モデルナはなぜ3日でワクチンをつくれたのか (インターナショナル新書)
- 集英社インターナショナル (2021年12月7日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784797680898
作品紹介・あらすじ
コロナ禍で新時代に突入した医療、ヘルスケア産業の未来を探る。
徹底したDXによって、年単位だったワクチン開発のスピードを飛躍的に高めたモデルナ。
その本質は、既存のビジネスを破壊・刷新するデジタル製薬企業だ。
開発したmRNAワクチンは、ソフトウエア的、デジタル的な性格をもっている。
テクノロジー企業分析の第一人者が、知られざるモデルナの革新性を説き、
アップル、アマゾン、アリババなど、ヘルスケア産業のプラットフォーム制覇を狙う企業を分析する。
【著者略歴】
田中道昭(たなか みちあき)
立教大学ビジネススクール教授(担当6科目中、メディカルビジネス論も開講)、元東京医科歯科大学大学院客員講師。テレビ東京WBSコメンテーター。シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター等を歴任し、現在は株式会社マージングポイント代表取締役社長。流通、製造業、サービス業、医療・介護、金融、証券、保険、テクノロジーなど多業種に対するコンサルティング経験をもとに、雑誌やウェブメディアにも執筆中。著者に『アマゾンが描く2022年の世界』(PHPビジネス新書)、『GAFA×BATH』(日本経済新聞出版)、『世界最先端8社の大戦略』(日経BP)などがある。
感想・レビュー・書評
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中々キャッチーなタイトルですが、
「モデルナがなぜ3日でワクチンをつくれた」について
書かれているのは、本の中の1章で、
他はアマゾンやアップルや中国テック企業のヘルスケア領域への進出の話。
この手の話について興味のある人は、
ヘルスケア系の人とか製薬系の人、DX系の人かと思いますので、
ちょっと対象範囲が狭いかなという印象。
なので、こういうキャッチ―なタイトルになったのかな…。
この領域にあまり詳しくない自分にとっては、
手っ取り早く&コンパクトにまとまっていて、とても助かりましたが、
知っている人にとっては内容が薄いのかも!?
というのも、色んな本や資料を簡潔にまとめた感じの構成になっているからです。
これをどう評価するかは、読み手によって変わるかなと思いますが、
今のこの時代、(ヘルスケア関係者なら)手元に一冊あってもよいかな、という本です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
モデルナというこれだけ皆が認識して、パンデミックの切り札的に扱われている会社が、2010年創業という事にまず驚き。mRNAという従来型ではないワクチンのコンセプトにまた驚き。プラットフォームビジネスにあらためて納得。
アップル、アマゾン、アリババ等がヘルスケアでの覇権を目指している点や、従来型のCVSがそれらに対抗している事等、大変面白かったです。 -
短時間で新型コロナの
ワクチン製造に成功したモデルナ社の
ビジネススタイルを分析。
切り捨てるものは切り捨て
プラットフォーム重視の開発姿勢は
いろいろなビジネスの参考になる。
本としては、やや
繰り返し説明が多く、
その分の字数で掘り下げてほしかった。
後半のアマゾンやアップルの話が
横滑り感。 -
タイトルで興味惹かれ購入。
タイトルこそモデルナだが、同社の話は1章に集約され、本筋はヘルスケア業界の新しい動きの紹介という趣が強い。
医薬品の世界に勤める縁で断片的に聞いたことあるエピソードはあるが、アマゾンのことなど、まだまだ知らないなと思わされた。今後この業界で自分が生きていく上で、こういった世界も面白そうと感じた。 -
タイトルが不評。モデルナやワクチンの解説は第一章のみで、以降はヘルスケア産業のテクノロジーやDX関連の話。商品説明や事業説明が多いので、読み手の期待次第で有用性は分かれる。
新型コロナウィルスの遺伝子情報が中国の科学者らによってインターネット掲示板に公開されたのが20年1月。モデルナは、開示後、3日間で新型コロナウィルスワクチン候補の設計を完了。臨床試験の準備までに42日、臨床試験に9ヶ月。この最初の3日間で採用されたのがmRNAプラットフォーム戦略としての、データ解析アルゴリズム。AIによる配合、調剤などを過去のデータ蓄積から最適解を導く。
