菊と刀 縮約版 The Chrysanthemum and the Sword【日英対訳】 (対訳ニッポン双書)
- IBCパブリッシング (2011年8月26日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (184ページ)
- / ISBN・EAN: 9784794600974
作品紹介・あらすじ
日本人の不可解な行動パターンを解く鍵は「恩返し」と「義理を果たす」という概念にあった。また、その強制力となっている概念が「恥」なのだ。ルース・ベネディクトの考えを異文化コミュニケーションの観点から検証する!日米不滅のロングセラーをわかりやすい英語と新訳で。
感想・レビュー・書評
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『感想』
〇菊と刀という本は欧米を罪の文化、日本を恥の文化と表しているということは知っていた。興味はあって一度読んでみたいと思っていたが、古い本の上に分厚いということで、手が出せていなかった。今回縮約版を見つけたので読んでみることとした。なお、これは日本語/英語の対訳版ではあるが、私は日本語の方しか読んでいない。
〇著者のルース・ベネディクトは日本に来たことがなく、アメリカにいた日本人や日系人に話を聞いただけなのか。それもあって解釈がおかしいと感じる部分もあるが、概ね言わんとすることはわかる。ここまで日本人について興味を持ってくれ、また欧米人との違いを知ったうえで尊重してくれているところに深く感じ入った。
〇江戸時代から昭和初期を背景とした考察であるため、今は通用しない感性もある。しかし義理・情・誠実・恥への考察は今も生きていると感じる。
〇義理を負債と説明するのは、微妙に違うがザクッと説明するにはわかりやすい。借りは返さなくてはならなく、貸した方もそれが当たり前だと思っている所はある。特に結婚などの祝いや葬儀などの不幸は、個人としての親しさよりも家としての長く続く歴史を重視し、貸したり返したりしなければならない。
〇誠実については、人として誠実なことだけでなく所属する組織に対しての誠実さが必要となる。だから悪いことを組織のために隠そうとする。それが結局自分を守ることにもなる。
〇情を大切にしないと、自分が失敗したときに周囲から爪はじきにされてしまう。
〇結局は日本人の気質は、自分を守るためにあるのだな。今多様な気質に触れ、自由になる日本人も増えてきたから、こういうものが薄れてきているのは実感する。しかしこれを大事にしている人がいるということは知っておかないと、苦労するぞ。
〇私も恥に関しては敏感だ。守らなければならないもののかなり上にある。これは人として倫理を守るうえで大事なことでもあり、倫理をはみ出すこともある足枷ともなる。
〇今回の場合は種族だが、個人の感性について染まれとは言わないがそういうこともあるのだと理解はしてほしいな。これは人に求めるだけでなく、自分も他者に対してしていかなければいけないことだ。
『フレーズ』
・「愛」、「親切」そして「献身」といった我々の持つ価値観は、義務によってもたらされるものではありません。しかし、それは日本では当てはまらないのです。やってもらったことは、全て、その人の「負債」となるのです。(p.80)
・自らの名に対する義理の概念は、アメリカ人が意識するプロとしての水準の高さを求めることとは無関係です。日本の教師はよく、自らの名に対する義理があるが故に、何か知らないことがあっても、それを認めるわけにはいかないのですと言います。(略)ビジネスにおいても同様です。会社の人はその会社が財政難であることをだれにも語れず、立案した企画がうまくいかなかったことも、表明できないのです。(p.104)
・日本人は、(略)人生を、「忠の領域」、「考の領域」、「義理の領域」、「情の領域」、そしてさらにいくつもの領域に分けて考えているのです。それぞれの領域にはそれぞれの規律があり、人は他人をみるときに、一つの統合した人格として判断しません。(p.124)
・日本での「誠実」の本当の姿は、日本人の規律や精神に従う情熱のことなのです。「誠」は自らのためや、自からの利益のために動くことを常としない人への賛辞として使用されます。(略)この言葉はまた、感情に左右されない人を指す言葉としても使用されます。それは日本人の自制心の価値観を示しているからです。(p.142)
・「罪」は個人の心の中にあり、「恥」は社会やグループの構成員と自らを比較した場合に生まれる感情かもしれません。その点、「罪」の意識はより宗教的、倫理的、そして哲学的だというわけです。【訳者解説】(p.149)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
対訳という形で,英語表現と見比べられるのは非常に良い.
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取材方法や資料に関して問題は指摘されているものの、極めて鋭い考察が為されている。
今の日本人とは違う部分も認められるが、未だに生きている部分も相当に多いのではないだろうか。
日本語教師をやって時分に、質問を受けて初めて日本語の構造に気付く事が多々あった。この本にはそれと同じ感覚を幾度となく味わった。
この著者には舌を巻く思いだ。