健康を食い物にするメディアたち ネット時代の医療情報との付き合い方 (BuzzFeed Japan Book)

著者 :
  • ディスカヴァー・トゥエンティワン
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  • Amazon.co.jp ・本 (295ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784799322093

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  • 声を上げなければと思ったときに「#情報のリレー」というハッシュタグとともに投稿

  • 近年の事件念頭に置きつつ、そのようになった構造等を考察している。

  • 「健康を食い物にするメディアたち ネット時代の医療情報との付き合い方」

    医療デマは命にかかわる
     例1.ガン放置理論・・・標準治療を否定する
     例2.反ワクチン

    つけ込まれる理由
    ・情報格差・・・医療についての情報には、医師などの専門家とそれ以外の人に大きな格差がある。悪意のある(ない人も多いと思うが)騙す人はこの格差につけ込んでデマを流す。騙されないようにするには知識が必要。

    経済合理性が騙す人を生む
    ・売れるから作る。健康食品は健康になりたいという需要と、利益を見込めるから売るという供給で成り立っている。

    経済合理性は医師に対しても働きうる
    ・転倒した子供がいたとして、頭を強く打った様子はないので、様子を見る判断をした時に、保護者が頭部CTを撮ってほしいと依頼した場合。撮影すれば被曝のリスクが僅かだがあるが、売上が上がるし、親からの要望という大義名分があるので、CTの撮影に踏み切ることは十分起こりうる。

    ネット検索の弊害
    ・検索上位にデマ情報が並びえた。その最たる例がWELQ問題。WELQはSEO対策を駆使して自分たちのサイトを上位に表示させ、専門家でない人が書いた情報を流していた。しかも、記事の最後に当社は記事の正確性などに一切責任を負わないと書いていた。WELQには、記事広告の売上を伸ばすため、どれだけの人に読ませるかというノルマを課しており、正確な情報よりもより多くの人が目にするように不正確な情報が優先して掲載されていた。
     ・「がん」で検索すると、標準治療ではなく代替療法のサイトが1位に表示された時期があった。最近はgoogleアルゴリズムの改定があり、大学や公的機関の専門家が書いた信頼性が高く有益なサイトが上位を占めるようになっているが、完璧ではない。

    既存メディアにも問題あり
    ・新聞やテレビの信頼性にも疑問がある場合がある。昨年、新聞に「医師の25%が抗癌剤治療に消極的」という見出しの記事が出たが、こういう強調の仕方は意外性をもたせたかっただけであり、読者に抗がん剤治療の不安を持たせる結果になるが、「医師の75%が抗癌剤治療に積極的」という見出しで書けば受け止め方はかなり変わるはず。しかも、「医師」と書かれていたうちの3割は薬剤師であった。

    健康本の経済合理性 「売れるものを作る」
    ・出版社は売れそうな情報を売る。正しい情報は売れない。
     たとえば、「健康になりたければ野菜を食べなさい」という本では売れない。「健康になりたければ野菜を食べるな」のほうが売れる。
    ・出版業界は不況にあえいでおり、比較的売上を得やすい健康本を出版したがる。ありきたりなタイトルだと手にとってもらえないので、どうしても過激なタイトルになってしまう。医師が書いているからと言って、正確であるとは限らない。多くの編集者は、その医師の主張がどのくらい正しいのかを判断できない。

    医療情報の正確性の判断 5W2H(何を、誰が、どこで、いつ、なぜ、どのように、いくら・どのくらい)を使う
    1.【何を】禁止ワードによるチェック 「すぐに」「らくに」「だけで」など、簡単に健康になれると謳うものは信じない。「最新」「最先端」もそのまま受け取ってはいけない。
    新しい治療が優れているとは限らない。
    2.【何を】エビデンスのピラミッドを理解する。
     一番エビデンスが高いのは、メタアナリシスシステマティックレビュー、以下、ランダム化比較試験(RCT)、非ランダム化比較試験、コホート研究/ケース・コントロール研究、症例報告、論説・専門家の意見や考え、動物を使った研究、in vitroの研究の順。
    3.【何を】因果関係なのか、相関関係なのかを見極める。たとえば、メタボ検診を受けている人はそうでない人と比べて長生きするというデータがあるが、メタボ検診を受けているから長生きする(因果関係がある)わけではなく、もともと健康に対する意識が高い人がメタボ検診を受けているから長生きしている(相関関係)ということがわかっている。「長生きの人は〇〇の習慣がある」という情報は、因果関係があるのか、ただの相関関係なのかを見極めなければいけない。
    4.【誰が】誰が発信しているか。医師であっても専門医であるか否かは大事。厚生労働省、保健所、大きな病院などは専門性がある。製薬会社や民間の診療所は経済合理性が働いている可能性を考える。
    5.【どこで】どこで発信された情報か。「Nature」や「Lancet」などの一流紙と日本の週刊誌だと正確性や社会的責任性は前者のほうが圧倒的に高い。
    6.【いつ】いつの情報か。古い情報が出回っていることもある。たとえば、10年前の情報だと新しい情報に塗り替えられている可能性がある。
    7.【いくら・どのくらい】高いものはいいものだと思っていると狙われる。数字にごまかされない。60%が有効と言っても、1000人のうち600人と5人のうち3人だとだいぶ違う。
    8.【なぜ】なぜ発信された情報なのか。非営利の情報にみせかけた商品広告であることも少なくない。
    9.【どのように】危険を煽るような伝え方に注意。どのように伝えるかは受け止められ方を大きく左右する。「〇〇は菌だらけ」と危険を煽る広告があるが、人間の体はそもそも菌だらけなので、おかしな話。
    10.【どのように】リスクを正しく認識し、情報を正しく読み取るためには自分の中にある「好き嫌い」を疑う必要がある。自分たちが好ましいと思うものに対するリスクは軽く感じられ、好ましくないと感じているものに対するリスクは重く感じる傾向がある。

