むずかしい天皇制

  • 晶文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794972637

作品紹介・あらすじ

なぜ他のものは捨てられても、
天皇制だけは捨てられないのか?
悠久の謎の根幹に挑む。

天皇とは何か。天皇制は何のために存在しているのか。天皇の家系は、どうして他の家系と比べて特別に高貴なのか。
こうしたことを誰にも納得できるように説明することは、とてもむずかしい。だがいかにむずかしいとしても、天皇制こそが、日本人である「われわれ」は何者なのか、を理解する上での鍵なのだ。
天皇制の過去、現在を論じることを通じて、日本人とは何か、日本社会の特徴はどこにあるのかを探究する刺激的対談。社会学者と憲法学者が、誰もが答えられない天皇制の謎に挑戦する。

天皇制を理解することは、日本社会の中のひとつの政治制度や特殊な文化様式を理解すること(に尽きるもの)ではない。天皇制を見ることは、結局、日本人と日本社会の歴史的な全体を見ることに直結している。──大澤真幸
天皇制は、天皇・皇族にとっても、日本社会にとっても犠牲が大きく、他方で、それが果たしている法的役割も国民の関心も低い。この制度が存在すること自体が最大の不思議だと言わざるを得ない。──木村草太

【目次】
第1章 現代における天皇制の諸問題──象徴、人権、正統性
第2章 歴史としての天皇制──上世、中世、近世まで
第3章 近代の天皇制──明治維新から敗戦まで
第4章 戦後の天皇制──憲法、戦後処理、民主主義

感想・レビュー・書評

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  • 天皇という存在の不思議さ、ユニークさ、将来性に対する不透明さを社会学者と憲法学者が語る内容が実に斬新に感じた。女性・女系天皇を認めたとしても、今の少子化時代にあっては天皇家の絶滅はかなり有り得ること、天皇や皇室には基本的人権がなく、むしろ内閣の奴隷的な存在であり、その犠牲の上に日本国が成り立っていること、将来、天皇になることを悠仁親王や他の皇族が拒否することも何ら不思議でない、将来は悠仁親王妃になる女性がいるのだろうか?など、なるほどと思う問題提起ばかり。将来途絶えたときには誰を天皇にして制度維持するのだろう!?憲法改正が必要になる!過去の「万世一系」が危うい内容であることや、国民が天皇に敬意を払ってきたとは長い歴史()の中で言えなかったと思われること(実は昭和天皇の時代にも、明治初期にも、むしろ江戸時代には嘲笑対象)、そして日本国憲法の成り立ちが天皇を如何に表現するかが最大の関心であり。どのような民主主義を実現するのか、また9条の平和主義なども素通りで決まってきたと思われることなど、一々頷ける刺激的な本だった。リベラルな憲法学者の木村が天皇制が「外交面で国際公共価値を高めることに役立っている」と指摘していることは実に面白い指摘である。長谷部恭男氏は「みんなが天皇を象徴だと思わなくなったら、憲法第1条は意味がなくなる!」と解説しているとは愉快な話。別に憲法に書いているからではなく、事実だから憲法が象徴と書いているということだそうである。

  • 東2法経図・6F指定:313.6A/O74m/Ishii

  • 日本特有の集団の意思決定法「空気」について明解な解説がある。また河合隼雄の中空構造日本にも通底する見方が示されている。

  • 《日本の天皇制は、人間性から生じる問題に対して極めて脆弱な制度として、あえて作られているのではないかという見方もできます。国民の皆さんは、天皇に見捨てられないレベルの国民でいてください。天皇も安易に国民を見捨てないレベルの徳を持っていてください。そんな前提で作られている。道路交通法のように、ほっとくと悪いことをする人がいるだろうという前提では作られていない。》(p.82)

    《日本の不思議なところは、のちのちの一向一揆とかを見てもそうですが、「租税を払わない!」と言った奴は誰もいないんですよ。ボストン茶会事件みたいなことは起きない。「取られる税が多すぎる!」とは言うけど、「なんで税を取られるの?」とは言わない。だからみんな取られることは前提にしているんですね。ただ、「誰に取られたら一番得か」といった話になり、人が取ったものをもまた取ったりとか、面倒なことになっていくのが、荘園公領制です。》(p.129)