製造業でもマテリアルインフォマティクスとして、素材検討などに用いられるDX化の成果だ。この最適解が本当に最適なのかは、分からない。ただ、やはり不安なのは、AI技術により提案された抗体という事と、この出発点が中国からの開示情報という点。新型コロナの本質を理解した対処ならば、ワクチンの有効性にも安心できるが、少なくともインフルエンザワクチンのように、発病率の低減に効いているようには思えない。方や、中国はゼロコロナに固執。
この3日間を不安に思うか、頼もしく思うかは、あなた次第。どういう狙いか、本著にモデルナの株価の推移が載せられている。これは、摂取者への皮肉か、社会への嘲りか、ビッグファーマーへの挑発か、ただの成功者への呆けた羨望か。 -
〇新書で「コロナ」を読む⑦
田中道昭『モデルナはなぜ3日でワクチンをつくれたのか』(集英社インターナショナル、2021)
・分 野:「コロナ」×「DX」(デジタルトランスフォーメーション)
・目 次:
はじめに
第1章 モデルナはなぜ3日でワクチンをつくれたのか
第2章 新型コロナウイルスが加速させたヘルスケア産業の変革
第3章 アップルが目論む生活サービス全体のエコシステム覇権
第4章 アマゾン病院が誕生する日
第5章 中国のメガテック、アリババが進める中小病院のDX化
第6章 米国最大の薬局チェーン、CVSヘルスのメガテック対策
最終章 日本企業がモデルナから学ぶべきこととは何か?
おわりに オペレーショナル・エクセレンスへのこだわり
・総 評
本書は、コロナ禍によって規制緩和が進む中、アップルやアマゾンなどのテクノロジー産業がヘルスケア産業に進出し、DX(デジタルトランスフォーメーション)によって変革を起こそうとする動きを追ったものである。著者は立教大学ビジネススクール教授で、企業分析の専門家である。
構成としては、第2章で全体像を解説し、第3章以降は具体的な企業を例に、ヘルスケア産業の未来像を論じている。そのポイントは次の3点にまとめられる。
【POINT①】モデルナはなぜ3日でワクチンをつくれたのか
創業からわずか10年のベンチャーであった「モデルナ」は、個々のウィルスを基にワクチンを開発するのではなく、人体の細胞に病気を治すためのタンパク質を生成されるための“設計図”(mRNA)を投与するという手法を用いて、世界に先駆けてコロナワクチンを開発した。即ち、この「mRNA」という共通の開発手法を活かし、開発期間の短縮やコストの削減、さらには複数の疾病に同時に対応するワクチンの開発を可能とした。そして、この戦略を採るために、モデルナが創業時から注力したのが「DX化」であった。
【POINT②】プラットフォームを制する者がヘルスケア産業を制す
第3章以降で取り上げる企業の共通点は、いずれも強力な「プラットフォーム」(サービス提供者と購入者が取引するための場)を有することである。例えば、アマゾンであれば、オンラインストアやクラウドサービスが該当する。テクノロジー企業の強みは、このプラットフォームを通じて、膨大な顧客の情報を収集できる点である。そして、これらの情報をビジネスに活かすために必要なのがDX化(オンライン化・クラウド化・ビッグデータ×AI)である。
【POINT③】DX化がもたらすパーソナライゼーション
テクノロジー企業が進めるDX化によってもたらされる効果の一つが「パーソナライゼーション」(個別最適化)である。従来のヘルスケア産業は、安全性が重視される規制産業だったため、利便性や効率性は重視されてこなかった。だが、プラットフォームを通じて、顧客の情報を自動収集し、AIによる分析を加えることで、個人に最適化された商品・サービスを提供できるようになる。こうした「カスタマーセントリック」(顧客中心主義)こそが、従来のヘルスケア産業にはなかったテクノロジー企業の強みだという。
本書は、プラットフォームを有するテクノロジー企業の強みを、様々な企業を例に解説している。ここで描かれる未来像が「情報管理された画一的な世界」ではなく、その対極とも言える「パーソナライゼーション」や「カスタマーセントリック」の追及にあるという点が興味深い。また、デジタル化によって「人が担うべき仕事、人にしかできない仕事」が明確になるという著者の指摘は、DX化がさらに進んでいく世界を生きる我々にとって重要な指摘になるだろう。
(1162字) -
オペレーショナル•エクセレンスとは、企業がその価値を創造するための活動や事業運営の効果を高めていくことによって競争優位を確立していくことを意味します。
