ウクライナ、地下壕から届いた俳句 The Wings of a Butterfly
- 集英社インターナショナル (2023年8月25日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (104ページ)
- / ISBN・EAN: 9784797674347
作品紹介・あらすじ
「地下壕に紙飛行機や子らの春」ウクライナ女性俳人による“戦時下の句集”刊行ロシアによるウクライナ侵攻開始から1年以上が経過した今も、ウクライナに残り俳句を詠み続けているウラジスラバ・シモノバさん(24)。彼女がこれまでに詠んだ俳句を句集として発刊する。14歳の時に入院先の病院にあった本を通して俳句に触れ、俳句作りを始める。学校を卒業し、地元で就職をしたいと思っていた。そんな彼女の日常は、ロシアによる軍事侵攻で一変する。街の明かりは消え、空襲警報が鳴り、地下壕での生活は3か月に及んだ。家の目の前にミサイルが落ち、生まれ故郷・ハルキウを出ることを余儀なくされる。彼女は眼前の情景を俳句に残し続けた。いつか自身の句集を発刊することを夢見て。ある時、彼女の作品を知った俳人・黛まどかさんとの交流が始まり、本書は生まれた。黛まどかさんが主宰する「Haiku for Peace」プロジェクトのメンバーや趣旨に賛同したボランティアメンバーの協力により、同氏監修のもと、ウラジスラバさんの俳句は美しい「五・七・五」の日本語に訳された。【本書に掲載された俳句】地下壕に紙飛行機や子らの春さくらさくら離れ離れになりゆけり水甕の底に触れたる寒さかな真つ青な空がミサイル落としけり雨に転がる血まみれの小さき靴いくたびも腕なき袖に触るる兵街の灯の消えハルキウの星月夜(以上、本書より抜粋)俳句と出会った10代の頃の作品から、軍事侵攻当日、その後の戦時下の日々を詠んだ50句を収録。俳句の他にエッセイ、著者撮影のウクライナの写真を掲載。黛まどかさんとセルギー・コルスンスキー駐日ウクライナ特命全権大使の対談を収録。【著者プロフィール】ウラジスラバ・シモノバ(Vladislava Simonova)1999年、ウクライナ・ハルキウ生まれ。プログラミングと写真撮影をたしなむ。14歳から俳句を始め、ウクライナ語とロシア語で詩を詠んでいる。第8回秋田国際俳句コンテスト(英語部門・学生)入選、第7回日露俳句コンテスト(ロシア語部門・学生)JAL財団賞受賞。【監修者プロフィール】黛まどか(まゆずみ・まどか)俳人。神奈川県生まれ。2002年、句集『京都の恋』で第2回山本健吉文学賞受賞。2010年4月より一年間文化庁「文化交流使」として欧州で活動。スペイン・サンティアゴ巡礼路、韓国プサン─ソウル間、四国遍路など踏破。「歩いて詠む・歩いて書く」ことをライフワークとしている。オペラの台本執筆、校歌の作詞など多方面で活躍。2021年より「世界オンライン句会」を主宰。現在、北里大学・京都橘大学・昭和女子大学客員教授。著書多数。
感想・レビュー・書評
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「冬の星あふれて灯火管制下」
侵攻後もウクライナで俳句を詠み続けている、ウラジスラバ・シモノバさんの句集。
「老犬の瞳に映る月涼し
蜘蛛の巣に向かうの空よ明日は雨」
何度も口ずさみたくなるような句が、戦争に暗く染められてしまう。
「地下壕に紙飛行機や子らの春」
黛まどかさんを中心にした翻訳チームの真摯さに胸を打たれた。
ウラジスラバさんが不安なく俳句を詠める日が1日も早く来ることを願う。 -
戦争で、命危うい状況で、詩をうたう余裕などあるのかというひともいるかもしれない。
戦争でも、病でも、身近な死に対面したときでもなお言葉に託して声をあげる。
それが詩人なのだろう。詩人だからうたうのではなく、うたうから詩人。
前半、平和のなかで紡がれた俳句。輝く言葉の鋭さは、後半、戦時においても世界に突きつけられる。
五七五の短い定型に世界を切り取り、また嵌めこむ。短い言葉に捕らえられた世界は、日本でもウクライナでも変わらず響く。
言葉の全能を信じていない。
言葉の限界を知っている。
だからうたう。
ロックだなあ、とも感じた。