地元を生きる―沖縄的共同性の社会学

  • ナカニシヤ出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (472ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784779514975

作品紹介・あらすじ

沖縄的共同性とは何か。それは沖縄の階層的現実とどのような関係があるのか。

教員、公務員、飲食業、建築労働者、風俗嬢… さまざまな階層の人びとの、「沖縄的人生」

●著者紹介
岸政彦
立命館大学大学院先端総合学術研究科教授。社会学。専門は沖縄、生活史、社会調査方法論。主な著作に『同化と他者化──戦後沖縄の本土就職者たち』(ナカニシヤ出版、2013年)、『街の人生』(勁草書房、2014年)、『断片的なものの社会学』(朝日出版社、2015年、紀伊國屋じんぶん大賞2016受賞)、『質的社会調査の方法──他者の合理性の理解社会学』(石岡丈昇・丸山里美と共著、有斐閣、2016年)、『ビニール傘』(新潮社、2017年、第156回芥川賞候補、第30回三島賞候補)、『はじめての沖縄』(新曜社よりみちパン!セ、2018年)、『マンゴーと手榴弾』(勁草書房、2018年)、『社会学はどこから来てどこへ行くのか』(北田暁大・筒井淳也・稲葉振一郎と共著、有斐閣、2018年)、『図書室』(新潮社、2019年、第32回三島賞候補)など。

打越正行
和光大学現代人間学部講師、特定非営利活動法人 社会理論・動態研究所研究員。専門は、社会学、沖縄、参与観察法。主な著作に『ヤンキーと地元――解体屋、風俗経営者、ヤミ業者になった沖縄の若者たち』(筑摩書房、2019年)、『サイレント・マジョリティとは誰か――フィールドから学ぶ地域社会学』(川端浩平ほか編著、ナカニシヤ出版、2018年)、『最強の社会調査入門――これから質的調査をはじめる人のために』(木下衆ほか編、ナカニシヤ出版、2016年)、『持続と変容の沖縄社会――沖縄的なるものの現在』(谷富夫ほか編著、2014年、ミネルヴァ書房)など。

上原健太郎
大阪市立大学大学院文学研究科単位取得退学。博士(文学)。大阪国際大学人間科学部心理コミュニケーション学科講師。社会学。主な専門は沖縄の若者の就労問題。主な著作に、『社会再構築の挑戦』(谷富夫他と共著、ミネルヴァ書房、近刊)、『ふれる社会学』(ケイン樹里安と共編著、北樹出版、2019年)、『いろいろあるコミュニケーションの社会学Ver.2.0』(有田亘・松井広志と共著、北樹出版、2018年)、『持続と変容の沖縄社会――沖縄的なるものの現在』(谷富夫他と共著、ミネルヴァ書房2014年、)など。

上間陽子
東京都立大学博士課程退学、琉球大学教育学研究科教授。専攻は教育学。これまで学校から逸脱する少年・少女や沖縄の貧困などについて学校内・学校外から調査してきた。主な著作に、『若者と貧困』(湯浅誠・冨樫匡考、仁平典宏との共編、明石書店、2009年)、『裸足で逃げる――沖縄の夜の街の少女たち』(太田出版、2017年)、『沖縄貧困白書』(加藤彰彦・ 鎌田佐多子・金城隆一・小田切忠人との共編、かもがわ出版、2017年)、『誰も置き去りにしない社会へ』(平松知子・鳫咲子ほか共著、新日本出版社、2018年)など。

感想・レビュー・書評

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  • 大きな経済的格差と階層文化が進む沖縄のリアルを,各階層ごとに描く
    特に土木屋でヤンキーに混じって働いた打越の参与観察は読ませるものがある。
    金はなくて前借り生活、後輩は殴って当たり前、家庭を作ってもすぐ壊す…
    スキルの付与、コンプライアンス、規範という都市の大卒層が普通に期待できるものに手が届かない生活。
    そして外部からも内部からも、正しい形に持っていこうという働きが無いことも含めて慄然とする。

