民主主義と政治的無知 ― 小さな政府の方が賢い理由

  • 信山社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784797227581

作品紹介・あらすじ

アメリカの気鋭の学者ソミン(Ilya Somin、1973- )が、遍在する“政治的無知”とのつきあい方を説く。本書ではまず、政治的無知がいかに遍在しているか,その程度がいかに甚だしいかを、種々のデータを引きながら説得的に論証する。その上で、①小さな政府・分権化、②投票箱による投票でなく足による投票、③司法審査の有用性、によって政治的無知の影響をかなりの程度避けることが可能になると説く。

感想・レビュー・書評

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  • そもそも「投票箱への投票」には政治知識を得るインセンティブがないので、行政の競争を増やし「足による投票」を推奨すべきとの著作。実証などのレビュー。
    翻訳者を見てニッコリ
    ただ、留保をつけるとすれば、中身細かく見るとやっぱり厳密な比較は不可能なんだなぁ、と。後デメリットについても説明してあるので、その点も良心的だった。

    行政間の競争に対して良く出る、公害や健康への支出が減る等の外部効果が大きくなる「底辺へのレース」に関してもきちんと反論されており、道州制の議論にも使えそうな部分もあって大変良かった。趣旨はもっと自治体は多次元的に争っているのでそこで勝負すれば十分勝てるし実際勝っているという主張。
    本書でも指摘されているが、確かに例えば一部の富裕層は健康施策とか、環境保護に関心あるし、自治体がこぞって切り捨て競争するなんて事は無いだろうとは思った。後は移動コストは案外低く、大多数が人生で一回以上の居住地の変更を行っているとの指摘も。それを支援するのは尚良し、と。

  • ふだん考えてることを難しく理詰め?で書いてあるだけだなと途中で思っちゃって、読むのやめてしまいました。
    この本が解決策の提示でなく問題提起の姿勢だったし、無知を自覚している人にとっては、改めて読むまでもないかなと。

    考える力があると自分で思っている人はヒトラー的な考えにいきがち。
    情報ショートカットが増えた結果、基礎をスルーして、大前提が崩れたところであーだのこーだの言ってる姿もよく見る。
    人間はだれしも間違うことはあるし、知らない部分もある。
    私はこの本で言うところの政治的無知だと思うが、政治に興味があって知識がある人でも言葉や自分の中の常識に引っ張られて偏っていると感じることも多々ある。
    思想を強制したい人、自分の思うように持っていきたい人、口だけの人もいる中で、まずシステムとして上手く回す能力があり、そのうえで改善する力があるか、何を目的に政治に関わっているか、どういう考え方を持ってるかというのを理解して見極めるのも難しければ、掲げる政策が本当に解決に導けるかを各分野で判断するのもまた難しいもの。
    自分の生活を成り立たせながら全部を追うのは無理ゲーだし、自分の生活ですら成り立たせられない人に良し悪しの判断も困難。
    自立してる人、依存してる人、自責、他責、勉強ができるできない、家事ができるできない、技術の有無、前に立って引っ張る人、後ろで支える人、理想論か現実的か、宗教観、インドアかアウトドアか、他人を自分と同じ人としてリスペクトできているかどうか。
    社会は多様であり、上昇だけを望んだり、右左でしか考えられないのは盲目的。議題ごとに検討する必要がある。古き良きを守る必要もあれば、温故知新も必要。
    人によって注目する分野も変わるし、本当に多角的に見られる人はごく少数だと思っていて、頭のいい人だって何かしら足りない点はあるだろう。
    だからこそ専門家が必要であって、それぞれの特化した知識などで補い合う必要があるし、権力が集中するのもよくない。
    手広く広げすぎたり、問題を解決するための問題を解決するための問題……みたいなところがあるから、今後必要なのは交通整理や引き算、大局的に見ての全体での協力だと思ってるが、削っちゃいけないところ削ることも多く、誰かのせいにしやすい対立も起こりがち。

