉が天馬や美術部の部員たちと訪れる無言館の場面は深い感動を覚える至高の章

    ──あたしにできることを見つけたい。平和な未来につなげるために。

    終章に暗示される未来のかたちに希望がつながる

    おさえめの装幀は城所潤
    いまの子どもたちに贈る新しい形の戦争児童文学、小学校高学年から

  • 琴葉の父は東京の小さい町工場の三代目だ。工場では、金属部品の加工をしており、数ミリ単位のものなど様々な製品をあつかっている。
    機械油が染み込んで取れない父の指や匂いを、琴葉は好きになれない。
    琴葉の家に居候している十七歳の天馬は、父の工場で働いている。
    天馬がうちに来たのは、十五歳の時だった。
    中学校の校長先生がやってきて、「施設」から何度も逃げ出したという天馬を使ってやってほしい、どうかこの子を助けてあげてほしいと、頭を下げたのだ。
    「まずはためしということで」と、父が返事をしてから、二年の月日がたった。
    天馬は文句も言わずに、朝から夕方まで働き、気づいたことをノートに書き記すほど、熱心に働いている。父のように機械油で汚れてきた天馬の指をみて、琴葉はなんの夢を持てていない自分を思い、胸がざわつき、さみしく思う。

    主人公の琴葉は、得意なものも、やりたいことも、夢もない、そして、周りのみんなに比べて乗り遅れていると思っている。だからこそ、十七歳で指を汚しながら働く天馬が気になり刺激を受けていく。そんな琴葉に共感しながら読んでいった。

    町工場の経営の厳しさ、現実の生活の危うさ、偏見や差別、戦争がもたらす憎しみや悲しみなど、描かれている事柄が深くて広いにもかかわらず、とても読みやすかった。それは、恋の要素もあるからかも。
    頑固で無口だが一本通っている琴葉の父や琴葉の家族のあたたかさが天馬を救ったように、琴葉も天馬を思い、知ることで、”今の自分に、何ができるのか、何をしたいのか“を考えていく。

    児童書らしい、希望が感じられる、素敵な話だった。
    タイトルも表紙の雰囲気も、いいな。

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著者プロフィール

『セカイの空がみえるまち』で第3回児童ペン賞少年小説賞を受賞。『となりの火星人』、「恋する和パティシエール」シリーズ他作品多数。日本児童文学者協会会員。全国児童文学同人誌連絡会「季節風」同人。

「2023年 『リトル☆バレリーナ  きらめきストーリー☆3つ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

工藤純子の作品

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