  • 観光で沖縄に行けば美しい海に美味しい食べ物に彩られた、まさに楽園。しかし海沿いの道路を走れば、一頭地に米軍基地が永遠と続き、交通安全祈願の石碑が信号機ほどの数で並び、内地ではみられないほど多くの建築工事のための土砂を積んだトラックが列をなしている。旅での食事の物価は高くなるが、沿岸沿いを離れれば貧困が目につき、スーパーでは高齢者が介助を必要としている。ウインカーを出さずに車線変更する車が多いが、飲酒運転が後をたたないというのにも頷ける。そんな沖縄に住む人たちのことや沖縄という土地を知りたくて手に取った。
    内地の私では想像がつかないような厳しい現実があるのだろうとの予想は、はるかに裏切られ、本書に描かれていたのは、まさに地元という名の底なし沼だった。沖縄という土地に魅力があり、沖縄という土地を選んで生きている人も多くいるだろう。しかし、少なくともここに出てくる不安定層に属する若者たちは、出たくても出れない場所となっている。それはいい意味でも悪い意味でも沖縄的共同体という関係性が、生き延びるための手段になっているからだ。ゆいまーるを連想させる沖縄的共同体から距離を取ることが沖縄で安定した暮らしを営むために必要であるという事実は、沖縄を愛する人にとっては構造的・心情的な矛盾を孕むものであろう。そして、そうせざるを得ない状況を生み出すことに間接的に内地に住む私も関与しているという事実を突きつけられる。特に、米軍基地と女性の性犯罪について、沖縄の男性が触れる語りは、徹底的に被害者の女性と沖縄に住む女性を一人の人間として見ていないことがよく現れているが、そうした言葉を言わせているのも私たちが生み出す環境のせいでもあるのだと思うと、沖縄の問題を自分の問題に転換しなければという思いを強くする。
    本書は沖縄を取り巻く経済状況や占領期の社会状況の説明から入るが、沖縄がなぜここまで第三次産業に偏った経済であるのか、占領期に米軍基地建設のために建設資材を日本から安く輸入するためにB円で輸入経済で復興したこと、そして補助金産業による下請けと沖縄での事業振興の難しさ等知らないことばかりで大変勉強になった。その上で、子供の貧困が多いこと、体感物価の高さや貧富の格差の激しさ等は本書終盤にかけて描かれていく若者たちの語りと深く密接に関わる。沖縄における暴力と悲しみの連鎖を断ち切るために、私は何ができるだろう。

  • かなり面白かった。沖縄の階層社会がよくわかった。というか、自分の周りの沖縄出身の人が沖縄っぽくないなとずっと思っていた。この本を読んで、彼彼女らが「安定層」だからだと分かった。非常に興味深い。

  • 第二章の五、コザ出身の女性のインタビューが特に強く残った。

  •  
    沖縄は面積2,281km2,人口145.7万人(2020年2月2日),人口密度640人/km2の小さな島である。地縁・血縁の絆が強く,沖縄的共同体として憧れの目でみられることもある。

    その内実を描いた本書は,沖縄社会の分断を描いている。狭い地域である沖縄にいる人たちの話であるはずなのに,まったく違う世界に住む人たちが描かれているように思える。いかに沖縄が一枚岩でないのかがわかる。

    「ささやかな断片的な記録」とあるように,ここで描かれる沖縄は一側面でしかない。その一側面からでも,沖縄がいかに多様であるかがわかる。

    何かを理解するとは,理解できないこととセットなのであろう。私たちがもつ「〇〇ってXXだよね」というイメージは,理解しているようでいて,実は理解できていないことの現れなのであろう。きっと理解に終わりはないのだと思う。だからこそ人は早急な「理解」を求めるのかもしれない。

