- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784797680522
作品紹介・あらすじ
インフルエンザは実在しない! 生活習慣病も、がんも実在しない!
新型コロナ・ウィルスに汚染されたクルーズ船の実態を告発した、感染症学の第一人者が語る「病の存在論」。
【著者まえがき】
え? 「感染症は実在しない? お前は今、新型コロナウイルスと取っ組み合って、クルーズ船にまで乗り込んだじゃないか! クルーズの感染防御が間違ってたとか言ってたろ? あれはデタラメだったの?」そういうご意見もあるかもしれません。 いえ、むしろ2020年のコロナウイルス問題にこそ、本書のような考え方が必要なのです。
感染症は「実在」しない。あるのは微生物と我々の「みなし」だけです。
だから、検査が必要な人と不要な人が出てきますし、その検査がしばしば間違ったりします。
PCRをやっても不毛な事が多いのは、ウイルスがいてもPCRが陰性のことが多く、仮にウイルスがいてもそこには「病気」がなかったりするためなのです。
詳しくは本書をお読みいただければ、この複雑なからくりはご理解いただけることと思います。
個々の感染症や、感染症のアウトブレイクを理解するには、そのような「現象そのもの」のイメージが必要です。
イメージ喚起力がないと、「感染がある」「ない」といった見解を(検査が「陽性」「陰性」といった間違った根拠で)デジタルに捉えてしまいます。デジタルに感染症と対峙すると、できていないゾーニングも「ちゃんとやっている」と錯覚します。
ゾーンを作っても、そこに存在するウイルスがイメージできなければ予防はできないのです。これは、感染症の本質を知悉(ちしつ)していないとイメージできない。非専門家の方にどのように伝えたら、このゾーニングの失敗をイメージできるか。
かつて、ぼくはあるインタビューで、「下水道と上水道が混じっていて、その水を人が美味しそうに飲んでいる感じ」と述べました。ゾーニングの失敗とはこのようなものですが、ウイルスは目に見えないし無臭なのでぼくが感じた恐怖感が追体験されないのです。
【もくじ】
1感染症は実在するか 2病院の検査は完璧か 3感染症という現象
4なぜ治療するのか 5新型インフルエンザも実在しない 6他の感染症も実在しない
7メタボ、がん感染症じゃない病気も実在しない 8関心相関的に考える 9科学的に、本当に科学的に考えてみる
10医者は総じて恣意的な存在 11価値交換としての医療の価値
※本書は2009年『感染症は実在しない 構造構成的感染症学』(北大路書房)を底本にしました
【著者略歴】
医師。神戸大学医学研究科感染症内科教授。1971年、島根県生まれ。島根医科大学(現・島根大学)卒業。沖縄県立中部病院研修医、セントルークス・ルーズベルト病院内科研修医を経て、ベス・イスラエル・メディカルセンター感染症フェローとなる。03年に中国へ渡り北京インターナショナルSOSクリニックで勤務。04年、帰国。08年より神戸大学。
感想・レビュー・書評
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新型コロナウィルスのパンデミックの昨今において、ニュースなどで話題になった医師、岩田健太郎氏の著書です。
この本の題名を見ると、「コロナウィルスに関しての本かな?」と早合点してしまいそうですが、実際にコロナウィルスに関して述べられているのはあとがきの数ページのみですので、その方面でこの本を検討されている方には注意が必要です。
本書の中で岩田氏が言っているポイントとしては、
・潜伏結核と活動性結核のように、医師が恣意的に判断することによって(感染症は)病気として認定されたり、されなかったりする
・病原菌は存在するとしても、「病原菌の実在=病気の診断」ではない
・検査されない限りは診断されず、診断されない限りは病気とは認識されない
この3点が重要なポイントだなと思います。
「実在しない」という言葉の捉えかたがミソで、存在しているかしていないか? ではなく、感染症を始めとする「医師の診断」には(岩田氏自身が本文中で何度も述べられているように)「恣意性」が含まれているということ。
病気の定義が変われば病名も変わる、ということが「結核」を例にして解説されています。
また、検査についても「感度」と「特異度」という二つの基準を示して述べられており、専門的な内容ながら、なるほどそうだったのねと納得する内容でした。
(特に「治療効果95%の薬」の項目は必見です)
ひととおり読んでみて、日本は新型インフルエンザの際の間違いをまさにこのコロナ禍で繰り返してしまったのではないか? と感じました。
日本の制度的な問題は想像以上に根が深く、厄介そうです……。 -
2023年31冊目。満足度★★★☆☆
著者はあのダイヤモンド・プリンセス号に乗り込んで有名になった岩田健太郎氏(神戸大学医学研究科感染症内科教授)
