分解の哲学 ―腐敗と発酵をめぐる思考―

著者 :
  • 青土社
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  • Amazon.co.jp ・本 (345ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791771721

作品紹介・あらすじ

おもちゃに変身するゴミ、土に還るロボット、葬送されるクジラ、目に見えない微生物……
わたしたちが生きる世界は新品と廃棄物、生産と消費、生と死のあわいにある豊かさに満ち溢れている。歴史学、文学、生態学から在野の実践知までを横断する、〈食〉を思考するための新しい哲学。

感想・レビュー・書評

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  • 「第3章 人類の臨界――チャペックの未来小説について」読まなきゃ、、、

    藤原辰史:パンデミックを生きる指針 | 歴史研究のアプローチ
    https://www.iwanamishinsho80.com/post/pandemic

    青土社 ||哲学/思想/言語:分解の哲学
    http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=3305

  • 藤原さんの文章を、新聞や小誌のコラムで度々目にし、興味を持っていました。
    まとまったものを読みたいと思っていたところで、自分に興味の有りそうなテーマの本と出会えたと、手に取りました。
    思っていた本と違い読みこなすのが大変で自分には難しかった。しかし面白かった。思索というものはこうして広げて深めていくものなんだなぁと、あまり、考えてこなかったものの見方を教えられたように思います。

    カレル・チャペックや随所に出てくる著作の引用などについての素養がないので理解がついて行かず文章世界の中になかなか入れませんでしたが、後半4章屑拾いの話、5章スカベンジャーの話、6章つくろう、ほどこす、とき、とけ…などは、興味深く読めました。
    6章に出てくるスカラベについては、子供の頃願いを叶え魔を避ける力のある昆虫としてペンダントを持っていて持ち歩いたりしていたので「糞虫」と知って愕然としました。今まで知らなかったということにも…
    また、2章で語られるフレーベルのことは、フレーベル社は知っていても全く知らないことばかりだったので無知を恥じつつ知ることが出来てよかったと思いました。
    パンを焼いたりヨーグルトを作ったり、自分は発酵については周りの人よりは興味を持っている方だ、なんて思っていましたがこれを読むとその浅薄さに踊り出したいような恥ずかしさを感じます。

    6章の「ほどく」と「むすぶ」の項を読んでいる時田口ランディさんの著書「ほつれとむすぼれ」を思い出しました。(内容はほとんど忘れてしまいましたが…)

    おそらく著者の真意のほとんどを正確に汲み取れなかった読者なんだろうな(とほほ)と思うものの、時々はこのような難易度高い読書を志したいと思いました。

  • 縦横無尽に分解というテーマで話が進む。理解の難しいところもあったが、考えさせられる良い本だった。人はとこしえを希求してとかれることを忌避しているのだろうか。シンプルなルールを求め、逆に支配されるイリイチの道具概念にも通ずる批判を感じる。とくとむすぶの往復であることを大事にしたい。

  • 図書館で借りていたけど期限までに読みきれなかった、でもとても面白かったので購入。まだ途中だけど大切な視点が沢山……
    表紙もシンプルで美しくて、紙質も含めて好き、でもきっと汚れやすい、こんなときに以前古本市の動画で見た「グラシン紙」が要るのねきっと。どこに売ってるのかな……

  • 能動態と受動態の均衡に隠されている「中動態」のような、「分解」を生産と消費のサイクルに発見するエピソードたち。

    つまらないビジネス書が土台にしている、人的資本の価値増進にとって有利であり合理的であることを選び続ける、レベル上げゲームに真剣に取り組み続けること、そのドラクエ的ガバナンスの凡庸さ、退屈さ、アホらしさが「分解」の豊さを参照すると目立ってくる。

    凡庸さ、退屈さは忘却に依ることは明らか、その忘れてた部分(実際に多く子供の時分に確かに経験している)を思い出させてくれる良書。

    どのエピソードも素晴らしいが、蟻の街の物語はとくに面白く、情景的でもあり、印象に残る。

  • 現代思想でチラッと読んだときに面白かったこと.それが一冊にまとまっていること.またサントリー学芸賞を受賞しているとのこと.まだ読み始めだけど,読みやすいし,たぶんこれまで読んできた思考は違う何かを感じさせる.