    この早急さにいかに抵抗するか。『地元を生きる』はその一つの試みだったのではないかと思う。
     

  • フィールドワークを得意とする社会学者の岸政彦ら4人の若手研究者チームによってまとめられた沖縄の階層格差のリアルを描いた論考集。

    沖縄の地場での人間関係といえば、”ゆいまーる”という言葉に代表されるように家族や親類、友人などによる美しい相互扶助の関係が想起されやすい。しかし、本書ではそうした相互扶助の恩恵を受けるのは沖縄の一部の層に過ぎず、そこからはみ出た人間にとって極めて生きにくい社会が存在しているという事実である。

    具体的に本書では、
    ・安定層:琉球大学や本土大学を卒業し、大手民間企業や教員、地方公務員として就労
    ・中間層:飲食店などを仲間と共に経営し、生活の糧を得ている
    ・不安定層の男性:主に建設業に従事し、下請け労働者に甘んじている層
    ・不安定層の女性:過酷な家庭環境などを原因として社会からドロップアウトされ、男性からの暴力に怯えつつ性風俗等で辛うじて生活の糧を得ている層
    という沖縄の4つの集団を対象とし、それぞれの層で本当に相互扶助の関係性が成立しているかを明らかにする。

    実際、相互扶助の関係性が成立しているのは安定層・中間層までであり、不安定層は男女ともに社会から隔絶して相互扶助ネットワークの枠外に存在している、というのが本書で示される実態である。

    特に不安定層の男性を巡る論考では、実際に著者自らが建設現場で就業し、過酷な肉体労働を体験しつつ、”先輩・後輩”の上下関係の中で、様々なパシリとして使われ時には肉体的な暴力を受けることになる若年男性の苦しさが極めてリアルである。

  • sociologbook – 岸政彦のBlog
    http://sociologbook.net/

    地元を生きる - 株式会社ナカニシヤ出版
    http://www.nakanishiya.co.jp/book/b529094.html

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      《聞く仕事》と《法的なもの》――『地元を生きる』を読む/岸政彦/志田陽子(ホスト) - SYNODOS
      https://synodos.jp...
      《聞く仕事》と《法的なもの》――『地元を生きる』を読む/岸政彦/志田陽子(ホスト) - SYNODOS
      https://synodos.jp/talklounge/27798/
      2022/03/15
  • 秘密のケンミンSHOW(ジミー特集)を観ながら、インタビューに答える沖縄の人たちの階層を考えてしまった。カメラの前で笑う顔なんてただのお愛想なのかもしれない。中間層を取材した上原氏のエスノグラフィはもっと読んでみたい。

  • あと書きにも書いてあったけど、ほんと打越さんと上間さんの書く話は、過酷にも程がある。
    生々しい暴力の連鎖。放棄され搾取される少女たち。

  • 沖縄社会の共同体を、個人の観点から解きほぐした優れ本。出てくる人たちの考え方やライフヒストリーは様々で、いろんな読み方が出来ると感じました。

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著者プロフィール

岸政彦(きし・まさひこ)
1967年生まれ。社会学者・作家。京都大学大学院文学研究科教授。主な著作に『同化と他者化』(ナカニシヤ出版、2013年)、『街の人生』(勁草書房、2014年)、『断片的なものの社会学』(朝日出版社、2015年、紀伊國屋じんぶん大賞2016)、『質的社会調査の方法』(石岡丈昇・丸山里美と共著、有斐閣、2016年)、『ビニール傘』(新潮社、2017年)、『マンゴーと手榴弾』(勁草書房、2018年)、『図書室』(新潮社、2019年)、『地元を生きる』(打越正行・上原健太郎・上間陽子と共著、ナカニシヤ出版、2020年)、『大阪』(柴崎友香と共著、河出書房新社、2021年)、『リリアン』(新潮社、2021年、第38回織田作之助賞)、『東京の生活史』(編著、筑摩書房、2021年、紀伊國屋じんぶん大賞2022、第76回毎日出版文化賞)、『生活史論集』(編著、ナカニシヤ出版、2022年)、『沖縄の生活史』(石原昌家と監修、沖縄タイムス社編、みすず書房、2023年)、『にがにが日記』(新潮社、2023)など。

「2023年 『大阪の生活史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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