本書の第一稿が書かれたのは2008年。新型コロナ発生後、新装版として2020年3月に発刊されているが、内容は特に変更を加えられていない模様だ
医師であろうが、一般人であろうが、本書に対する評価は様々と思われるが、個人的には信頼に足る内容だと思う
なお、著者の新型コロナ以降の言説(変節した?)について、私は特にここでは評価しない。 -
本書での主張は言われてみれば最もだなーと思った。
患者の立場(医者ではないという意味で)で言えば、自分がこれからどう生きたいか、をちゃんと考える必要がある。
自分はできるだけ元気な状態で長生きしたいので、健康診断も受けて、かかりつけのお医者さんのアドバイスを受けて、予防できる事象(「こと」としての病気)は防ぎたいと思う。
家族(妻と子)にも同様に健康で長生きして欲しい。 -
コロナ禍で生活が一変した時、私はずっと「新型コロナウイルスは存在する」という考え方をしていたのでとてもしっくりくる内容です。
以前『ベロニカは死ぬことにした』という精神病院が舞台の本を読んで、健常とは何だろう?とめちゃくちゃ考えさせられたので、病気の診断はあくまで便宜上のものにすぎない、そして人は多かれ少なかれ思い込みというものがあり、状態を正しく判断するのはとても難しいものであるという意識がありました。
そんな意識で世の中を見ていると、現象が先にあって、後から人が名付け、定義しているはずなのに、自分なりの言葉の解釈で判断をし、当てはめようとするからグチャグチャになってるなと感じることが多々あるなと感じます。
以前「嘔吐や腹痛がひどい。風邪の症状もある」と病院に行ったとき、消化器系の副作用の注意が書かれた風邪薬を処方されていたことがあって、当時はおかしくね!?って思ってたけど、「程度」で判断しないオートマティズムという話を見て、程度を見ずに風邪薬を処方されたのかもしれないと思いました。
新都心やニュータウンもそうだけど、なんでも「新型」をつけるのは将来的にあまり賢いとは言えなさそう。
最近、科学的に確かめる本について何冊か読んだけど、恣意性を完全にフリーにすることができないことについて読んだ記憶が残っていなかったので、95%の信頼区間という大前提があるんだなぁとなった。
統計学を理解している人が実務的な見方をした時、日常の身近にあるものがどういうものであるのかというのが大変参考になりました。
私1人じゃ全分野を網羅することなんて到底かなわないので、データの開示と恣意性の表明に重点を置かれている各分野の経験豊富な方の存在を知っていきたいところです。
そして自分と近い価値観を持っているなと感じる医者の死生観はとても興味深いものでした。そんなに身体的な目線で深く考えたことがなかったので、今自分は死に続けているんだ、というのは目から鱗な観点でした。
NYのレズビアン女性のエイズ患者さんがタバコが唯一の幸せだと言ったお話は、『ここは今から倫理です。』で闇社会で居場所を見つけた女性の話を思い出しました。
臓器移植意思表示ってあるけど、いまいちこれの価値判断がよくわからないから決められずにいます。私にとって今のところ身近に感じないから優先順位は低くなってしまうし。これも1つの情報開示の話かなって思いました。
以前、「カテゴリや名前にこだわって話すとおかしくなる、あくまで言葉は後づけされたものにすぎない。すべては地続きなものである。人によって言葉の定義が違っていて、それを同じ言葉だと思ってテーマとして話すからいつまでも話がかみ合わない。実際に起こっていることに対して話をしないとわけがわからなくなる」といった内容をブログに書いたが、まさにそれだなって思いました。
現象があって、共通認識するために名づけられて定義がされたのに、後づけされた言葉が先行してしまうのはそりゃねじれてしまうというものです。 -
●菌を持っているだけでは病気とは言わない。それは「保菌者」と言うので「病気」ではありません。
●しかし医者の現象に対する捉え方が変わただけで「そういう状態は病気と呼ぼう。そして治療の対象にしよう。そうやってゆくゆくは結核と言う病気を撲滅しよう」と言う態度を表した。このように、医者の目的に照らし合わせて、ある現象が病気と認識されたり、認識されなかったりするのです。病気の認識は極めて恣意的で意図的で巧妙に行われます。
●昔結核菌が発見されるまでは、結核と言う現象を観察することで診断してきた。しかし結核の原因微生物が見つかってからは、結核菌を患者さんから見つけ出すことが結核と言う病気の診断方法として採用されるようになりました。
●日本はタミフルなどの抗インフルエンザ薬を世界で最も使用している国である。全世界の75%を占める。「5日で治るインフルエンザ」を「4日で治るインフルエンザ」にするのに、何でもかんでもタミフルを処方するのはバランスが取れていないから、重症になって入院したり、死んでしまったりするかもしれないような危ない状態の患者さんにだけタミフルしっかり使いましょう。
