パフォーマンス研究のキーワード―批判的カルチュラル・スタディーズ入門―
- 世界思想社 (2011年2月17日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (292ページ)
- / ISBN・EAN: 9784790715085
作品紹介・あらすじ
1980年代のアメリカに興った「パフォーマンス研究」が、文化をめぐる「批判的実践」としてどのように成立し機能しているかを、演劇、コミュニケーション、教育、文化人類学、博物館学などのキーワードを手掛かりに紹介。「批判的カルチュラル・スタディーズ」の可能性と意義を考察する。
感想・レビュー・書評
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私にとっては初めてということになりますが,論文集への執筆依頼が来て,2012年に『地理科学』に書いた,音楽ライヴに関する文章の続編を構想中です。事前に編者の序論の草稿をいただいていて,そこに「パフォーマンス」に関する議論が足りないなと思いつつ,でもジュディス・バトラーのパフォーマティヴィティ論を持ち出すのもなんだかなあ,と思って調べていたら見つけたのが本書。どうやら,最近「パフォーマンス研究」という動向があるらしい。他にもエリカ・フィッシャー=リヒテ『パフォーマンスの美学』なんて本が翻訳されていたりして,密かに日本でも紹介する人が増えているとのこと。
この「パフォーマンス研究」が演劇に関する研究から発したもので,本書の編者2人も米国に留学して学んできたという。まずは目次から。
序章 批判理論とパフォーマンス研究(鈴木 健)
第一部 パフォーマンス研究の系譜
第1章 パフォーマンス(高橋雄一郎)
第2章 文化的パフォーマンス(鈴木 健)
第3章 演劇と文化人類学(高橋雄一郎)
第4章 エスノグラフィー(鈴木 健)
第二部 現代社会とパフォーマンス研究
第5章 身体(山口順子)
第6章 ミュージアムと展示(菅 靖子)
第7章 ジェンダー(戸谷陽子)
第8章 ロール・プレイング(吉田真理子)
目次を見ても分かりますが,本書は書名に「キーワード」としていますが,辞典形式ではありません。第一部を編者が総論として執筆し,第二部を各論として寄稿者に執筆依頼しています。寄稿者は全て女性,そして米国,英国への留学経験があり,全員が日本の大学で教鞭をとっています。
本書の副題に「カルチュラル・スタディーズ」とありますが,内容的にもかなり重複している部分があります。パフォーマンス研究も領域横断的な分野であり,また演劇も文化の一部ですから。しかし,メディア研究が主流だった頃のカルチュラル・スタディーズと比べると,演劇という分野はメディアというものを媒介せず,生身の身体がその表現手段であるため,より身体論的な,そしてエスノグラフィックなものであり,本書の帯に「カルチュラル・スタディーズを超えて」なんてことを書くのも分からなくはありません。
パフォーマンス研究はやはり米国主導的で,その中心人物なるニューヨーク大学のシェクナーの下で編者の高橋氏が学び,ノースウェスタン大学のコンカーウッドの下で鈴木が学んだとのこと。
パフォーマンス研究はやはり言語行為論からバトラーのパフォーマティビティ論との関係もあり,またゴフマンのドラマトゥルギー論,そしてヴィクター・ターナーの人類学とは直接的な関わりがあるというのが系譜上での特徴のようです。また,第6章に博物館の話があるのは,ジェームス・クリフォードの人類学の辺りとの関連のようです。
ともかく,演劇史に関する知識は本書で初めて得るものが多かったわけですが,その他に関しては,これまでいろんな所で学んだことの復習的な意味合いが強かった一冊。果たして構想中の論文に活かすことができるのかどうか。詳細をみるコメント0件をすべて表示