プーチンの復讐と第三次世界大戦序曲 (インターナショナル新書)

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  • 集英社インターナショナル
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784797681260

作品紹介・あらすじ

ウクライナ戦争の展開、第三次世界大戦の可能性を分析
ロシアのウクライナ侵攻により、核兵器使用の脅威が高まっている。果たして、第三次世界大戦は起こってしまうのか。「プーチン伝」「ロシア・ソ連史」「プーチン体制の光と影」「ウクライナ戦争の展開と今後の展望」「核のエスカレーション(過激化)」など、いま最も知りたい世界情勢の「これから」を、国際政治学者で前東京都知事の舛添要一が分析。プーチンの行動原理と、世界のゆくえを論じる。

【目次】
第1章 スパイに憧れた少年が大統領に
貧しい出自/不良少年が名門大学へ、そしてKGBに就職/異例の短期間での出世/国民の圧倒的支持を得て再選/統一ロシアによる選挙不正/西側への対抗姿勢を強めるプーチン
第2章 「タタールの軛」と帝政ロシアの遺産
キエフ・ルーシ/タタールの軛がロシア人に残したもの/外的への警戒心/軍事力至上主義/イヴァン雷帝の遺産
第3章 ソ連邦とスターリンの遺産
第一次世界大戦の勃発とロシア革命/「母なる祖国」「大祖国戦争」/米ソ冷戦の開始/フルシチョフの時代/ソ連邦の消滅
第4章 ルサンチマンと成功体験
NATOとロシアが軍事衝突する危険性/「裏切りのウクライナ」は潰滅させるというプーチンの歴史認識/スターリンの亡霊/チェチェン紛争/クリミア併合/シリア
第5章 幻想の外交・相互依存関係と文明の衝突
ブダペスト合意/ミンスク合意/ミンスク2/文明の衝突/ウクライナはEUに加盟できるのか/民主主義vs.権威主義
第6章 戦争の展開
「特別軍事作戦」の開始/NATOによる武器支援強化/プーチンの誤算1/ウクライナの反転攻勢/ロシアの反発
第7章 核の選択と新しい国際秩序の模索
ウクライナ侵攻から1年・大統領年次教書演説/ウクライナが北朝鮮の核ミサイル開発に貢献/ロシアの核抑止戦略/新しい同盟網の構築へ

【著者略歴】
舛添要一(ますぞえ・よういち)
国際政治学者、前東京都知事。1948年、福岡県生まれ。1971年、東京大学法学部政治学科卒業。パリ、ジュネーブ、ミュンヘンでヨーロッパ外交史を研究。東京大学教養学部政治学助教授を経て政界へ。2001年参議院議員(自民党)に初当選後、厚生労働大臣(安倍内閣、福田内閣、麻生内閣)、都知事を歴任。『ヒトラーの正体』『ムッソリーニの正体』『スターリンの正体』(すべて小学館新書)、『都知事失格』(小学館)など著書多数。

感想・レビュー・書評

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  • 大変に興味深く、素早く読了に至った一冊である。相互に関連も深い、多過ぎない程度に纏まった7つの章で、幅広い内容を取り扱っている。そしてその内容が興味深い。
    現今のウクライナの問題に関しては、2022年2月に侵攻を開始したロシアを非難するというような話しが暫く出ていたが、その後は「論じられるべきこと」が然程広く出ているようにも思い悪い面が無いでもないと感じている。他方、「より知りたい」に応えるように、様々な論考などが世に問われてもいる。その「より知りたい」に応えるモノに関しては、眼に留まる都度に積極的に読んでいる。本書もそういう一冊になると思う。
    本書では、2022年2月に侵攻を開始した責任者たるプーチン大統領に関する生い立ちや政治家としての行動の経過等、ロシア史やソ連史に纏わるようなこと、所謂「冷戦」や「ソ連崩壊」という状況の後の欧州の経過、欧州の中でのウクライナの経過や見通し、侵攻に始まった戦争の行方を考察することと、「論じられるべきこと」を一通り網羅しているように思う。
    本書は、全体として所謂「冷戦」や「ソ連崩壊」という状況を見詰めたプーチンが、政治家となって上り詰めて行った中で、ロシア史やソ連史の経過の中で培われた価値観により、或る種の「復讐」のようにロシアの立場を高めようと動き、結果として大きな規模の戦争を起こしたが、揺れている情勢の中で戦争の行方は判らず、思いも掛けずに戦禍は「第三次大戦」というような様子にもなって行きかねないという物語を提示していると思う。
    2022年2月に侵攻を開始したロシアを非難するのに対し、必死に独立を護ろうとし、犠牲も拡大しているウクライナを擁護するというのも在る。が、「ウクライナの様子、経過」や「ウクライナの問題」という知識が広まっているとも思い悪い一面は否定し難いようにも見受けられる。本書はその辺りを少し掘り下げていると思う。ウクライナは欧州寄りな立ち位置を目指し、EU加盟を果たしたいとしている。が、非常に多くの「課題」はそこに在る。それが本書では論じられている。
    現今のウクライナの問題が、侵攻の開始からだけでも1年半も続き、出口も視えない、判らない中である。静かに学んで考えるということも、より一層必要であるように見受けられるが、本書は「論じられるべきこと」を広く示していて有益だと思う。

