動物哲学物語 確かなリスの不確かさ

  • 集英社インターナショナル
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感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784797674378

感想・レビュー・書評

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  • 哲学でもあるんだけど、単純にそれぞれの短編に出てくる動物の生態を知れるのも面白かった

  •  動物を題材に哲学を語る。良い試みだと思う。

     森で孤独なクマ少年が、どこからか注がれる視線を通じ森との一体感を認識したり、若きキツネのメスが幼い次世代の弟を案じ自己犠牲もいとわず他者との関係の上での自分を認識したり、サル山のボスの存在はその個の力ではなく迎合する大衆があってのことではないかと問いかける。さらには、ボスという認識ですら、「人間社会をサルの世界にそのまま投影」した人間側の早合点ではないかと看破するあたりも痛快。

     ただ、あまりにも著者のそうした意見が表に出過ぎていて、昔読んだ動物物語のように、その動物になり切って、あるいは静かに第三者的目線で自然の生態を垣間見て、そこから学びを得るという感が少ない。
     『ペロリン君の進化』という章では、ネズミと主人公のアリクイ(彼がペロリン君)に、こんな会話をさせる。

    ネズミ: というと、わしらは進化しとらんということか?
    アリクイ: 頭がよくても、殺し合いをやめられない生き物もいます。僕たち生き物には、進化ではなくて、変化があるだけなのかもしれませんよ

     昨今の人間の愚考への戒めであることが、あまりにもあからさまに見て取れて、いかがなものか。

     実際、動物の行動から学び、感じることは多い。それらの行動に意味づけをし、メスキツネの行動に和辻哲郎の「間柄」を当てはめ、アホウドリにはソシュールの「言葉とは何か」、コウテイペンギンにはフランクルの「ロゴセラピー」と、哲学的命題をあまりに意識させすぎてないかという気がした(実際、哲学と動物の行動をリンクさせて書いていったのだそうだけど)。やりすぎると、それこそ、この本が、サル山のボスの存在意義を意味付ける人間側の思い込みtと同じ産物になってしまう。
     もう少し、物語として、寓話的にオブラートにくるんだほうが、読者にも考えさせる余白があったやに思うが、贅沢な要望か。

     とにかく、序盤は、ツキノワグマは’20年度に6085頭が捕殺されているとか、鎌倉のタイワンリスも害獣指定を受け今や捕殺対象だという情報が出てくるたびに、無味乾燥なデータが物語とそぐわない感じがしたり、あれこれ著者が顔を出して意見するかのような部分が邪魔に感じる(顔出しちゃいけないわけではないのだけど)。
     動物の物語なら、語り部は彼ら自身か、あるいは神の視点から彼らを見守るナニモノかが語っているような、控えめなテイストで良かったのではないかと思う。

     本書、書き始めた順に収録されているのだろうか、徐々に良くなっている気はする。ゾウガメやコウテイペンギンの章なんかは(ほぼ終盤の2編)、物語としても泣けるし、よいお話でした。

     更なる続編には期待したい企画ではある。

  • 家のこと、実家のこと、
    仕事、いろいろあって疲労困憊ですが、この本はセラピー本としてよいです。シートン動物記やイソップ童話や星野道夫などを想起させて、脳をほぐしてくれます。いま人間の住まいに降りてきているクマの気持ちはどうなんだろうと。哲学の入門書としてもよいかも。
    素敵なイラストが心を穏やかにします。

    読書セラピーという言葉を最近知りました。
    東畑さんのふつうの相談と掛け合わすと、
    さらに深まる、と思いました。

    見ず知らずの他人から勧められる本より
    熟知性が高い人からの方が信頼できる、とかね。

    攻めの読書と、癒しの読書があるのね。

  • 無敵とは、敵がいない、争わないということ。

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著者プロフィール

ドリアン助川 訳
1962年東京生まれ。
明治学院大学国際学部教授。作家・歌手。
早稲田大学第一文学部東洋哲学科卒。
放送作家・海外取材記者を経て、1990年バンド「叫ぶ詩人の会」を結成。ラジオ深夜放送のパーソナリティとしても活躍。担当したニッポン放送系列『正義のラジオ・ジャンベルジャン』が放送文化基金賞を受賞。同バンド解散後、2000年からニューヨークに3年間滞在し、日米混成バンドでライブを繰り広げる。帰国後は明川哲也の第二筆名も交え、本格的に執筆を開始。著書多数。小説『あん』は河瀬直美監督により映画化され、2015年カンヌ国際映画祭のオープニングフィルムとなる。また小説そのものもフランス、イギリス、ドイツ、イタリアなど22言語に翻訳されている。2017年、小説『あん』がフランスの「DOMITYS文学賞」と「読者による文庫本大賞(Le Prix des Lecteurs du Livre du Poche)の二冠を得る。2019年、『線量計と奥の細道』が「日本エッセイスト・クラブ賞」を受賞。翻訳絵本に『みんなに やさしく』、『きみが いないと』(いずれもイマジネイション・プラス刊)がある。

「2023年 『こえていける』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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