殺人の人類史 上巻

制作 : デイモン・ウィルソン 
  • 青土社
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  • Amazon.co.jp ・本 (386ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791769612

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  •  優秀な統治をした一方で、残虐な鏖殺や虐殺を行った統治者。
     善行をする一方で、異端には残酷な拷問や刑を執行する宗教者。
     世界平和を訴える一方で、異論を述べる者には苛烈な口撃を行う活動家。
     人間が持つこの二面性は果たして、一個人に限られる固有の特徴なのか、それとも万人に認められる普遍の本能なのか。
     異色の批評家であった父の遺稿をもとに、その息子が血に塗れた人類史を紐解きながら、人類の根本にある「邪悪な何か――人に残酷な行為をさせる因子」について考察を試みた、コリン・ウィルソン流人類史研究の集大成。
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     上巻は、類人猿だった我々の祖先の頃から現代までに至る血みどろの歴史を開陳しながら、普通の人々が争う「根源」についての解読を試みている。最も興味深かったのは、一方的に相手から搾取する行為を「文明的食人」と評したことだ。奪う側は利益を得るが奪われる側は損しかしない。つまり、対象が財産なら「経済的食人」であり、いじめや強姦なら「精神的食人」ということになる。そしてそれは、殺して奪わない点"だけ"を見れば、「文明的成熟の結果として、最悪の犯罪行為までは行われていない」ともとれるのだ。
     後半は主に戦争犯罪に言及するが、権力者が戦争を始める経緯の考察、これが2023年に発覚した、某中古車販売・買取会社の一連の件にも当てはまりそうなのだ。つまり企業犯罪、組織犯罪、国家犯罪、戦争犯罪、もちろん細部は異なるが根本だけを抽出すると、これらは全て同一の因子を含有しているという仮説が生まれる。そしてそれは、自覚的であれ無自覚であれ、条件さえ揃えば誰もが抵抗感薄く犯罪に手を染めるであろうことを暗示している。
     本書を読めば、どのような権力者や指導者や政治家が犯罪を指示し、そして"奪うことを目的とした"戦争を始めるのかが解る、かもしれない。

  • 人類が体毛を失った理由は二説ある。サバンナでは暑いというサバンナ説、水中で狩りをしたためという水棲説である。悪魔や怪物などの神話はネアンデルタール人との厳しい争いの古い文化的記憶なのかもしれない。人類は三万年前に頂点捕食者となった。
    初期人類が平和的であったとする説をボノボ説、攻撃的であったとする説をチンパンジー説をという。人類は地球で最も知的な種族となる過程において最も自己破壊的な種族となった。
    宗教は暴力の一般的動機であった。何千年もの間不可知な災厄の対策は人身御供であった。
    石器時代の人喰いも職場の安全性を利益のために切り捨てる多国籍企業も、歴史を通じ虐待の中心となったのは支配階級である。
    奴隷制を終わらせたものは倫理的主張ではない。奴隷を使う方が経済的に損だという損得勘定である。農業の機械化により労働者数は少なくて済むようになり、食わせなければならない奴隷よりも自立した労働者を雇う方が得になった。共産主義は国家による奴隷制のようなものである。
    人類の戦争は長年チンパンジー並みだった。一万年くらい前から戦争は洗練化した。新兵は心理的に再建される。人間は恐ろしく洗脳されやすい生き物である。戦争における虐殺は無慈悲な上官の命令とみられがちだが、そうでもない。若い男に銃を与えれば見境なく打ちまくるものだ。
    近代警察は19世紀英国で創始された。国営暴力団からお巡りさんとして親しまれるまで随分と時間がかかった。
    歴史上最大の大量殺人者はスターリンと思われる。2-3000万人が無駄死にした。
    魔女裁判が隆盛の頃の教皇インノケンティウス8世は史上初めて輸血を受けた人物である。死の床で3人の少年の血を飲んだが効果はなく死んだ。少年たちもまた死んだ。

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著者プロフィール

"コリン・ウィルソン
1931-2013
英国、レスター生まれ。
16歳で経済的事情により学校を離れ、
様々な仕事に就きながら執筆を続ける。
1956年、評論『アウトサイダー』を発表。
これが大きな反響を呼び、作家としての地位を確立。
主な著書に『殺人百科』(61)、『オカルト』(71)など。




"

「2019年 『必須の疑念』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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