島へ免許を取りに行く

著者 :
  • 集英社インターナショナル
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本棚登録 : 249
感想 : 47
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784797672381

作品紹介・あらすじ

愛猫をなくし、人間関係はズタズタ。日常に小さな風穴を開けたくなった。40代女子、向かったのは牧場みたいな自動車学校だった-。

感想・レビュー・書評

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  • 星野博美の紀行文やエッセイを読んでいると、視野の広さってなんだろうと考えさせられてしまう。広い視野を持ちなさい、などと中立の立場で広く物事を見渡して判断することをよしとする意見をよく聞くし、自分もしばしば同じようなことを言うけれど、本当にそれでいいのだろうかと不安になる。決して否定的な意味でいうのではないが、星野博美の視野は狭い。

    視野は狭いが視点が低い訳ではない。そして視力はとてもよい。きっとそれだからこそ、ちょっと脇に目を振った時に色んなことが見えてきて、またそちらへのめり込んでいくことになるのだろう。そのバランスが愉快なのだ。

    そして、視野は狭いけれど好奇心はとても旺盛。一つのことが気になると、ずうっとそれを追いかけないではいられない。世の中というのは面白いもので、一本道をひたすら辿っていると思っていたのに、あちらこちらの道がいつの間にか直ぐ傍にに寄って来ていたりする。そして、寄って来る道が気になっていると今度はその道が交差してくる。一つのことが色んなこととつながる。星野博美のエッセイの魅力はそんなところにある。

    免許書を取る、ただそれだけのことにまつわる由無しごとを描いているけなのに、見過ごしがちな日常にこんなにもみっしりと様々な価値観やら人生訓やらが詰まっていたのかということが、知らず知らずの内に見えてくる。つくづく、何にもないような日常が実は一番面白い、と言えるためには、じっくりとその日常と付き合っていかなければならないということを思い知らされる。

    人生の節目に読んで損はない一冊、かも。

  • 図書館でふと目にとまって借りてみた。
    ちょうど息子が教習所合宿に行っている時だったので。

    著者は40歳を過ぎて免許を取る事を決意。
    しかも東京から離れた長崎の五島列島の島に。

    なかなかうまく運転が出来ない教習所での生活がとても面白くて一気に読んでしまった。

    帰ってからの東京での運転もハラハラドキドキ。
    車の運転は向いてないんじゃないかと悩んでいた合宿生活とは違って、今は運転を楽しんでいるのが素晴らしい。
    見習いたいです。

  • 心身ともにクタクタになって、辛いことから逃れたい、乗り越えるために、新しいことに挑戦してみたいという気持ちもわかるし、そのほか、年齢も関わっているのか、臨場感をもって、筆者の気持ちに親近感をおぼえた。免許取得後の後日談のオチもとても楽しかった。
    旅行のお供にする本としても良いと思います。

  • 必要があってというよりも、今の生活のやり直しのために
    免許を取るということを選択する。
    始まりがそこなので、教習所の選び方や、
    五島という場所にある教習所での生活など
    思いもよらない話が次々出てきて面白い。
    文章力を持った人が、免許を取るということ一つに四苦八苦すると、
    本1冊できるほど、見えるもの考えることがあるんだなと感心する。
    出てくるキャラクター(実際にいるんだけど)も味があるし、
    長崎の言葉が柔らかくて、それを読んでいるだけでも気持ちがいい。

  • 小説かと思ったら、エッセイだった。

    こんな人はなかなかいないだろうと言うくらい、もの凄く自己分析をしていて面白い!!

    自動車免許を取得するのに合宿があるのは聞いた事があったけど、わざわざこんな遠くへ行かなくても良いのに…と思いつつ、五島自動車学校で過ごした日々は些細な事までとても面白そうで、やはり、せっかく行くのだから楽しまなくてはもったいないと思わせてくれる。

  • 合宿免許に挑戦した著者の体験記。
    場所は著者の住む東京からはるかに遠い長崎の五島列島、福江島。
    乗馬もできる、海のすぐそばにある自動車学校って素敵です。
    楽しく読みました。
    実地教習では、かなり苦労をされた様子。
    何かを習得して、今まで出来なかったことができるようになった感動が伝わりました。
    車の運転と人生に相通ずるところがあるなんて…奥深いなぁ。
    東京に帰り、運転をするようになって発見したことや、変化したあれこれがまた面白かったです。

  • 18歳人口が激減したので自動車学校はどこも経営が大変らしいです。しかも若者が多い首都圏は車がなくてもあまり困らないため免許を取らない人も増えているそうです。いつのころからか「免許合宿」という方法が編み出され、集中して学習と教習実技に励むだけではなく、イベントや特典が盛りだくさんなところも多いようです。

    著者は40歳を過ぎてから、思い立って免許を取る決心をしました。五島列島福江島の自動車学校を選んだのはそこが高齢者に対応してくれるからと馬に乗れるから。

    著者が困ったことはすべて私に当てはまり、読んでいて冷や汗ものでした。私は星野さんのお姉さまと同じく、免許は何とかとったものの乗らずに更新だけ続けているゴールド保持者です。

    くじけそうなとき、馬と犬が癒してくれます。人間にはできない動物の力です。

    最後に帰京してからのことが。戸越銀座で乗り続けています。すごい。実家に駐車スペースがあり、家族のために車を使う理由がある。下手でも乗り続けるのは誰にでもできることではありません。やはりガッツが違います。これからも安全運転で。

  • 新しいことを始めると見えなかったものに目が行くようになる。すると新しい発見や出逢いがある。そして新しい自分も発見できる。
    私も色んなことに億劫になりがちだけど、踏み出す勇気をこの本からもらったかも!

  • 「合宿で免許を取る」という行為に、ここまで真正面から向き合う人が世の中に他にいただろうか!?
    仕事でつまづき、心機一転飛び込んだ五島の自動車教習所での苦難(?)の日々と、そこで出会う美しい景色と素朴な人々。著者のまっすぐな感性を通すとこんなにも愛おしいものになるなんて。自分が日々いかに多くのことを見落としているか気づかせてくれる一冊です。

  • 40代女性、飼い猫が死に、人間関係に行き詰まり、何か新しいことをしたいと思って長崎の島で合宿免許取得に励む随筆。馬に乗り放題、島の方言で温かく指導する教官。こんなところで免許を取れたら心が元気になるはず。読後感がとってもよく読みやすい本だった。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「読後感がとってもよく読みやすい」
      「のりたまと煙突」や「コンニャク屋漂流記」が面白かったのを記憶している星野博美。読んでみようかな、、、離...
      「読後感がとってもよく読みやすい」
      「のりたまと煙突」や「コンニャク屋漂流記」が面白かったのを記憶している星野博美。読んでみようかな、、、離島が舞台なので気になります。
      2013/07/01
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著者プロフィール

1966年、戸越銀座生まれ。ノンフィクション作家、写真家。著書に『転がる香港に苔は生えない』(2000年、第32回大宅壮一ノンフィクション賞)、『コンニャク屋漂流記』(2011年、第2回いける本大賞、第63回読売文学賞随筆・紀行賞)、『戸越銀座でつかまえて』(2013年)、『みんな彗星を見ていた』(2015年)、『今日はヒョウ柄を着る日』(2017年)、『旅ごころはリュートに乗って』(2020年)など多数。

「2022年 『世界は五反田から始まった』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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