- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784797673180
作品紹介・あらすじ
一枚の地図と想像力があれば、遠い外国の地や、過去の日本へ行ける。長年地図から土地の風景を読みとり続けてきた地図研究家が辿り着いた「空想の旅」は、今まで不可能だった旅を現実のものにした!
感想・レビュー・書評
-
第2回 斎藤茂太賞
詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
”昔の地図を見て情景をイメージしながら旅をしよう”がコンセプトの本。高度成長期前夜の京葉地域(船橋あたり)や明治の赤坂、北欧フィヨルド紀行(ノルウェー)など地図だけで時間と空間を越えて旅ができてしまうのです。
続きはこちら↓
https://flying-bookjunkie.blogspot.com/2018/09/blog-post_11.html
Amazon↓
https://amzn.to/2OdIEOg -
オランダの回が最高地点が低すぎて面白かったです。妄想でここまで書けることに感動します。
-
あえて言うなら「VRブラタモリ」とでも表現すべきか。まるでそこを旅しているような仮想旅行記である。
ブラタモリでタモリ氏がよく「高低差マニア」を自称するように、段差には土地の情報が多く詰まっている。当該番組では地形を手がかりに過去の歴史を手繰り寄せることも多い。
本書も地形とそれに重ねられた森林、田畑、道路、鉄路、そんなものを手がかりに過去の、未来の、あるいは遠く離れた土地を旅する。
地図マニアの著者は特に地形図を愛好している。冒頭から少し引用しよう。
「今は多くの人がスマホを持つ世の中になっていて、人類始まって以来、最も地図が閲覧されている時代に違いない。しかしネットで見られる地図には、町ごとの色分けがわかりやすく示されていたり、マンションやレストランの名前が詳しい代わりに、植生を示す記号も等高線もない」
「私が地形図をあちこちで勧めている理由は、まず植生記号で土地の利用状況がわかり、かつ等高線で起伏が明らかにされることで、その土地の景色が手に取るように見えてくるからだ」
地形には物語がある。そうなのだ。
唐突だが私の好きなゲームである「A列車で行こう9」には、地形の自動生成という機能がある。山が何割、海が何割、平地が何割、起伏の激しさはどれくらい、などと設定するとそれに応じた地形を自動で作ってくれて、その地形に線路を引いて列車を走らせることができる。
しかしこのモードの不満な所は実にランダムすぎて、地形に物語を感じにくい。何よりこのゲームには高い所から低い所に流れる川という概念がない。山があれば川がある。それが自然の摂理である。山中を貫く街道はたいていが川沿いであって、鉄路も当然そうなる。しかし川がないのでどうにも嘘くさくなってしまう。その辺はプレイヤーの腕の見せ所なのだろうが、私にはどうにも難しい。
話がそれたが土地にはそれぞれ物語がある。本書もただただ地形に沿って歩くだけでなく、そこに存在する建物や道路の由来などといった豆知識みたいなものがちょいちょい挟まれてくる。知識欲が満たされるというか、ホウホウなるほど、みたいなfunというよりinterestingな面白さがそこにある。
本書所収の文書はほとんどが平成7年から11年に書かれており、もう20年近く前である。当時の著者はあまりインターネットも利用していなかったというから、googlemapなしにこうした地図遊びをしていたというのは、現在からするとなかなか想像もつかないのであるが、便利すぎる世界から不便な場所へ不便な方法で行ってみるのも一興であろう。 -
”今尾恵介の集大成がここにある”というカバーのコピーは、あながち誇大広告とも言えない出来である。特に後半の行ったこともない外国のある土地の風景を地形図からあたかも見てきたように語るのは、筆力もさることながら、”地形図は景色の見える地図”と言うプロの地図読みのなせる業だろう。「ぶらり珍地名の旅」と同じくらい面白い。地図の蘊蓄を垂れるよりも、地図を前にして想像力をたくましくする方が著者のスタイルのように思う。
-
虫めがねで地図を見つつ読む。映画「カルメン故郷に帰る」に出てくる草軽電気鉄道がでてくる。やはり鉄道物が面白い。
-
興味を持ったところからぱらぱらと読む本。
割と鉄道の旅。読むまでは外国の地図については興味が出るかなー?と思っていたのに「知らない分却って想像できる」という状態で楽しいです。コハンガピリピリ湖にツボりすぎた。 -
「昭和10(1935)年春。私は陸地測量部の地形図を愛好する者だが、五万分の一「上野原」で見当をつけた、景色のよさそうな相州与瀬(原神奈川県相模原市緑区)へ行くことにした。」
いきなりこんな始まりでスタートする本編第一章に、戸惑う間もなく著者の旅は始まる。汽車に乗り込み、景色を楽しみながら与瀬へ。風景写真やイラストが添えられるかわりに、載っているのはどこまでも地形図。
しかし汽車とは…どれだけ昔の旅の思い出なのか、と奥付をちらっとのぞくと著者は1959年生まれ。そう、これは飽くまで地図をもとにした「空想の旅」なのだ。
一章末の「その後80年が経った2016年、最後に私が桑畑の中を下りた道は現存する。ただし現行地形図では途中で途切れ、その先は相模湖の中だ。ためしに潜ってみたら、相変わらず勝瀬への道があるだろうか。」の文章に切ない余韻を感じる。
ここに載っている空想の旅は国内にとどまらず、海外編も設けられている。しかし最も「空想の旅」を感じられたのは「大正時代測量の現役地形図でゆく2038年択捉島紀行」の章。「唐突ではあるが、日ロ間で択捉島に関する問題が解決」し、「日ロ両国民の混住が実現」した択捉島を旅する。択捉名物ピロシキ蕎麦(もちろんこれも空想なのだが)への「両国文化の融合を象徴する、などとマスコミでもてはやされたメニューも、最近は少し下火のようで、やはり蕎麦は蕎麦、ピロシキはピロシキで食べた方がいい、という当然の結末に落ち着いているようだ」という感想が可笑しい。
地図マニアには、地図(地形図)からこんな景色が見えているのだなあ、と羨ましくさせられる一冊だった。