  • 好きな作家さんの本がこういうテーマに近いものが多いせいかあまり目新しさを感じなかったのと、この本のように引用や事象の羅列がほとんどみたいな構成って好みではなくて、引き込まれなかった。
    カレル・チャペックの話とか要素要素では面白い話もあった。

    合理化を推し進めて大量生産・大量消費を繰り返し、人間自体を消費する社会、ネグリの「帝国」(学生の頃読んだけど全く共感できない本だった、その話は置くとして)、そういうものを否定することが当然として議論が進むのが個人的にひっかかる。まだ私はそうしたくない。それはその目的に沿って正しいし、地球と私たち自身が使い捨てられるとして、その正しさは損なわれないのではないかと思ってしまう(私はそうなって欲しくはないが)。
    否定しようと思えば価値観vs価値観の戦いにならざるを得ない。もしくは、人間に価値を付けてはいけないのか、いけないならそれはなぜなのかという問いに答えを出すしかないと思うが、私にはまだそれが分からない。

    バタヤの項なんて結構危ういラインで話をしているなあと感じた。彼らを分解者として定義し、マルチチュード的役割を見るというのは、どうなんだろう。彼らの不安定で不衛生で犯罪に手を出す者もいる状況、ギリギリの生を生きざるを得ない成り行きは、そういう状況にない者が観念の言葉遊びで消費していいものなのか。マルチチュードの思想自体にもそんな風の地に足ついてない感じがあるが。
    藤原さん自身もその懸念をちらっと書いてはいたが…現代だって似たようなことをするホームレスはいるのに自分は絶対やる気ないだろう、それなのによく言うよな、と思ってしまった。彼らは彼ら自身の生を必死で生きているのに、やれ分解者だ、帝国のシステムを食らう可能性だなどという言葉を上から被せられても、うんざりするだけだろう。バタヤの町に入った神父たちのように、その思想をもって只中に入り、自ら実践をするというなら、立派だと思うけど。

  • 土に還元できない、分解できない、という視点。当たり前のような指摘であって、正面から深く考察することはなかった。日本の場合、死者は火葬するのが一般的である。つまり、土には還らない。あるいは、資本主義のもとで生産費が安価な塩化ビニールなど人工的に作り出された物質は当然ながら分解できない。生物というサイクルの中で、いかに人間だけが傲慢であるのか。人間の社会もまた、様々なものを"便利"な技術革新によって排除してきた。人とほとんど話すことなくボタン一つで商品が届いたり、自分で考えることなく答えが導き出されたり。ところが、分解とか壊れるとか、マイナスと捉えていたことをめぐっては、今まで見えてこなかったことがわかったり、あるいは偶発的に人との関わりが生まれたりなどと、そこに様々な変化が生まれる。おそらく、新自由主義と権威主義のなかでますますひどい世界になっていくなかで、(ネグリとハートに関連した議論もあったが)必要なのはこういう視点だろうなと思った。こんな視点をアカデミックに繋げて論じられる著者は凄すぎるなと。

  • 自分で酵母からパンを作ったり、きのこを栽培したり、生ごみを堆肥に変えてみたりするなかで、「分解」や「微生物」の世界のことが気になっていた。

    序章はとっても面白かった。提起される問題の視点も独特で、特にナチスが「人間と自然の豊かな関係を国家として築いていくことを宣言」したこととユダヤ人撲滅政策が、矛盾なくつながっていたという事実は興味深く(ただし、これはハンナ・アーレントなどの思想に基づく指摘。やっぱりアーレントをもっと読んだ方が良さそう)、かなり期待は高まったものの、高めすぎたのかもしれない。

    思想、文学や金継ぎなど、いろいろな事例から「分解」を見出していき、確かにそこで描写されていることは事実かもしれないが、専門外のことについて間違えないように書いた、という印象が残る。他者の営みを借りずとも、筆者自身の個別的な実体験に基づく哲学であればもっと説得力があったように思う。

    本書は雑誌などへの連載をもとに書き直したものらしいが、確かにその形式であれば楽しめただろうと思う。一冊にまとめてみると、軽薄さやこじつけのようなものが透けて見えてしまう。時期が違えばまた楽しめるのか、今はまだわからない。

  • 世界は足し算ではなく、割り算引き算でできている。

    つくることは、分解すること。

    「時」が、「解く」から生まれるように。

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著者プロフィール

1976年生まれ。京都大学人文科学研究所准教授。専門は農業史、食の思想史。2006年、『ナチス・ドイツの有機農業』(柏書房)で日本ドイツ学会奨励賞、2013年、『ナチスのキッチン』(水声社/決定版:共和国)で河合隼雄学芸賞、2019年、日本学術振興会賞、『給食の歴史』(岩波新書)で辻静雄食文化賞、『分解の哲学』(青土社)でサントリー学芸賞を受賞。著書に、『カブラの冬』(人文書院)、『稲の大東亜共栄圏』(吉川弘文館)、『食べること考えること』(共和国)、『トラクターの世界史』(中公新書)、『食べるとはどういうことか』(農山漁村文化協会)、『縁食論』(ミシマ社)、『農の原理の史的研究』(創元社)、『歴史の屑拾い』(講談社)ほか。共著に『農学と戦争』、『言葉をもみほぐす』(共に岩波書店)、『中学生から知りたいウクライナのこと』(ミシマ社)などがある。

「2022年 『植物考』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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