文庫 人生を感じる時間 (草思社文庫 ほ 1-1)

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  • 草思社
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  • Amazon.co.jp ・本 (279ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794220028

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  • ・自分が生きている時代をただ楽しいと思っていられる人は、その時代に適合するサイズの内面しか持っていない。時代が求めるもの以上の遠いところを見ているからこそ、その人は生きにくいと感じることができる。
    ・人間は反復によって「何か」を理解するようにできている。
    ・よりどころとなるのは、明るさや早さや確かそうではなくて、戸惑い頭に暮れている状態から逃げないことなのだ。
    ・現代の人間に必要な事は、金のサイクルの中で成功することではなく、金のサイクルの外に出ること。これができるのは皮肉ではあるが金持ちだけ。

  •  相変わらず「ゆるく」も「するどい」保坂さんの実存的考察。エッセイとして書いているのだろうが「日常」というにはあまりにも重い。とはいえ、やはり「書く」題材は日常から持ってこなくては話の端緒がつかめるはずもないので、やはり普段の何気ない光景から考察は始まるのはエッセイの定石だろう。こうした文章を読んでいて「よかった」と思うことは「自分と同じようなことを考えている人がとりあえずはいる」ということである。さらにそこから少しの「ズレ」を見つけると自分の立ち位置がある程度つかめる。そこからどうこうするとは限らないが「腑に落ちる」という体験はこうした文章で触れる以外にそれほど多くはないように思う。

     エッセイで取り上げられることが多い「死」についても語っている。それぞれの作家の死生観はとても参考になるのだが、どれも結論は「納得」や「了承」といったものが多い。しかし多くの人間はそれに辿り着く前の「認識」にすら至っていないのが現状ではないか。本書のような深い考察を試みているような本でも読まない限り「死」など考えることもないのだろうか。ちょっとした考察のきっかけは日常にころがっているはずである。

     エッセイで取り上げられるものでさらに多いのが「お金」の話。経済というスケールの大きなものではないが、これまた「日常」においては避けては通れない話題である。周囲の人間は「ナニナニがいくらかかった」などといった話は張り切って語るのに「そもそもお金ってナニ?」といった話には「そんな話いいよ」といった感じで受け流す。「死」だの「金銭」だのという話の本質的部分は多くの人間が避けざるをえない話題なのだな、とつくづく感じる。こうした話は「教養」という範疇でくくれるかもしれない。その「教養」に対してある種の人達は「役に立たない」知識という考えをもっているようにみえる。むしろ「有害」と思っているヒトも多いかもしれない。

     保坂さんの年代の人達は、様々な物事に深い考察をしていて話がとてもおもしろい人が多いように思うがその反面、多くの物事に興味を失っていて話がものすごくつまらない人も多い。人それぞれと言われればそれまでなのだが、他の年代特に若い年代の人達の間ではそこまでの差がついてはいないような気がする。「日常」をきっかけにして「考察」するというささやかな営みは、今後いかなる状況に追い込まれたとしても継続していきたい。

著者プロフィール

1956年、山梨県に生まれる。小説家。早稲田大学政経学部卒業。1990年『プレーンソング』でデビュー。1993年『草の上の朝食』で野間文芸新人賞、1995年『この人の閾(いき)』で芥川賞、1997年『季節の記憶』で平林たい子文学賞、谷崎潤一郎賞、2018年『ハレルヤ』所収の「こことよそ」で川端康成文学賞を受賞。主な著書に、『生きる歓び』『カンバセイション・ピース』『書きあぐねている人のための小説入門』『小説の自由』『小説の誕生』ほか。

「2022年 『DEATHか裸(ら)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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