文庫 辞書編集、三十七年 (草思社文庫 か 8-2)

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  • 草思社
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  • Amazon.co.jp ・本 (325ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794226211

作品紹介・あらすじ

辞書編集とは“刑罰”である。

辞書編集ひと筋37年、『日本国語大辞典』の元編集長による
苦難と歓喜の回顧録。日本語のうんちくも満載。

出版社に入りさえすれば、いつかは文芸編集者になれるはず……
そんな想いで飛び込んだ会社は、日本屈指の辞書の専門家集団だった──。
悪戦苦闘しつつも徐々にことばの世界にのめり込み、
気づけば三十七年もの間、辞書を編み続けた著者。
「辞書編集者なのに明るい?」
「辞書と闇社会の深い関係」
「『とにかく』と『ともかく』はどう違うか」など、
興味深い辞書と日本語話が満載。
日本でも希少な辞書専門の編集者によるエッセイ。

感想・レビュー・書評

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  • 辞書を作ることは、孤独な作業のように見えて、さまざまな人の思いがせめぎ合っていることがよく分かる(というか、よく怒られている)。

    読んでいて、句読点や記号をテーマにした辞書が欲しくなった。
    電子辞書のシェアがどんどん広がっていく世の中だが、こういうテーマ性のある辞書は、まだ電子化はされないように思う。
    それに、目的に対し引くことだけなら電子辞書に分があっても、読むことにおいては物質としての辞書の良さもある(辞書ひき学習も、その良さを体現した学習だとも思う)。

    第十一章には、白川静に関わる話が少し入っている。機につけられた「、」はなぜ必要か。
    ここには「ほこに付けられた旗印」の意味があると書かれている。
    面白い。

  • ・神永曉「辞書編集、三十七年」(草思社文庫)はまだ現役の辞書編集者のエッセイである。言葉の蘊蓄はあまりない。本書ではさういふものより、辞書編集者としての 様々な体験が書かれてゐる。序章「辞書編集者になるまで」から第十一章「辞書以外の世界で『ことばの面白さを伝える』」まで、 37年間の経験が次から次へと語られる。目次を見るだけでもおもしろい。第一章「『辞書編集者』とは何者か?」は「辞書編集者なのに明るい」(「なのに」に傍点)「辞書編集という刑罰」等々、第三章「思い出の辞書たち」にはこの人の手がけたいくつもの辞書が並ぶ。当然その中心には「日本国語大辞典」第二版がある。といふやうに、本書は目次だけながめてゐるだけでも楽しい。辞書編集者が辞書とその周辺を語り、その見出しを実に分かり易くつけたからさうなつただけのこと、これも編集者の編集者たる所以がその著作に現れたのであらう。それにしても辞書編集一筋といふ「希少な存在かもしれない私が、辞書編集者として、日本語とどのようにかかわってきたのか書き残しておくのも、少しは意味があるのではないか。」(4頁)と考へたといふ執筆動機は正に有り難いものであつた。それは「はじめに」できちんと各章の説明をするといふ〈几帳面さ〉にも表れてゐるやうな気がする。そんな書であつた。
    ・著者は「『辞書編集者なのに明るいですね』と言われたことがある。」(38頁)といふ。一般の人は「辞書編集者とはまじめで、黙々と仕事をするタイプの人間だと思っているのかもしれない。」(同前)とある。私はできあがつた辞書しか知らないので、辞書作りに於いて、編集者がどのやうな仕事をしてゐるのかを知らない。原稿依頼や校正は当然のこと、しかしそれ以外は編集委員以下の人々がやつてゐるのかぐらゐは考へる。しかし、実際にはそこに止まらないらしい。編集者の関与がかなりあるらしい。辞書の項目選択はほとんどやらないらしいが、執筆依頼のための執筆要領は編集者が作るといふ。原稿出来後の執筆要領違反等のチェックも行ふ(45〜46頁)。その後にゲラの洪水がある。ただ読むだけでなく「文章を整える作業を行う」(47頁)。これは読むだけで大変さうだと思ふ。辞書の文字数は多い。「これを毎日コツコツと読んでいかなければならないわけだから、いやでも忍耐力が試される。(中略)とても根気があるとは思えない私が、なんとか三十七年間勤めあげられたのは、忍耐力があるというよりも、たぶんこの仕事が体質的に合っていたからだと思う。」(同前)と書く筆者の忍耐力のすごさを思ふ。これはやはり尋常ではない。「体質的に合」う といつても、三十七年間は並みではない。正に「希少な存在」に違ひない。ただ、その一方で創造的な仕事もある。例へば「現代国語例解辞典」、高校学習用かといふ感じの辞書だが、売りは「類義語の差異を例文の中で示した表組」(83頁)である。これを「類語対比表」といふ。「これは今でも画期的なものだった」(同前)との自己評価がある。私はこれは何だと思つたものだが、慣れてくるとそれなりに便利ではあつた。「○」があれば使へる、「-」だと使へない簡単に言へばそれだけだが、迷ふ時には参考になる。実際 には「松井栄一先生の発案」(同前)だが、筆者も大きく関与したに違ひない。他にも特徴のある辞書である。私はそれに気づくこと なく使つてゐた。知らなくても使へてしまふといふ点が編集者の〈悲劇〉かもしれない。辞書なんて皆さういふものだと言へる。人の苦労も知らないでと言はれさうである。実際知らなかつたのである。その意味でも本書はおもしろかつた。

  • 小学館の辞書編集部で日本国語大辞典(第2版)などの編集に携わった辞書一筋の編集者による回顧録。執筆などに携わった学者との思い出話や読者からの問い合わせなの話などいろいろ興味部会が、最後の方に出てくる最近小学生に推奨しているらしい辞書引き学習なるもので、小学3年生が2万3千枚の付箋を貼ったという辞書の写真に一番度肝を抜かれた。もはや現代アートみたいになっとる。
    あと、文中に登場する学者で「はやしおおき」という名が、「林大」と「林巨樹」という二通りの表記で出てきて誤植?どっちが正解と思ってたら、調べてみたら別人だった。

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著者プロフィール

【神永 曉】(かみなが さとる)

辞書編集者。元小学館辞典編集部編集長。1956年、千葉県生まれ。80年、小学館の関連会社尚学図書に入社。93年、小学館に移籍。尚学図書に入社以来、37年間ほぼ辞書編集一筋の編集者人生を送る。担当した辞典は『日本国語大辞典 第二版』『現代国語例解辞典』『使い方のわかる類語例解辞典』『標準語引き日本方言辞典』『例解学習国語辞典』『日本語便利辞典』『美しい日本語の辞典』など多数。2017年2月に小学館を定年で退社後も『日本国語大辞典 第三版』に向けての編纂事業に参画している。著書に『悩ましい国語辞典』『さらに悩ましい国語辞典』『美しい日本語101』(いずれも時事通信社)、『微妙におかしな日本語』『辞典編集、三十七年』(いずれも草思社)などがある。

「2022年 『やっぱり悩ましい国語辞典』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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