- Amazon.co.jp ・本 (230ページ)
- / ISBN・EAN: 9784794219459
作品紹介・あらすじ
江戸時代の百姓は、武士に支配されるだけの「もの言わぬ民」ではなく、家を守り、村をよくするためには果敢に訴訟をおこした。それを裁く武士も、原告・被告の百姓が納得する判決を下さなければ、支配者としての権威を保てなかった。本書では、江戸時代の訴訟・裁判を概観しつつ、信濃国の松代藩真田家領内でおきた百姓の訴訟を取り上げ、騒動の始まりから判決までの全過程をつぶさに解説。百姓と武士の意外な関係を明らかにする。
感想・レビュー・書評
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・江戸時代の農民と言えば、強権的な武士に対して無力で、「生かさぬよう、殺さぬよう」搾取されるだけの惨めな存在。そんな印象を持っていたのだが、そうではなかった。江戸時代のどの時期かにもよるが、農民は決して「物言わぬ」存在ではなかったし、農民が公的な場で自分の利害を主張をするだけの社会的環境も整えられていた。
・具体的には、農民にも訴訟は認められた権利であったということ。現代以上に訴訟が盛んだったらしい。本書は、ある訴訟の記録を紹介することで、当時の様子を垣間見せてくれる。質問状やらそれに対する回答状などのやり取りがあったため、当時の様子を知ることができるわけだ。これらの訴状や質問状なども全て現代語訳してくれているので読みやすい。「自分に悪意はなかったんだけど、お騒がせしたことについては申し訳ない」なんて言う、本当に謝ってんだか謝ってないんだか分からないような言い方が、この頃から使われていたのが分かるのもまた面白い。ちなみにこの裁判、足かけ5年というから、当時に対する先入観も変わる。
・郡奉行から職奉行、評定所とヒートアップして周りを巻き込んでいくこの訴訟で、巻き込まれる側の武士達が、判決前に、藩の威光を保つためにどのように決着させればよいかを示し合わせている過程まで分かるのが面白い。帯刀という形で暴力の行使を許されてはいるが、やってることは官僚。なお、意外だったのだが、彼らの基本的な方針というのは、明確な判決を下すことではなく、関係者(この場合は農民)全員が納得して円満に解決することが重視されたという点。判決を一方的に言い渡しておしまい、ではなかった。意外と農民が大事にされていた事実が見えてくる。
・それにしても、何で、江戸時代の農民は搾取されるだけの惨めな存在というイメージが教育的に採られたんだろう? -
よく時代劇で描かれる百姓は、武士に支配された弱い立場ですが、実際は自らの利益を守るためにはどんどん訴えていました。
この本では、当時の裁判資料から信濃国の松代藩真田家領内でおきた百姓の訴訟を取り上げ、判決までの百姓と武士のリアルな駆け引きを描きます。あまり知られてこなかった百姓と武士の意外な関係を知ることができます。 -
松代藩に残された裁判史料から、江戸時代の百姓たちが、武士に支配されるだけの「もの言わぬ民」ではなく、村の運営に不満があったり、自らの利益を守るためには、どんどん領主に訴え出たその様子を明らかにした一書。とにかく裁判の二転三転する様子が面白い。歴史資料の面白さを知る醍醐味が味わえるのではないのだろうか。
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全編通して平易で読みやすかった。著者の目論見通り、私の中の百姓観がかなり変わったが、同時に武士観も相当に変わったのが面白い。自分の中で色彩豊かに描かれ始めた「江戸時代の人々」を、もっと掘り下げて知りたくなった。
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こんなに頭の良い百姓が多くいたのに、何故現代人は彼らに愚鈍なイメージを抱いているのだろう?
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江戸時代の百姓というと、不満が溜まって悶々としているか、あるいは命をかけて直訴や一揆、というステロタイプな想像をしてしまうのですが、本書の百姓は、訴訟技術を次々に磨いてお上に訴えていきます。
三権分立もなく、法曹関係者といえる人もほとんど何処にもいないなか、村内の対立をめぐっての顛末。
裁きは当事者同士だけでなく「お上の威光」と「民衆の権利」の綱引きでもあり、みなさん腐心するさまが面白い。拷問も可能性としてはあったようで、あんまり笑える話ではないけど、もめ方とおさめ方、という点で、なんとも面白いではないですか。