建築と触覚: 空間と五感をめぐる哲学

  • 草思社
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本棚登録 : 171
感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794226167

作品紹介・あらすじ

すべてが視覚情報化され消費されていくかのような昨今、
建築が本来もつ「五感を統合する」という役割を今こそ見直すべきである。

メルロ=ポンティ、バシュラールらの議論を踏まえながら、
建築における触覚、聴覚、味覚、嗅覚の重要性を再考し、
あるべき本流の空間とは何かを問う。
ラスムッセン、クリスチャン・ノルベルグ=シュルツらの精神を継承する、
北欧の最重要建築理論家による著、待望の邦訳。

スティーブン・ホール推奨。
「パッラスマーは単なる理論家ではない。
現象学的に洞察する力をもつすぐれた建築家だ。
分析不可能な諸感覚の建築を実践に移し、
その現象学的な性質でもって自身が建築哲学について著してきたものを具象化している。」

世界的建築情報サイトArchiDailyが選ぶ、名建築書ベスト150に選出。


前書き 「薄氷」スティーブン・ホール
序論 世界に触れる
 
第一部
視覚と知識    
視覚中心主義への批判
ナルシストの眼とニヒリストの眼
声の空間と視覚の空間
網膜の建築、立体感の喪失
視覚イメージとしての建築
物質性と時間
「アルベルティの窓」の拒絶
視覚と感覚の新たなバランス

第二部
身体中心  
複数の感覚による経験  
陰影の重要性  
聴覚の親密さ  
静寂、時間、孤独  
匂いの空間  
触覚の形状  
石の味  
筋肉と骨のイメージ  
行為のイメージ  
身体的同化  
身体の模倣  
記憶と想像の空間  
多感覚の建築  
建築の役割

感想・レビュー・書評

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  •  著者のユハニ・パラッスマーは建築だけではなく、現象学的な視点から建築を捉え作品を制作している。本書は現象学の分野である「知覚の問題」から生まれたものであり、自身の主張を論じている。
     パラッスマーは一貫して「視覚よりも触覚」を主張し、建築には形而上学的な基礎があると示している。視覚が優位と数多くの学者や研究者が論じている中で、触覚を支持する学者、研究者の言葉を引用しつつ、自身の主張をさらに飛躍させている。また昨今の世界では視覚的イメージを用いた身体体験が蔓延っているため、その懸念もしており、視覚と触覚の比較、諸感覚と建築についての考察をしている非常に面白い一冊。
    特に第二部「身体中心」の冒頭から2〜4ページ辺りが興味深い。
    作中引用ヘーゲル「触覚は物体の質量、抵抗、三次元の形状を感じ取るものであり、ひいては事物があらゆる方向へと広がって行くことを認識させる。」
    作中引用著者「視覚は既に触覚が知ってる事柄を明らかに示す。触覚は無自覚の視覚と考えられることもできる。」
     まとめると視覚を通して事物を視覚的に掴み、過去に触覚で得た体験と照らし合わせ、事物がなんであるかを明らかにする。そしてそのようなプロセスを経て経験へと変換される。だから視覚は触覚の手助けが必要なのである。視覚だけでは事物の説明は出来ないし、視覚は必ず触覚を介していることが分かる。
     これらの一連の流れを分かるために、光を用いた現代芸術家であるジェームズ・タレルがとても良い例に使えると思った。作品である直島「オープンフィールド」や21世紀美術館「ブループラネットスカイ」で説明が出来るのではないだろうか。
    「オープンフィールド」用いて説明すると、作品の平面にみえるスクリーンが実は空間の入り口なのである。視覚では平面的にみえるが、その空間を歩いて初めて入口であることが認識される。足で歩き、地面を捉えた感覚、手のひらで触れた壁から推測した空間の輪郭。触覚を通して初めてこの空間が立体であることを認識するのだろう。そして実際に作品を自身の体で経験すれば一連の流れが分かるだろう。
     この本を読み終われば自身の諸感覚に注目し、より高い視点で身体体験をすることが出来ると思う。否、実は読んでいる最中から高度な身体体験は始まっていたのかも知れない。本でこのような体験が出来たのは久しぶりだと思う。
     

  • 視覚に依存しすぎていると、ファサードや任意の視点の見栄えを重視するせいか、別の面から見るとのっぺらぼうのようだったり、断絶していたり、空虚だったり、人間の心地よい間合いからかけ離れていたりする。

    現在は本が書かれた時よりも、さらに視覚情報の氾濫した世の中になってきているかもしれない。
    建築もそれにつられてはいまいか。

    身体性に依拠した、温度と湿度と柔らかさと味わいや匂いを感じられる、居心地のよい建築を創造したいと改めて気合いが入った。
    読んだばかりなので、咀嚼して読み直しながら再度書評を纏めたい。

  • 記録

  • これ面白かった。今は視覚至上主義(?)となってしまっているが、昔は聴覚が優先だったんだ

  • スティーブン•ホールやエドワード•ホールなど巨匠の名前が多く出てきます

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著者プロフィール

ユハニ・パッラスマー(Juhani Pallasmaa)
現代のフィンランドを代表する建築家、建築思想家。ヘルシンキ工芸大学学長、フィンランド建築博物館館長、ヘルシンキ工科大学建築学部教授・学部長を歴任。著作にThe Thinking Hand: The Thinking Hand: Existential and Embodied Wisdom in Architecture (John Wiley & Sons, 2009)、The Embodied Image: The Embodied Image: The Imagination and Imagery in Architecture (John Wiley & Sons, 2011)などがある。

「2022年 『建築と触覚 空間と五感をめぐる哲学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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