オランダ公共図書館の挑戦: サービスを有料にするのはなぜか?

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  • Amazon.co.jp ・本 (252ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794811028

作品紹介・あらすじ

筆者は普段、北欧の公共図書館を研究対象にしているのだが、ずっとオランダの公共図書館が気になっていた。ノルウェーに調査に行った折のことである。小さな町の図書館司書に面会したとき、開口一番、次のように尋ねられたのだ。
「日本では、図書館サービスは有料ですか?」
 日本の公共図書館サービスはすべて無料で利用できると答えると、司書は心底ほっとした様子で「ノルウェーもです」と言った。そして顔を曇らせながら、「でもね、オランダでは課金するんですよ」とつけくわえた。
 そう、オランダでは、公共図書館サービスが有料なのである。
 近代公共図書館は、「無料」「公開性」「自治体による直接運営」という三つの理念を拠り所としてきた。公的予算が縮減し、新自由主義の影響を受けた市場主導型の文化政策が強まるなか、自治体直営の原則は揺らぎつつある。それでも最初の二つの条件、すなわちすべての住民がいつでも無料で公共図書館を利用できるという点については、公共図書館制度が整備されたほとんどの国で、基本的人権に関わる文化保障の観点から維持されている。
 オランダに行くまでは、「いかなる理由があるにせよ、公共図書館サービスへの課金が許されてよいはずがない」と思っていた。無料だからこそ公共図書館と呼べるのではないか、と。こんな思いがあったため、訪ねる図書館すべてで、司書や職員に「なぜ課金するんですか?」と片っ端から聞いて回った。
 充実した公共サービスで注目されてきたオランダで、いったいなぜ図書館は有料なのか。読者のみなさんにもぜひ本書を通じてその理由を知ってもらい、公共図書館という存在を考えるきっかけにしてもらえればと願っている。(よしだ・ゆうこ)

感想・レビュー・書評

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  • オランダの図書館が、閲覧、施設の利用、レファレンスは無料だけれど、貸し出しなどが有料なのは、歴史的に図書館が会員制の有料のものだったから。
    なるほどー。

    結果、基本的人権で保障されるものの範囲が狭いのがオランダであると。

    それでも、18歳以下の子どもや生活困窮者や移民などは無料。そこはきちんと線引きがされている。

    人々がよりよく生きるために力を尽くす、というところはどこにおいても図書館の最大の使命なんだよな。
    それにしてもデザインが素敵すぎる。

  • 2750


    日本でも、バカンスで思う存分本を読みたい、と思っている人が増えてきているようだ。近年、全国で読書をテーマにした旅館やホテルがオープンしている。そうした非日常的な空間で読書にひたるほど、幸福な時間の過ごし方はないと思う。本はどこでも読めるわけだから、わざわざ本む場所と時間をつくるということはすごく贅沢なとなるし、旅をしていると感性がいつもよりも研ぎ澄まされるので、読んだ本の記憶がよく残る。

    ダッチ・デザイン(Dutch Design)
    図書館にかかわるオランダの特徴として最後に触れておきたいのは、「ダッチ・デザイン」と呼ばれるオランダ独自のデザイン様式である。デザイン大国オランダでは、ダッチ・デザインを経験するために美術館に行く必要はない。ダッチ・デザインは、大きいものは建築や家具など、小さいものであれば雑貨やパンフレット、さらには印刷物のなかに書かれた文字まで、見渡せばさまざまなところに存在している。


    オランダは性的マイノリティーである」LGBTに寛容な国である。街を歩いていると、「レインボーフラッグ」と呼ばれる、LGBTであることの誇りを象徴する旗が掲げられている様子をよく見かける。カフェやレストランのレインボーフラッグは、LGBTにとってフレンドリーな店の目印となっている。オランダでは、飲食店だけではなく、美容院でも、住宅街でも、ガソリンスタンドでもこのレインボーフラッグがはためいているのだ。


    無駄を省くという精神は、時と場所を選ばない。オランダ航空も、素っ気ないほどサービスが簡略化さいた。席に着いた途端に次から次へといろいろなモノが配られる機上サービスが苦手な私にとっては、放っておかれることがとてもありがたい。そして、ホテルに着くと、そこには見事にまで何もない。


