虚構の森

著者 :
  • 新泉社
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本棚登録 : 133
感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784787721198

作品紹介・あらすじ

SDGsが大流行の昨今。環境問題の大切さはよくわかっていても、「地球温暖化とCO2排出量は関係ない」「いやある!」、「緑のダムがあれば洪水や山崩れは防げる」「いや防げない!」などなど、環境問題に関しては異論だらけで、果たして何が正解かわかりません。さらに地球環境を巡ってはさまざまな“常識”も繰り広げられています。しかし、それをそのまま信じてもいいのでしょうか? 本書は、そうした思い込みに対して、もう一度一つ一つ検証を試みました。「森の常識」を元につくられた〝環境問題の世論″に異論を申し立て、不都合な真実を突きつけた一冊です。

感想・レビュー・書評

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  • 森林に関わる環境問題について理解を深めるために手に取りました。

    虚構、不都合な真実、などうさんくさい言葉が散見されますが、文章はそこまで不誠実ではありません。
    そう思った理由は、断定的で極端な言い方や非論理的なところは意外と少ない、ネイチャーとかの論文の内容を踏まえた意見も多い、難しいことやわからないことはきちんとそう言っている、からです。

    なお、本書後半は私の読書目的とちょっと異なったので、ちゃんと読んでいません(読み物としては面白いです)。

    そしてここでは各論的なイシューについては触れません。

    そのかわり、本書前半で述べられたものの中で、森林の環境問題の議論をする際に前提として知っておくべきだと思った、森林に関する事実っぽいものを以下に記します。
    (数字はページ)

    •地球上の森林総面積は増加。増加の理由は植林、温暖化。ただ熱帯、亜熱帯地域は森林減少。16-18
    •植物は光合成もするし呼吸もする(二酸化炭素を吸収もするし排出もする)
    •植物の二酸化炭素の排出量は、光合成と呼吸の差し引きで、結果マイナス。
    •ただし森林全体でみると、二酸化炭素排出はこれより増加する。これは森林には植物だけでなく、呼吸しかしない動物、菌類がいるから。21
    •木は樹齢が高いほど、生長もするし二酸化炭素を吸収する。39
    •一本の木は生長もするし、伐採されたり枯れもする。生長するのは時間がかかる。伐採は一瞬である。
    •光合成能は気温により変化する。気温がある程度高いと活発に、一定以上だと低下する。32
    •呼吸量は、生物によらず高温ほど増加する。33
    •二酸化炭素発生は、土壌の有機物の分解でもおこる。気温の上昇で分解は加速するかもしれない。33
    •植物体と土壌の有機物の蓄積炭素量の比は、熱帯雨林で同等、温帯•亜寒帯の森林では4倍。33
    •土壌内の有機物は、水中では(水没を想定)二酸化炭素よりもメタンガスが発生しやすい。木もメタンガスを発生させるかも。 メタンガスは二酸化炭素よりも20倍以上温室効果がある。 35
    •木が育つには土壌と水が必要 46
    •森林と水、土との関係は複雑で難しい54
    •森は水を増やさず消費するか。樹木は光合成と雨水の蒸発(雨量総量の10%前後)。動物菌類も水消費。地表の雨水の動向は土壌の有無•地質性状による。55-57
    •貯水効果は、森林土壌は少なく、高いのは岩盤層(特に花崗岩)。59
    •山崩れには表層崩壊と深層崩壊がある。森林の影響を考えるのは前者。70
    •降雨から森林の土壌流出を守るのには、森林に加え草も重要。71-76
    •マツは痩せた土地に生え土壌が肥えると衰退する。92
    •森づくりは植生遷移を考慮する。106
    •生物多様性の大きさ。森林より草原。肥沃より痩せ。ほどほどの環境変化(中規模撹乱仮説、122)。126