    周囲からの誘惑を5W2Hとコミュニケーションで断ち切る
    ・周囲の友人や親戚に「あなたがやっている治療は毒だからすぐに止めなさい」「〇〇をつかえばもっとよくなる」などと不安を煽られたり、他の治療を勧められたりすることは少なくない。5W2Hを意識することと、納得の行くまで医師に相談して誘惑を断ち切る必要がある。判断つかなければ複数の医師に意見を求める。

    エビデンスなど、科学を信じなくてはいけないのか
    ・1%もないような安全といわれる治療で重大な副作用を生じてしまった場合、科学を信じろという理屈は通じない。科学だけでは全員を救うことは出来ない。ときには科学的ではないもの(宗教など)を信じても良いと思う。しかし、非科学的なことが救える人を傷つけることもある(怪しい治療を信じてしまい、かえって命を縮めてしまうなど)は認識しなくてはいけない。科学を100%信じなくてもいいが、科学的に見えるデマに騙されないように知識をつける必要がある。

    医療広告に対する規制が強まっている
    ・「虚偽、または客観的事実だと証明できないもの」「他との比較により自らの優良性を示すもの」「事実を誇張、または過度に強調するもの」「科学的根拠が乏しい情報に基づき、国民・患者の不安を過度に煽るもの」は規制の対象。

    【まとめ】 今、出来ること
    1.健康になりたいという願望が狙われていることを自覚する。
    2.リテラシー(5W2H)を身につける
    3.情報収集源を精査する
    4.リテラシーが全てではないことを肝に銘じる 科学は正義であると思いこむと痛い目にあう
    5.声を上げる 医療デマは行政へ通報する

  • 「誰も医療デマに騙されることのない世の中」というのは、アスレティックトレーナーとしてブログで情報発信をしている一個人として私も強く願うもの。「格差があるところには必ずと言っていいほど医療デマが発生する」「『最新』の治療が『標準』の治療よりも優れているということでは消してない」「因果関係なのか相関関係なのかを疑うクセをつける」など、改めて情報発信をする責任と、読んでくれる人をより幸せにするという気持ちを忘れないようにしよう、と心に誓いました。

  • 様々な健康法を扱った本を店頭で販売している身としては、「何でこんなもの売ってる(売れてる)んだろう」と思うことは正直よくある。ただ、基本的に自分たちのスタンスは、買う人がその情報は有益かどうかを判断するものであると考えているので、「だからといって売らない」という選択肢は取らないし、売れている本を売らないと、いろんな意味で「なぜ売らない?」となってしまうところもある。「こんな本(情報)出してほしくないなあ」と思いながら、せいぜい売り場での展開に強弱付ける程度だ。

    だからこの本の著者みたいに同じ立場にいる人が「それってどうなの?」って言ってくれないかなと正直思っている。ウェブもそうだけど、活字になっていると、なぜか知らないけど間違ったこと書いてあっても正しいと思わされてしまうものだから。

    で、こういったものは個人的に信じて勝手にやるだけなら構わないと思うが、まずは家族、そして周囲の人へと周りに強要するなどして絶対にそうはならないのを見てきた経験がある。一つの情報をたくさんの人やメディアから浴びて凝り固まった考えにしてしまうのではなく、一つのことに対していろんな角度からたくさんの情報を浴びせることでどれが本当に正しいのかを考えさせられるように、メディアも受け手もなっていかなきゃいけないのかなと思う。どっちかじゃなく、両方が変わらないといけない。そのための「5W2H」や「禁止ワード」の設定というのは役に立つはずなので、健康が気になる人は、ぜひこの本を読んで実践していってほしいものだ。

  • 特に紹介しておきたい箇所(見出し):

    ・WELQは私だったかもしれない
    ホロコースト(ユダヤ人虐殺)を遂行したアイヒマンが巨悪などではなく単なる役人でしかなかった、「悪は陳腐だった」と論じたアレントを彷彿とさせる話。いち労働者として業界構造に抗うことは、倫理的な義務だが、経済的には不可能である。構造が変わらなければならない。

    ・ネットに革命が起きた日
    グーグルが検索エンジンのアルゴリズムを改善し、信頼性の低い医療情報が上位に表示されなくなった。つまり、医療情報メディアにとっての経済合理性が変わった。