    たとえば、オランダでは通勤・通学におけるもっとも主要な移動手段は自転車となっているので、朝と夕方には自転車ラッシュを目にすることになる。北部ヨーロッパでは、大勢の人が自転車に乗って移動するという光景がよく見られ、歩道と車道の間に二輪車専用レーンが設けられて多い。だから、ヨーロッパに到着して私が真っ先にすることと言えば、この自転車レーンの存在を思い出すことなのだ。


    オランダ人は「堅実にして勤勉、倹約精神に富む」と評されることが多いのだが、それは、このような自然環境の克服と結び付いているものなのだろう。


    北欧と同様、オランダは福祉や文化への公的支援が手厚く、そうした公的サービスを積極的に享受すると同時に、徹底した個人主義を追求する人びとが暮らす国として知られる。公共図書館は社会を映し出す鏡のような存在だから、オランダ公共図書館には成熟した社会のあり方が投影されているに違いない。実際、北欧の図書館関係者も、地理的に近いオランダを結構意識していた。定期的にチェックしている北欧の図書館関係雑誌に、時折、オランダの図書館に関する記事が掲載されていたのだ。

  • オランダの図書館についてまとめられている。会費をもらう以上、利用者志向のサービスが行なわれやすいようだ。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/713596

  • オランダの図書館も魅力的。街中にある小さな図書館でもデザインがおしゃれで居心地が良さそう。オランダの図書館めぐりをしてみたくなった。

  • 有料にするのはなぜかの答えはいかに?
    有料なのは図書館が出来た歴史的背景による
    無料で提供されるサービスに対する軽視の記載もある
    どちらかというとオランダや北欧、近代の図書館事情についての情報がたくさん盛り込まれている本。

    図書館が扱う情報が本だけではなくなり、時代の流れとともに変わる「情報」を提供し続ける場であること。情報の提供であり、場であり、学びの機会を提供する場であること。誰しもが平等に情報に触れられること、誰しもが訪れることができる敷居の低さという重要な役割があることを認識した。

    特に待ち合わせに利用したり、会話して学び合うといった要素は日本の図書館とは違っていると感じた。日本の図書館でも新しい図書館はカフェや演習室の様な施設が充実し、以前に比べて「長居する」ことを良しとする作りが多くなってきてる。

    旅行ができるようになったら、国内外の図書館を訪れてみる旅も計画したい。

  • オランダでは公共図書館サービスが有料。

  • 北欧図書館シリーズ第4弾、北欧とは違うけど近いオランダ。今まで読んだ「デンマーク」「ノルウェー」「スウェーデン」といずれも行ったことがない国でしたが、唯一行ったことのあるオランダ。でも、コンセルトヘボウには行きましたが、図書館には行っていないです(1987年1月の事)。

    この本の最大のテーマはオランダの図書館は「なぜサービスを有料にするのか?」だろう。日本だけでなく「図書館奉仕」の理念により「無料」「公開性」「自治体による直接運営」というのが基本となっていたが、理念から得られるサービスを模索するのではなく、本来あるべきサービスからどこをどのように提供できるかというアプローチも必要なんだろうと考えさせられた。

    「サービス有料」と言うと戸惑いや驚きを隠せないけど、公共でも美術館や博物館は有料のところが多い(そんなものだと疑問も持っていないけどね(笑))。オランダの図書館は、全部有料ではなく、無料と有料の線引きをしている。無料ありきで時代に合わせてどんどんサービスの枠を広げるのではなく、公共性から最低限の
    ・館内での資料閲覧
    ・公共空間としての図書館での滞在
    ・司書からの専門的なアドバイス
    は、誰でも無料だし、子どもが本を借りるのも無料。一方で本を取り寄せたり通常の貸し出しは有料。公共性から見ても納得いくが、そこには、情報取得の平等という考えを阻害しないか、日本では議論が必要な気もする。