    全然知らなかったことも多いですが、書き出してみると当たり前だなぁと思うこともあります。

    森林と環境問題に関して、知識の整理と増加があり、読んで良かったと思います。

  • 森林にまつわる情報、喧伝、またそれらを用いたスローガンやムーブメントなどを虚実ない混ぜを解きほぐし、ステレオタイプでない実態的情報から読者に改めて考えさせる、地球環境への認識を正す本。
    (→カーボンニュートラルと森林によるCO2吸収と発生の実際、「緑のダム」効果(森林による降水涵養効果)、里山の信仰と実態、SDGsに絡んだ報道やイメージから来る真偽、など)
    不用意に結論づけることはしないため、直接的な回答が知りたいと思った時には、若干消化不良気味になるが、それでも楽しく読み進めていける本だと思う。

    森林ジャーナリストによって、各種雑誌、研究報告、論文ジャーナル等から現在の研究結果に基づいた事実を紹介される。情報ソースはネット等で閲覧できるものは多く、URLが多く紹介されている。

    地球温暖化は地表温度、水温の世界的上昇が見られ、猶予はあまりない状況だが、やはりそれぞれの事象、現れる問題からわかることは一様ではなく、簡単な結論にはならないことが多いようだ。
    例えばカーボンニュートラルについて。CO2削減の方策として、各国の森林環境によるCO2吸収効果を、各国の定める森林整備方法で認めており、日本でのそれは以下のようなものである。

    朽ちたり、また幹枝葉に本来注がれるべき日照等を妨げる木、枝葉を間伐すること。これにより、CO2吸収量はいくらいくら増加されるという計算式が存在するらしい。しかし間伐した後の樹木は、それによってむしろ活発になった活動の結果、CO2は排出の方が大きくなるとも言えるようだ。光合成によるCO2吸収だけでなく植物は呼吸もしておりその時はCO2を排出している。それが例えば、間伐により成長を促進させたいと見込まれ、残された木また枝葉側は、これから沢山の葉っぱを茂らせ枝をより伸ばしていこうとなる成長段階のはずであり、葉っぱで行われる光合成よりも前に呼吸によるCO2排出の方が多くなると言えるのではないか。その時は間伐により切られた分の枝葉や木の分、CO2吸収量が減ったことも相まって、よりCO2は排出されているはず。

    ちなみに森林をめぐる政策担当官庁は開発側に国交省があれば、林業振興を図る側の林野庁が存在する。林野庁は林業振興としては、高単価の材木切り出しに繋がってほしいし、業界では太くて不用意に曲ってない成長をした樹木が好まれるらしい。その為には人為的に間伐も含めた手入れをせねばならないが、永らく林業は海外産木材の価格に押され切り出されない、ひいては放置された山林を多く産んでいる現状がある。そこに補助金という形でテコ入れをする為に、CO2削減に繋がる間伐という名目の補助金、予算があるらしく、これは政治的な思惑によって産まれた政策と言えるようだ。

    以上のように整理すると、間伐がCO2吸収の為の一方策と主張するのは論理矛盾と言えそうだ。しかしこれはここまで追及された議論は通っていないことと、またそもそも政治的妥協の産物として生み出された机上のロジックの為、あまり表立って整合性を批判する情報は官公庁サイドはおろか、大手メディアなどからも出てきていないようだ。

    ただし著者はこの事で安易に政府批判に徹するのでなく、また環境保護対策のちゃぶ台返しをしているわけでもない。多面的な観察によって、今ある多少複雑な姿を見てほしい、その上で環境を巡る情報を整理、判断してほしいとのこと。地球規模で温暖化が進展している事実は認めざるを得ないし、またその為の施策が必要という認識は著者も認めるところ。ただそこに国際組織や他国、自国の思惑、また企業や各種団体らの目的を持った活動が被されることで、どのような環境対策・効果を持つのかは、環境問題は様々な面から複合的に評価しないと、そもそもの認識すら無自覚に偏りを持ってしまう。その幅が極めて大きい為、情緒に訴えかけるしかないような暴論もまかり通ってしまう世界(と思うのは私の認識。著者はここまでの言い方はしていない)。

