大いなる闇の喚び声 美術調律者、最後の戦い (クトゥルー・ミュトス・ファイルズ)
- 創土社 (2015年6月11日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (271ページ)
- / ISBN・EAN: 9784798830278
作品紹介・あらすじ
呪われた血脈をもつ形上太郎は、一にして全なる教え「一全教」を開き、非業の死を遂げた。その弟・四郎は芸術家となり、その作品に目にした人々は、心酔するか、非業の死をとげるか、どちらかの道をたどる。四郎の息子の影は、父と同じく芸術家となり、異形の姿となり果てた父と対峙する。影を支える幼馴染の兄妹、安倍晴明の末裔たる陰陽師を擁する警察庁の霊的国防セクションとともに、影は、父・四郎に決死の戦いを挑む。絵画と音楽に彩られた禁断のアートホラー!
感想・レビュー・書評
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美術調律者シリーズついに完結。おそるべき悪霊との対決にようやく終止符が打たれます。
随所に挿入された黒形上赤四郎の詩とイラストがなんともいえず不気味で素敵。次々に起こる凄惨な事件も、やたらあっさりとした筆致で描かれている分恐怖をかき立てます。そして「邪神」ってのはまさか……あれだったのね! 少しラヴクラフトを読んだのでようやくわかったぞ!
父の悪霊に立ち向かう影の姿は、繊細でありながら力強くて、よくぞここまで成長したなあ、という気持ちで感無量に。そしてあのラストは素敵でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
クトゥルーものとしては大変完成度が高いとまず感じた。全一教の内容がまさかああいう事だとは……。間違いなく、ここに登場した全一教の秘本はクトゥルー世界の魔道書のひとつに数えられていくだろう。
宇宙的恐怖というものの登場のさせかたについても申し分がない。それに立ち向かうべき主人公が、血筋として恐怖の系譜に連なる者であるという設定、主敵が実の父であるという関係性も、まさにクトゥルーものの典型であり、かつスリリングに演出されている。
だがしかし……。一つ残念なことは、聳え立つ敵としての黒形上赤四郎が、背景に邪神を背負った時、ラスボスではなく、中ボスの存在に格落ちしてしまう事だ。前巻までは圧倒的なラスボスの立ち位置を占めていただけに、これだけは残念。
その一点を除くと、黒形上の出現の仕方、激闘の舞台、変化する壁画など、まさにインドアでありながら凄いスペクタクルであり、手に汗握る戦いであり、かつ、一人のヒーローが役目を終えて人生の次のステージに足を踏み入れる、一種爽快かつほっとする結末が用意されていて、物語としての完成度も非常に高いのではないかと思う。