    《貴種(王臣子孫)が核にないと、武装集団は、武士というアイデンティティや自尊心をもつことができないのです。彼らは、本来は天皇がとるべき租税を自分のものとして収奪したり、強奪したりしている連中ですから、天皇をないがしろにしていると言わざるをえない。しかし、武士のリーダーが貴種である根拠は、結局、天皇との近さにあるわけで、彼らは天皇制に依存もしている。》(p.139)

    《ハンナ・アーレントが『革命について』という本の中で、アメリカの憲法の正統性について書いています。憲法はどこから正統性を調達しているのか。結論を言えば、建国という行為そのもの、新しい政治体を創設したということ自体が、権威を生み出していて、憲法の正統性の源泉になっているというわけです。建国という偉大なことを成し遂げたことに、自分自身で感動し、深い敬意を抱く。憲法を維持したり、修正したりするということは、この建国という行為のある意味で、反復なのです。》(p.239)

    《しかし、日本の明治維新は、反復できない建国です。日本は、建国という行為の反復を制度的に保障する装置をもたなかった。(…)日本人は、こうして、建国によって得た、歴史的な自信や、そうしたものを保存する制度を持ち切れなかった。なぜなら革命の意義を、虚構の天皇に全部丸投げしているからです。》(p.239)

    《僕は、日本社会にはどうしても消えず、執拗に残るゆるい、インフォーマルな身分制があるように思うのです。厳密な意味での身分制ではありませんが、身分制的なものが、日本社会から消え尽さない。その究極の原因は、天皇がいるからではないか、と思うのです。まず、確実に言えることは、天皇だけは、あるいは皇族だけは、特別な身分です。そして、歴史を振り返れば、もともと、日本社会における身分というのは、基本的には天皇からの距離です。公家(貴族)とは、朝廷に支える身分でしょう。公家が武家に対していばっている根拠はここにある。公家の中でも、殿上人でなければ、たいしたことはないとされる。殿上人というのは、天皇が住んでいるところ、つまり清涼殿の殿上にのぼることができる人という意味ですよね。さらに摂関家は、もっと天皇に近くて偉い。とにかく、身分の高さとは、天皇からの近さです。明治維新以降は、日本人は、身分をどんどん無化してきたわけですが、身分そのものを生み出す源泉としての天皇だけは、排除しなかった。そうすると、身分的な区別・差別を消しても消しても、微妙な残香みたいな感じで、身分的なるものが——正式な身分ではないけれども身分的な含みがほんのわずか帯びるような格差が——再生産され続けるのです。》(p.256)

    《天皇制や国体を護持しようとしてきた人たちは、本当にそれが何であるのか、何のためなのかわかっていなかったのではないか。すごく大事だから必死になって守っているわけではなく、必死になって守っている以上、大事なのです。自分たちは負けたけれども、守るに値するものがあったのかが大事なのです。》(p.305)

    《高校時代の部活のようなものですね。全国大会に出るような実力があったわけではなく、関東大会の予選に出ただけなので、傍から見たら何のこともないかもしれない。だけれども、一生懸命やったから思い出が残っていると(笑)》(p.305)

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著者プロフィール

大澤真幸(おおさわ・まさち):1958年、長野県生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程修了。社会学博士。思想誌『THINKING 「O」』(左右社)主宰。2007年『ナショナリズムの由来』( 講談社)で毎日出版文化賞、2015年『自由という牢獄』(岩波現代文庫)で河合隼雄学芸賞をそれぞれ受賞。他の著書に『不可能性の時代』『夢よりも深い覚醒へ』(以上、岩波新書)、『〈自由〉の条件』(講談社文芸文庫)、『新世紀のコミュニズムへ』(NHK出版新書)、『日本史のなぞ』(朝日新書)、『社会学史』(講談社現代新書)、『〈世界史〉の哲学』シリーズ(講談社)、『増補 虚構の時代の果て』(ちくま学芸文庫)など多数。共著に『ふしぎなキリスト教』『おどろきの中国』(以上、講談社現代新書)、『資本主義という謎』(NHK出版新書)などがある。

「2023年 『資本主義の〈その先〉へ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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