    カーボンニュートラルなら、以下のような視点・問題点が存在する。
    ・CO2そのものが地球温暖化に与える効果の是非。議論の余地はあるらしい(メタンガスなどの方が単位体積あたり効果は大きいらしい)
    ・CO2排出/削減量の算定とひいては取引自体の是非(→それ自体が一つのゲームとして、最大利益を得る為の活動になり環境保護の側面が捨て去られる恐れ)
    ・CO2削減の為の方策それぞれに対して、関係者各位の経済的損益。複数の業界、企業にまたがる。(例えば上述の間伐補助金施策に対しては、山林管理・木材生産卸会社もあれば、開発ディベロッパーも。誰を潤すかまた潤さないか)

    上記はこの本で紹介された一例でしかない。改めて私たちがCO2削減の方策として信じることが、本当に目的を果たしているか、何らかの目的を果たす政治プロパガンダとして利用されてないことなどを、把握・監視するくらいでないと信じきれない。昨今話題のSDGsもしかり。
    なお話題はCO2削減に留まらない。森林や草地、植物全般に関わるテーマが散りばめられている。
    著者は研究機関に所属する研究者ではない為、研究者ほどの論文ベースによった詳細な解説ではないが、逆に言えば狭い研究結果の発表でもない、社会問題としての視点を提供している。ただそれでも論文に依拠した調査結果や提言は出しているし、市井の人が多く追確認できるよう、前述の通り情報ソースを、特に今ネットで拾えるソースを多く上げてくれている。まさに森林ジャーナリストとしての成果なのだと思う。
    門外漢がこの分野を理解しようとする為の、初めに持つべき批判的視点を得られる入門書、として好適ではないか。

  • 配架場所・貸出状況はこちらからご確認ください。
    https://www.cku.ac.jp/CARIN/CARINOPACLINK.HTM?AL=01426717

  • 東2法経図・6F開架:650.4A/Ta84k//K

  • 森林に対して世間で言われている事、それに反する意見を具体的な内容を交えて記載されており読みやすく感じた。
    また、筆者の意見に対するスタンスが、あくまでもこういった側面もあるといった意見に留められており非常に好感が持てた。
    何に対してもそうだが、改めて多様な意見や情報を得ることの重要さを認識することができた。

  • 森林、緑のダム、再生可能エネルギーなどについての多面的な見方を提示

    森林は酸素の供給源であり二酸化炭素を吸収する、というのは森全体で見るとそうとは限らない。森林には呼吸しかしない動物がいるだけではなく、キノコ、カビなどの菌類の二酸化炭素排出量が植物全体の光合成による酸素供給と、ほぼ同量。

    安定した森林は酸素も二酸化炭素も出さない、それを間伐しても二酸化炭素吸収量は増えない。若い樹木の方が二酸化炭素の吸収量が多い訳ではない。

  • 岐阜聖徳学園大学図書館OPACへ→
    http://carin.shotoku.ac.jp/scripts/mgwms32.dll?MGWLPN=CARIN&wlapp=CARIN&WEBOPAC=LINK&ID=BB00620253

    SDGsが大流行の昨今。環境問題の大切さはよくわかっていても、「地球温暖化とCO2排出量は関係ない」「いやある!」、「緑のダムがあれば洪水や山崩れは防げる」「いや防げない!」などなど、環境問題に関しては異論だらけで、果たして何が正解かわかりません。さらに地球環境を巡ってはさまざまな“常識”も繰り広げられています。しかし、それをそのまま信じてもいいのでしょうか? 本書は、そうした思い込みに対して、もう一度一つ一つ検証を試みました。「森の常識」を元につくられた〝環境問題の世論″に異論を申し立て、不都合な真実を突きつけた一冊です。(出版社HPより)

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著者プロフィール

1959年大阪生まれ。静岡大学農学部を卒業後、出版社、新聞社等を経て、フリーの森林ジャーナリストに。森と人の関係をテーマに執筆活動を続けている。主な著作に『虚構の森』『絶望の林業』『森は怪しいワンダーランド』(新泉社)、『獣害列島 増えすぎた日本の野生動物たち』 (イースト新書)、『森林異変』『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『樹木葬という選択』『鹿と日本人―野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』(ごきげんビジネス出版・電子書籍)など多数。ほかに監訳書『フィンランド 虚像の森』(新泉社)がある。

「2023年 『山林王』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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