    有料化のその収益でより充実したサービスを提供できるようになるという方向性は正しいと感じますが、この本にも記載あるように、有料化の収益が重要な予算の一部になり有料会員維持と増加が課題となるようでは本来の図書館の役割と離れてしまいます。しかし、こうした挑戦を行って、いろんな課題を見つけていくというのは、保守的手法で衰退していくよりは楽しそうです(^^

  • オランダの公共図書館の制度と取り組みを紹介した本。

    制度
    ・オランダの公共図書館は、基礎自治体が設置し、王立図書館は図書館同士のネットワークや研修、情報提供等を行う。また州の支援機関がその中間にあり、基礎自治体のサポートを行う。
    ・運営自体は自治体の委譲を受けて、民間の非営利財団が行う。運営予算の15ペーセントは財団自身の収入、具体的には利用者の年会費と延滞料。
    ・オランダ社会の特徴として、図書館に限らず、福祉医療等も含めた公的サービスがもともと民間非営利団体によって運営されてきた。背景には宗教等による柱状社会がある。
    ・有料サービスについては第3章に詳しいが、実際課金が必要なのはコンピュータ利用と貸出、予約やリクエストであるそうだ。無料に慣れているから驚くけれども、資料にとって貸出はリスクの大きいサービスであることを考えると、館内利用が無料で貸出が有料なのは納得できることのようにも思えてくる。

    サービス
    ・スタッフ不在の時間に、セルフサービスの時間帯を設けていることが最近の傾向。
    ・館内デザインでは階段が特徴的。移動手段に留まらず、読み聞かせ等の居場所としての使い方をされる。
    ・会話や音楽演奏等を可とする図書館は多い。ただしゾーニングは必須で、集中したい人のための個室等もある。
    ・リテラシー支援(p83~)。これは図書館主体というより、政府全体として取り組むプロジェクト。実施は自治体にゆだねられ、学校や社会福祉サービス等色々な主体が関わる。プロジェクトに連動した学習支援プログラムの場として図書館が使われたりしている。
    ・スタッズプレイン図書館「公開討論会」の試み(p184)が印象的。社会問題について、意見の異なる人々が議論する場を提供するもの。難民と受け入れ側の住民など。図書館が優れているというより、こういうプログラムが実施可能ということが社会の成熟をあらわしているように思う。
    ・ゴーダ図書館:チョコレート工場の建物。図書館と文書館に加え、活版印刷工房を持つ。カフェに力を入れる。カフェが創造スペースであるという理由に加え、収入源という現実的な理由もあるようだ。ちなみに飲食物持込禁止。

    疑問
    ・運営という面を考えると、勤務するスタッフの待遇が気になる。給与水準、福利厚生、年齢や人種や性別の構成、キャリアデザイン等。一生そこで働く前提のひとが実施するのか、キャリアアップして入れ替わる前提のひとが実施するのかで、長期的な効果も変わってくるだろう。訪問者の視点ではなかなかうかがい知れないことだが。

  • オランダ公共図書館の訪問調査の内容が書かれた図書。

    オランダの公共図書館は入館、閲覧、レファレンス以外は有料という珍しい体制。ただ社会的にハンディがある人にはかなり安くなる。またサービスも充実しているのであまり住民の情報アクセスの権利を阻害している感じはない印象。むしろ図書館職員が有料会員を増やそうと日々サービス改善に取り組んでいるようなので、それはよいように思う。

    日本の公共図書館でも同じことだがオランダの公共図書館も各機関との連携を大事にしている。難民のためのパソコン講座などは、まさに図書館だな…と感動する。また市民の対話の場となるような図書館づくりも進められている。

    終わりの章ではノルウェーとオランダの図書館法どちらにも他者との会話、公共性をもつ会話を重視していることが示される。図書館の考え方として大いに参考になった。

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著者プロフィール

吉田右子
筑波大学大学院図書館情報メディア研究科教授。 
著書に『メディアとしての図書館』(日本図書館協会)、『デンマークのにぎやかな公共図書館』(新評論)、『オランダ公共図書館の挑戦』(新評論)などがある。

「2023年 『テーマで読むアメリカ公立図書館事典』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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