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タイトルに興味をひかれ、購入しました。筆者は、モデルナから、企業の成長について、学ぶことが多くあると主張しています。モデルナはバイオテク界のテスラと呼ばれ、ディスラプター50企業のトップに選ばれました。ディスラプター50企業とは、既存企業をディスラプトして、劇的な革新を起こす企業50社を選定したものですが、スペースX、ウーバー、スポティファイなどと共に、名を連ねていることは知りませんでした。また、モデルナは、mRNAプラットフォーム戦略とDX化によって、生物学に携わるITカンパニーとして、成長を遂げたことが理解できました。その一方で、ワクチンの安全性については今だに疑念が拭えません。今もワクチンで健康被害や後遺症に悩まされたり、最悪の場合、命を奪われたりする事例があとを絶ちません。いくら企業が驚異的な成長を遂げたとしても、安全性に気を配るものでなければ、意味がありません。その観点からの記述はありませんでした。ただ、筆者が、破壊的イノベーションをテーマとする対談をする中で、日本の完璧主義は高品質な日本製品や信頼のおけるブランドイメージの源泉であるが、急激にテクノロジーが発展を遂げる時代の中では、完璧主義からはイノベーションは生まれにくい面もある、と対談者の一人から言われたことを明かしており、その点には同意する部分もあります。企業の成長はどうあるべきか、ヒントを得たい人におすすめです。
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モデルナに学ぶ、これからの医学研究―医療産業のありかた
ビオンテック(ファイザー)のコロナワクチンについて読んだところで、もう一方のモデルナのワクチンはどうやって超速でできたのかを知りたいと3冊目にこの本を読んでみました。ところが、モデルナワクチンの話は第1章だけでやや期待外れです。第2章から最終章(第7章)まではヘルスケア産業の未来論をプラットフォーマー(第3章アップル、第4章アマゾン、第5章アリババ、第6章CVSヘルス)ごとに紹介する内容です。頭にモデルナを持ってきて売り上げ増を狙ったような作りなのかもしれません。書かれている範囲でモデルナについて簡単にまとめてみます。
まずバイオ系ベンチャーキャピタルというものの存在を知る必要があります。投資の対象となりそうな起業家を発掘して、投資家から資金を集め、起業させ成功させることで収益をあげるというのがベンチャーキャピタル。投資の対象となる分野がバイオであればバイオ系ベンチャーキャピタルです。もちろん、バイオ系ベンチャーキャピタルにはバイオ関係に造詣の深い目利きの存在が必要です。そんな目利きがフラッグシップ・パイオニアリング(FP社)のヌーバー・アフェヤン氏。アフェヤン氏はMIT出身、アルメニア系レバノン人―とここでも移民パワー。
FP社の投資手法はユニークで、外部の起業家に投資するのではなく、FP社内で多くのプロジェクトを並走でパイロット的に走らせ、その中からプロジェクトの成長に応じて資金を投じていくというものです。
具体的には次のようなステップをとります。
・たくさんの研究室レベルでコンセプト(仮説)を立てそれを検証する
・有望なコンセプトは科学的に立証して知的所有権を取得しプロジェクト・チームを作る
・コンセプトに基づいたプロダクトやプラットフォームを開発して事業化を進める
・該当のプロジェクトを企業化しCEOを雇いFP社から切り離し新会社とする
そうしたプロジェクトの一つがmRNA創薬のモデルナ社ということになります。mRNA創薬についてはこまかいテクニックの違いはあるものの基本的にはビオンテック(ファイザー)とほぼ同じです。モデルナもまたビオンテックと同じように対象となるタンパクのもとになる塩基配列さえわかればいつでもワクチン化するプラットフォームは完成していたのです。そこにCOVID-19。ウイルスの塩基配列が報告された3日後にはワクチン候補の設計が終わっていたという早わざ。
ビオンテックよりもさらにDX(デジタルトランスフォーメーション)でITやAIを駆使しているようで、アフェヤン氏に招聘されたモデルナのCEOパンセル氏と彼がさらに招聘したチーフ・デジタル&オペレーショナル・エクセレンス・オフィサー、マルセロ・ダミアーニ氏がそれを実現しています。バイオテックのプロ、経営のプロ、DXのプロが一体となっているわけで、大学の狭く汚い研究室で大学院生やオーバードクターが試験管洗いながら実験やっている日本との違いに愕然とします。