人が人を殺すとき: 進化でその謎をとく

  • 新思索社
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  • Amazon.co.jp ・本 (511ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784783502180

作品紹介・あらすじ

だれが、だれを、なぜ殺すのか。世界で初めて、進化心理学による殺人研究。

感想・レビュー・書評

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  • 殺人も遺伝心理学の観点からかなり説明ができる。
    1.血縁関係が薄いほうが、殺人の加害者と被害者の関係になりやすい。
    2.若い女性(将来もっと子供を作るチャンスが高い女性)や、すでに別の子供を持っている女性がえい児殺しをしやすい。義理の父親は、血縁関係のない子供を殺しやすい。
    3.それ以外の女性による子殺しは、絶望的状況での自殺を伴うものが多い。
    4.子供による父親殺しは、暴力的な父親から他の家族を守るためという状況が多い。
    5.無関係の男性間の殺しは、男性間の些細な口論や見栄の張り合いから発展することがある。しかし、女性はめったにそのような殺しをしない。人間が本質的に一夫多妻であることに関係があるのではないか。男性が多少死んでも生まれる子供の数に大きな影響はないが、若い女性が死ねば、生まれる子供の数は確実に減る。
    6.夫婦間の殺しの多くは、女性が他の男と関係を持ったこと(またはその疑い)または、女性が男性を捨てたことに起因する。
    7.殺しには復習しなければならないという心理が根強くあり、それが死刑制度の根幹である。

  • 伊藤計劃氏のSF小説「ハーモニー」で後書きに本書の名前が出ていたので気になって読んでみた次第.因みに著者のお二方と訳者のお二方はそれぞれ夫妻ということで,Daly & Wilson夫妻の原著を長谷川夫妻が訳した本になる.
    端的に言えば「同種個体の抹殺という観点からヒトの生態の解明を目指した本」といったところか.何となく経験則的に言われていることを,慎重な事例分析と(後半はやや怪しく思えるところもあるものの概ね)明快な論理に基いて検証していく.勿論,自然淘汰や性淘汰の観点から,生物としてのヒトが有する心理という形質について導かれる理論も興味深いのだが,論点の見出し方や実証の進め方,統計の結果に対する批判的な視点などといった部分にも,参考になるものが多かった.随所で挟まれる,「進化理論を理解しようとしない/誤解している人たちへの愚痴」のようなものも,一線の研究者の率直な本音といった風に読めた.
    殺人に関する数値的なデータだけからも,ここまでのことが明らかになるということには驚かされるし,実際の証拠に基づいて,眉唾ものの社会理論や心理理論をきっちり排除していくところも大いに支持出来るのだが,やはりどうしても「こんな大雑把/限定的なデータだけでここまで断言してしまっていいものなのか?」という不安の残るところはある.尤も,そもそも自身が決して統計なり生物学なりに明るいとは言えない立場なので,勉強不足ゆえにそう感じる部分も大きいのだろうとは思う.

  • 罰は加害者に利益が生じるような犯罪に対して課される。そのため、多くの社会で、親族を殺したものは罰せられるより憐れまれる。なぜなら、罰は賠償の意味合いを持つが、加害者を罰することで残された親族は(繁殖価という観点から)より多くの犠牲を強いられることになるからだ。父親-息子間の殺人では、父親が被害者の場合、多くの社会では息子は厳しく罰せられる。逆の場合では、父親は非難されるより憐れまれる方が多い。なぜなら父親は息子を殺すことで自身の繁殖価を下げているが、息子が父親を殺すときは利己的な理由であることが多いからだ。

    若い男性が加害者である殺人の頻度は、最も変動が大きい。それは苦境にある若い男性が、大きなリスクを犯すことで適応度を上げようとする傾向性が高いからだ。

  • 何かの本(心理学書か進化論書)の中で、作者がおもしろい!とこの本を紹介していたので、借りてみた。

    前半は、「殺人」がなぜ起こるかを統計と進化論だけを切り口に淡々と分析している。統計の使われ方に思いが強いようで、その批判をして、正しい統計とはどのようにするのかを書いているところも面白い。統計がマスコミなどによって、恐ろしく悪用されているのは事実である。統計によって理論がゆがめられることもあることも事実である。しかし、統計とはあくまで主観的なものであり、100%客観ではありえないと常々わたしは思っている。どこまで中立に「見せるか」「近づけるか」。そういった意味では、やっぱり、最初に主張があるんじゃないの?と思うところもあったが、なるほど筆者はその努力をしているようで、その姿勢には好感が持てた。

    血縁者の殺人は少ないことや、血縁者の殺人は、遺伝子を残す適応度によって決まる(親による子殺しは、年齢が低いほど多いなど)ことなどは、当たり前のようにも思えるし、進化論を出さなくても分析できるようにも思えるけれど、そこをわざわざ分析しているところが面白い。大まかな傾向としては、ほとんど驚くような事実は紹介されていなかったけれども、理屈立てて語られると頭の中が整理できたように思う。あまり意見・主張は織り交ぜていないところが、面白みにかけるところでもあり、好感が持てるところでもある。もう少し深くいろいろな内容を盛り込んで書けば、題材が面白いだけにもっと売れたのかな?とかおせっかいなことも考えてしまった。

    後半では、進化論に重点が置かれる。しかし、この部分では、わたしが今までに読んできた(ということは、たぶん進化論を少しでもかじっている人はたいてい読んでいる?)進化論の話の引用ばかりで少々退屈に感じた。要は説に斬新さが一切感じられなかったということだ。男が相対的に凶暴であり、リスクを犯す。出尽くした論を羅列するより、もう少し作者の主張があっても良いのではないかと思う。

    全体として、目新しさは特に無かったけれど、納得できたし、なんとなく感じていたことが腹の底におさまったような気持ちよさもあったので、読んだ価値はあったように思う。

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