- Amazon.co.jp ・本 (159ページ)
- / ISBN・EAN: 9784783709794
作品紹介・あらすじ
第1詩集『いまにもうるおっていく陣地』で2000年中原中也賞受賞。以来この時代の詩を模索し続けてきた新世代の旗手の、今日までの全詩を収める。
感想・レビュー・書評
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『水際にあってこの家は植物になりかけるもはやその類のものだこうしたいきづかいは こうした いきづかいは
(踏まなければいいが)
その瞬間、やはり気付かず 彼女は 落ちていた
楽譜の断片をやすやすと 踏んだ
グレーと金の音が散った』ー『いまにもうるおっていく陣地』
『「なにを」書こうとするか、ではない。「なにを」と「いかに」は常に同時進行するもので、切り離すことはできないのだ。』ー『詩について』
蜂飼耳の、いまにもうるおっていく陣地。古書探索を何度試みても一向に捕まらなかった詩集。現代詩文庫から新しく出版された一冊の中で、ようやく巡り合う。それも、入手の困難さを考慮してか、全篇の掲載で。ゆっくりと噛みしめる。狼狽えながら。
言葉が何を目指し何処から発せられたものなのかが、見えてこない。硬質の手触り。しかしそれは鋭利な金属の放つそれではない。岩場の入り組んだ隙間に密生する貝が、無防備に差し込まれた手を傷つける時に見せる硬さだ。何も知らずにいきなりその岩場の隙間の内側にあるものを見定めようとしても、無機質の手触りに行き当たり困惑するばかり。いたずらに動いてみれば堅い殻の縁で傷をつくる。
情緒的な想像を掻き立てるような言葉が、蜂飼耳の詩には少ない。それは、絞り出すようにしてこの世界に落とされたものとしてに響く。その内分泌液を滴らせたような言葉にたじろがないものは居ない。その言葉の表そうとするものを受け止めかねても、その切実さを見損なうものは居ないだろう。これが蜂飼耳という詩人の生き様なのだな。覚悟のようなものが見えない棘となって言葉の周りを取り囲み無礼な読み手には突き刺さる。
はっきりと断定的な口調で語らなけれはならないと思う一方で、次第に言葉が気圧されて出てこなくなる感覚を覚える。もちろん、何も言い足す必要はなく、ただ、詩集の頁を繰ればよいのだが、それでは何かから逃げ出すとこになるとの強迫観念も胸に迫る。言いたいことなどありもしないのに、黙ってやり過ごすこともまたできない。
堅い貝殻の内側に無防備な柔らかさが潜んでいる、そのことは矢鱈とはっきり理解される。さて、自分はその柔らかさに触れてみたいと思っているのか。すっぽりと空いた穴が頭の中に広がる。蜂飼耳、刺激的な謎。詳細をみるコメント0件をすべて表示