森鴎外の百首 (歌人入門)

著者 :
  • ふらんす堂
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  • Amazon.co.jp ・本 (203ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784781413945

作品紹介・あらすじ

◆テエベス百門の抒情
わが足はかくこそ立てれ重力のあらむかぎりを私しつつ(『一刹那』)

鷗外短歌の魅力は、世界と自分をユーモアたっぷりに総括してみせるところにある。後の「我百首」や「奈良五十首」でくきやかに示されるところだが、この歌などはその嚆矢と見える。その由来は、ひとつには彼のもって生まれた性格、いまひとつには西洋体験だろう。地球が自分を引っ張る重力を受けながら、私はこの二本の足で立っている。あたかも地球の力を全部自分のものとしたかのように。強い二句切れを利かせつつ、知識人が世界を楽しむやりかたを示した歌だ。

感想・レビュー・書評

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  • 現実の車たちまち我を率【ゐ】て夢の都をはためき出でぬ 
      森 鷗外

     文豪森鷗外の最後の文学作品は何か? 小説や詩ではなく、短歌の連作「奈良五十首」であったことは、意外に知られていないだろう。

     軍医として日露戦争に従軍中、短歌や詩、俳句が次々に生まれ、帰国後に「うた日記」として上梓【じょうし】。短歌に並々ならぬ情熱を示し、みずから「観潮楼歌会」も主催した。のち、「我百首」など大作も発表している。

     その短歌や訳詩を100編解説した坂井修一は、「鷗外自作の詩歌は、彼の翻訳業には及ばない」と明言している。けれども、外国語や口語を自在に取り入れた鷗外の短歌は、意外性があり、独創的でもある。

     ・大鐘【おほがね】をヤンキイ衝【つ】けりその音はをかしかれども大きなる音

     場所は奈良の東大寺。アメリカ人が鐘をつき、その大きすぎる音に苦笑したようだ。ドイツ留学もし、英文学にも明るかった鷗外だが、アメリカ人に対してはやや温度差を感じていたのだろうか。

     冒頭の歌は、鷗外晩年の作。当時、帝室博物館長兼図書頭【ずしょのかみ】として、正倉院に関する仕事をしていた。定期的に奈良に通い、その体験が「奈良五十首」を生んだ。

     奈良での仕事が一段落し、「現実の車(当時の汽車のこと)が「夢の都(奈良)」から自分を東京に運び去っていく。去りがたい奈良への愛着とロマンも感じられ、味わい深い。
    ◇今週の一冊 坂井修一著「森鷗外の百首」
    (2021年9月26日掲載)

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著者プロフィール

東京大学大学院情報理工学系研究科教授

「2022年 『サイバー社会の「悪」を考える』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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