●ある人が病気であるかそうでないかは、恣意性が規定しており、それに基づいて認識されるのです。科学的な事実といったものが病気とそうでない人を規定しているわけではないと。
●病気になる最大の理由は長生き。
●民間療法。効かなかった症例を開示されていれば、信用に値する。
●議論に求められるのは「自分を変える覚悟」コミニケーションとは対話が終わったときに自分が変わる覚悟を持っている、そういう覚悟のもとで行われるもののことである。朝まで生テレビなどは、参加者が番組の終わりに「俺、意見を変えたよ」と言うことを起きない。彼らは議論をしているのではない、。演説を繰り返しているだけなのである。だから自説は1ミリも変わらない。本当に「コミュ障」なのはこうした同調圧力の奴隷なのではなかろうか。 -
ご存じ感染症医・岩田健太郎先生のセンセーショナルなタイトルの本「感染症は実在しない」を読んでみました。この本2009年に「感染症は実在しない 構造構成的感染症学」として出版されたものを改版してCOVID-19にあわせて出版しなおしたもの。柳の下のドジョウ・・・かもしれませんが、読んでみると医療における「原因」と「結果」の関係をじっくり考えさせてくれます。さらに一歩進めて、「病気はすべてあいまいなもの」ということをも看破して、COVID-19の現状にも一石を投じています。
例えば、結核。結核菌が発見されるまでは若い人が消耗していくちょっとロマンチックな面もある病気でした。ところが結核菌が発見されると、それまでの症状=「結果としての結核」から原因=「結核菌の存在としての結核」への価値転換が起こったのです。我々はすべて近代になって起こったこの価値変換以後の世界を生きているのです。
そして科学の進歩とともに感染という事実を検出するテクノロジーが鋭敏になっていきます。そうなると検出された感染のうちどこからを感染症という病気と呼ぶのかはかなり恣意的なことになってしまいます。例えばPCR法が発明されていなかったらCOVID-19のパンデミックはその形をずいぶん変えていたでしょう。こう考えてくると、しょせん病気は実在せず、すべてはその時々の医療のレベルに依存する医療者(あるいは世間も一緒になっての)の恣意的なネーミングにすぎないことがわかるのです。
現代ではさらに一歩進んで高血圧や高コレステロール血症などの症状がない現象でも病気と名付けようというコンセンサス=約束事がなされるようになっています。例えば、高血圧を治療せずに放っておいた場合、治療した場合に比べて脳卒中になるリスクは高まります。けれども、実は治療しなくても90%の人は脳卒中になりません。確かに、高血圧は治療したほうがより脳卒中はふせげるのですが、治療の効果は感染症に比べれば微々たるもので、それこそ膨大な数のRCT(ランダム化比較試験)で初めて差がでる程度。
かっては実在しなかった生活習慣病が作り出され、学会が作った診断基準やガイドラインがあたかも実在する病気があるかのように医療化し投薬がはじまるというのが現代社会です。ここまで考えてくると、現在行われている多くの治療に対して、それを受けないという選択肢を「あり得ない」と決めつけることはできません。「他人に迷惑をかけない」という範囲内で自分の価値観と照らし合わせて、その医療は自分にとって合目的的かという考察が個人に求められているのです。「そこに病気があるから治療」とか、「それが総死亡率を減らす、だから治療」などと決めつけてはいけない。
治療する・しないという医療判断は明快そのものです。しかし、そこに到る根拠は曖昧模糊としています。明快なアクションの根底はあいまいな根拠なのです。だから医療者は医学が持つあいまいさを自覚しつつ、謙虚な態度を保ちつつ、けれど明快に決断をしなければいけないのです。この本、いつもの岩田節で、あれも言いたい書きたいでとっちらかった印象ですが「病気は実在しない」からこそ、患者にとってもまた曖昧さのコントロールがかなり重要だと再確認できた一冊でした。患者にとってもむずかしい時代です。 -
5年後10年後に読んでも必ず気づきがある、普遍の思考法と考える。
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2009年の内容を新型コロナに合わせて新装版?
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著者の岩田健太郎神戸大学教授は、新型コロナウイルスに汚染されたクルーズ船の実態を告発した感染症学者です。
まさにタイムリーな本のようですが、実は2009年に著者が記した「感染症は実在しない 構造構成的感染症学」を底本にした新訂版です。したがって、今の「新型コロナウイルス感染症」にのみフォーカスしたものではありません。感染症をはじめとした様々な「病気」の捉え方から「現代医療」の課題を描き出した著作です。