  • ウクライナ戦争最初期の頃、プーチンは狂った、プーチンは病気だ、とか色々言われていたが、プーチンなりの考えに基づいてこの戦争は引き起こされたのだ、と納得できるくらいに分かりやすく様々な背景が説明されている。
    戦争へ進むストーリーとして出来過ぎなくらいに出来上がっており、これが事実に近いのであれば、あれほど分かりやすいシグナルを無視したゼレンスキーは、やはり無能という事になる。
    これは、つまり、当たり前だが、国のトップ次第で先行きは変わる、ということである。非常に怖いですね。

  • 今の状況があって初めて理解できる歴史だけど、歴史というのは多分そういうものなのでしょうね。あまり明るい未来は語られていない。なんかクドカンのドラマみたいな展開を探したいねと思いました。プーチンがスナックで涙流しながらあの鐘を鳴らすのはあなたを歌う。とかね。そう言ったイメージが世界に必要とされているのだろう。プーチンを寺内貫太郎一家の小林亜星とみなすような。

  • ウクライナ戦争の背景を理解するためには、ロシア史を「タタールの軛」まで遡って見ていかなければならない。
    それにしても、スターリンという怪物を産んだロシアの歴史は、まことに苛烈である。

    第一次大戦に破れたドイツは多額の賠償金を課せられ、民衆はハイパーインフレに苦しめられた。そこに現れたのがヒトラーだった。ヒトラーは、完全に民主的な方法で政権の座につき、民衆に熱狂的に支持されたのだ。
    第二次大戦終結後、そのことに懲りたアメリカは、敗戦国である日本・ドイツ・イタリアに対して寛大な占領政策をとった。その結果、この3国はアメリカの忠実な同盟国(犬)となった。
    しかし、ソ連が自滅して東西冷戦が終結したときには、アメリカはこの教訓を忘れてしまっていた。唯一の超大国となったアメリカの傍若無人な振る舞いは、ロシアを追い詰めていった。そこに現れたのが、かつてのソ連帝国の栄光を取り戻そうとするプーチンだった。つまり、(プーチンはウクライナをナチス呼ばわりしているが)プーチンこそが実にヒトラー的存在なのだ。

    本書で引用されているサミュエル・ハンチントンの『文明の衝突』を繙いてみると、1990年代後半、ソ連崩壊直後のウクライナの状況がわかって興味深い。
    ウクライナは、当時から「分裂した国家」だった。しかも、西欧文明圏とロシア文明圏の境界線が、ウクライナの国土のど真ん中を貫いているのだ。
    ハンチントンは、ウクライナの運命について、3つの可能性を挙げている。
    ①武力衝突
    ハンチントンは武力衝突の可能性について言及したあとで、「…しかし、重要なのが文明であるなら、ウクライナ人とロシア人とのあいだに武力衝突が起こるとは考えられない。両者ともスラブ人で、大半が正教会系であり、何世紀にもわたって緊密な関係を保ち、両者のあいだの結婚もごく普通に行われている。…1995年現在、ロシアとウクライナのあいだの武力衝突は事実上一度も起こっていない」と述べている。
    ②「二つ目の、もっと実現の可能性のある道は、ウクライナが断層線にそって分裂し、二つの独立した存在となって東側がロシアに吸収されるというものだ」
    ③「三つ目のさらに可能性の高いシナリオは、ウクライナが統一を保ち、分裂国でありつづけ、独立を維持し、おおむねロシアと緊密に協力しあうというものだ」
    しかし、一番ありえなさそうに思われ、かつ最悪な、①のシナリオが現実になってしまった。

    こうしてみると、②は①よりずっとマシなシナリオだったように思えてくる。
    そもそも、クリミア半島はロシア共和国の一部で、1954年にフルシチョフの気まぐれによってウクライナ共和国にすげかえられた(ただし、クリミア半島には元来タタール人が住んでいたが、スターリンによって強制移住させられた)。当時はソ連だったから、どちらでもよかったのだ。
    (国家は全力で阻止しようとするが)分離独立運動は世界中で起きているし、それ自体は否定すべきものではない(そうでないと、チェチェンや東トルキスタンは永久に独立できないことになってしまう)。
    したがって、クリミア半島と東部のロシア人地域をウクライナから切り離し、西欧化したウクライナ人主体の(西)ウクライナを作るというシナリオは、ウクライナ人にとっても悪くないように思う。
    ところが、欧米から無尽蔵に武器が供給された結果、ウクライナは果てしのない「代理戦争」に引きずり込まれてしまった。
    この戦争がどのように終結するのか、落とし所がまったく見えない。やはりこれは、第三次世界大戦の序曲なのだろうか。

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著者プロフィール

舛添要一(ますぞえ・よういち)

 1948年、福岡県に生まれる。1971年、東京大学法学部政治学科を卒業し、同学科助手。パリ大学現代国際関係史研究所客員研究員、ジュネーブ高等国際政治研究所客員研究員などを歴任。1989年、舛添政治経済研究所を設立。2001年、参議院議員選挙に出馬し、168万票を得て当選。 2005年の自民党「新憲法草案」のとりまとめに際しては中心的な役割を務め、2006年からは参議院自民党の「ナンバー3」政策審議会長を、2007年からは厚生労働大臣をつとめる。2014年、東京都知事に選出される。
 著書には、『母に襁褓をあてるとき―介護闘い日々』(中公文庫)、『内閣総理大臣―その力量と資質の見極め方』(角川oneテーマ21)、『永田町vs.霞が関』『日本新生計画』『日本政府のメルトダウン』『憲法改正のオモテとウラ』(講談社)などがある。

「2014年 『母と子は必ず、わかり合える 遠距離介護5年間の真実』 で使われていた紹介文から引用しています。」

舛添要一の作品

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