  • 5年以上も前に出版された本だが、マル激で神保さんが紹介してくれなければ、危うく読まないままでいるところだった。
    いやぁ、面白い。

    主題は、政府の役割を制限し、分権化するというお馴染みの小さな政府論なのだが、その必要性が政治的無知から説き起こされているのが刺激的。
    デモクラシーの鍵は、選ばれた公務員が有権者に対して負う説明責任だが、彼らはそれを果たしていないと文句を言う前に、そもそも我々は評価するだけの政治的知識を備えているだろうか?
    基礎的な事実に留まらず、何が争点で、誰が責任者なのかといった細々とした知識を。

    我々が有権者として民主政を機能させるためには、新聞やTVで得た、いくらかの政治的知識を持っただけで、投票所に向かうだけでは不十分で、たいてい知識が少なすぎるのだ。

    「政治の学習を制約する主要因は情報が得られないことではなくて、有権者が情報を学び理解するために必要な時間と努力を惜しむことである」。

    衝撃的なのは、米国において、過去50年以上にわたって教育水準は大幅に向上しているのに、政治的知識のレベルはほとんど向上させられず、むしろ停滞しているという事実で、著者はこれでもかと証拠を積み上げる。

    政治への無知の根本的な原因は、情報の供給不足ではない。
    需要の不足、すなわち無知であることが合理的なのだ。
    教育は政治的知識獲得の機会を十分すぎるほど提供していても、市民はそれを利用しようとしない。
    なぜなら、それから得られる個人的利益が十分大きくないためだ。

    「政治について最小限の時間と努力を費やすことは利益よりも費用のほうが大きい」。

    政治的無知は「愚かさ」と同義ではなく、現実には賢明で合理的な選択と言えるのは、選挙結果に影響を及ぼす確率がほとんどゼロの一票の重みに由来する。

    中には政治ファンを自称する、客観的に公平で真理かなど度外視して、バイアスのかかった政治的知識を膨大に蓄えている、合理的に非合理的な有権者がいることはいるが、彼らは投票の質の向上には寄与しておらず、報われるのは本人の心理的満足のみだ。
    仮に政治的知識が豊富な、利他的で無死の有権者がいても、数は圧倒的に少なく、一票の価値とともに、及ぼす影響はほとんど期待できない。
    考えてみれば、現代において国家が果たす役割の規模や複雑性は、有権者にとって情報を咀嚼するのに相当な重荷となっている。

    そこで著者が提案しているのが、政府の範囲を制限して政治の分権化をすすめ、「投票箱による投票」から、「足による投票」に移行しようといういうこと。
    つまり、一票を投ずるのではなく、支持する州や地域を選んで移住しましょう、と。
    そうすれば、どの候補に投票するかを決めるより、自動車やテレビを購入する時にする下調べの方が、より多くの時間と努力を費やすのと同じで、強いインセンティブとして働くはずだという。
    これは昔の農民が田畑を捨て逃げ出す、現代の「逃散」で、させてはならじと地域間で競争関係が生まれるはずとも説いている。

    コロナ禍で全国の各知事の能力の差は歴然と露呈していて、ワクチン接種を効率的に進めたり、検査や情報公開に積極的な知事のいる県と、医療崩壊をたびたび起こし、検査も情報公開も消極的な知事のいる県とでは、生活の場を移す動機づけになるかもしれない。

    もちろん国の財源を当てにして補助金がなければ前に一歩も進めない地方行政の現状は如何ともし難いが、それにしても、政府の権限が社会生活の隅々まで拡張されると、まさかそれが民主主義を"促進"するよりむしろ、"侵食"する時代になろうとは。

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著者プロフィール

イリヤ・ソミン:1973年旧ソ連・サンクト・ペテルブルグ生まれ、2001年イェール大学ロースクール修了、現在、ジョージ・メイソン大学ロースクール教授。森村 進:1955年東京生まれ、1978年東京大学法学部卒業、現在、一橋大学大学院法学研究教授。

「2016年 『民主主義と政治的無知』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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