    ・経済合理性に抗うには
    紙媒体でもネットと同様に「経済合理性を逆転させる」というゲームチェンジができるか。

    ・科学的ならそれでいいのか?
    科学は「正義」なのか、そうではないのだ、という議論。これは非常に重要。
    →拙稿:科学リテラシーや確率・統計は大事だが、絶対ではないという話 https://medium.com/@zerobase/c5dd7f99ba63

  • 読了。70代の両親にも読ませようと思って、敢えて紙の書籍を購入。「WELQ問題の火付け役」という帯とこのタイトルだけ見ると、ネットメディアを批判する本のように思えるが、そうではなくむしろネットの可能性は明るく、もっと良くなっていくはずだという信念のもとに、現状の課題と解決策を具体的、かつわかりやすい言葉で語っている。私は記者でも何でも無いが、科学的な思想の立ち位置は著者に近いと思うので、一つ一つが腹に落ちるものだった。
    ただ、ちょっと論において「私(著者)」を出し過ぎなのではと鼻につくところもあったが、海外の科学解説書など読んでると、もっと自分の自慢話がたんまり出てくるものも多いので、このぐらいでちょうどいいのかもしれないとも思った。著者にはもっと活躍を期待している、

  • インターネット事業者なら2016年末におきた「WELQ問題」を知らない人はいないはずです。

    本書の中では「医療デマ」という言葉を使っていますが、医療に関する信ぴょう性の薄い記事を大量につくって、グーグルなどの検索エンジン対策(SEO)をして、ウェブページに誘導することが大きな問題となりました。

    これまでにも「この記事、本当かよ!」みたいなことがありましたが、人の命に係わる「医療」を題材にしていたことが何よりも問題視され、そこから芋づる式に「キュレーションメディア」と呼ばれている特定のテーマについて記事を大量に作る?作らせていたサービスが一気に問題視されました。

    何が問題の中心か?と問われると要素が多すぎるので、そのあたりは本書に丁寧に書かれているのでどうぞ!(記事の信ぴょう性、不安をあおる、低賃金で記事を書かせるなど、これによっていろんなことが社会問題として取りざたされましたね)

    で、結局何がダメなことで、誰が悪いのか?ということは分かるようで、分からないというのが正直なところだと思います。ということで、この「WELQ問題」をスクープした本人が書き起こしたこの本を読んで全体像をつかんでみると、また捉え方も変わると思います。

  • リテラシーをめぐる問題提起。なにかのっぴきならないものがあって「ニセ医学」にすがりついた人びとに、単に「科学的に間違いだから」で押し通しても仕方がないというのは本当にその通りですよね。そして「本人が喜んでいるのだから、自己責任なのだから」に対して、リベラル的な立場はすぐ袋小路に陥る。『断片的なものの社会学』にもそんな話があったな。だからこそ、パターナリズムというコンセプトを再考するべきではないかと個人的には思ったりもする(と、このあいだ酒の席で友人に話したらボコボコに反感をくらってしまった)。

    そもそも「科学には限界がある」という認識も、高度なリテラシーを求められる態度ではある。「経済合理性」の圧力も本当に強い。めちゃくちゃハードル高いじゃん……と暗澹たる気持ちになるが、本書はこのネット時代における情報の堅実な見極め方、声をあげることの大切さ、ゲームチェンジの可能性を示している。僕は情報や文化の焼け野原みたいな未来を生きたくないので、ささやかながら、やっていきたい所存。

    「どれだけエビデンスが強いといっても、「嫌だ」「怖い」という人に、無理やり何かを強制することはできるのでしょうか。できないのです。できないから、科学的な人ほど、そのことに苦しみます。「なぜ、これほどまでに科学的に明らかなことが通じないのか」と。残念なことに、そうすると次第に、科学的であることに先鋭化する人が現れます。主張がどんどん極端になっていったり、その主張を理解しない人に攻撃的になっていったり」(p.205)

  • 著者は医学部出身でありながら、ジャーナリストの道を進んだ異色の経歴。

    DeNAのWELQ問題を世に問うた、火付け役としても有名です。

    その強みを活かして、世の健康・医療関連の本やコンテンツの中には、いかにトンデモ情報が蔓延されているか?それらがいとも簡単に信じられてしまっているか?のメカニズムに言及しています。

    コンテンツの発信者にとして読むと、実に身の引き締まる(牽制機能、自浄作用)内容。

    医療情報だけでなく、金融系情報も当てはまりますね。

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著者プロフィール

1986年生まれ、茨城県出身。朝日新聞withnews副編集長・同医療記者。群馬大学医学部医学科卒。2014年メディア運営企業に入社、有限会社ノオトを経て2017年にネットの報道機関へ。医療報道部門の立ち上げに従事し、「医療記者」としての活動を開始。2019年に朝日新聞社に転職、2020年3月より現職。著書に『健康を食い物にするメディアたち』(ディスカヴァー携書)がある。

「2023年 『健康診断で「運動してますか?」と言われたら最初に読む本 1日3秒から始める、挫折しない20日間プログラム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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