- Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
- / ISBN・EAN: 9784800237316
感想・レビュー・書評
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海賊(パイレーツ)が、いつからどのように発生したのかは明らかにはなっていないようだ。
ただ、その歴史は長く、深い。
『ONE PIECE』や『パイレーツ・オブ・カリビアン』などの親しみのある海賊世界にたどり着くまでには少し辛抱していただく必要がある。
海賊については、紀元前12世紀頃には地中海に「海の民」と呼ばれる海賊集団がいたようである。
古代ギリシアに「海の民」との戦いに記録が残っているそうだ。
次に海賊が歴史に大きく登場するのは、西ローマ帝国滅亡後に南下して活動した北方の民「ヴァイキング」である。
一口にヴァイキングと言っても、デーン人(デンマーク)、ノルマン人、スヴェート人(スウェーデン)など複数の部族がいた。
デーン人の王クヌートは、カエサルでも征服できなかったイングランドを制圧し、海賊にしてイングランド王となった。
ヴァイキングについて詳しく知りたい方は、マンガ『ヴィンランド・サガ』(講談社)がオススメである。
ヴァイキングの戦闘や、キリスト教との交流、奴隷売買、農園経営といった当時の様子が時に大胆に、ときに繊細に描かれている名作だ。
ちなみにタイトルにある「ヴィンランド」とは北アメリカ大陸を示す。
コロンブスが発見する数百年以上前からヴァイキングはアメリカ大陸の存在を知っていたのである。
ところで、現在の世界の国々の中で教育や福祉の先進国として注目されているのが、ヴァイキングが活動した北欧であることは注目したい。
これには、北欧ならではの「平等主義」の文化が深く関わっているようだ。
1つの船に大勢の命を預けて助け合うヴァイキング文化に対し、教皇・王・領主・騎士といった階層社会で育まれたイギリス・フランスなどの西欧社会は、根源的に性質が異なる。
本書でも詳細に記述されているが、ヴァイキング社会では負傷して手足が使えなくなったような船員もやっかい者扱いすることなく、できる範囲の仕事を与えるなど、仲間意識が強く、メンバーそれぞれに役割があった。
また、戦利品などについても、船長の報酬は一般船員の2倍程度で、航海士と同等、船医よりもやや多い程度だったことなどから、やはり平等主義的な面が伺える。
意外かもしれないが、イスラム教徒の海賊もいた。
7世紀頃からイスラム勢力は地中海を西に進み、キリスト教との対立が深まっていた。
このイスラム海賊は「バルバリアン(バーバリアン)」と呼ばれる。
古代ギリシア人が多民族を「野蛮人(ベルベル人)」と呼称していたことが由来とされる。
実際、バルバリアンの所業は残酷だったようだ。
ちなみに『ONE PIECE』に登場するウルージは、バルバリアンとして実在した人名である。
海賊について語るときに欠かせないのがイギリスのエリザベス女王である。
スペイン・フランスと敵対していたイギリスは、戦利品の一部を国庫に納めることを条件として海賊行為を合法とすることで、次々と他国の船を襲わせ、国力を増強した。
この時代の海賊の中でも最も有名なのがフランシス・ドレイクである。
人類初の世界一周就航はマゼランであるとされるのが一般的だが、実はマゼランは航海途中で死亡している。
生きて世界一周就航を成し遂げた世界初の人物は、実はこの海賊ドレイクであった。
ドレイクはその就航により、イギリス国家予算の3倍の財産を持ち帰り、エリザベス女王からナイトの称号をっ授与される。
その後、ドレイクはイギリスの国家船団に加わり、指揮をとってスペイン無敵艦隊を破った。
こうして、イギリスは産業革命を成し遂げる財力と、ヨーロッパの海洋権を有するに至り、植民地開拓、東インド会社設立といった活動へ移る。
フランシス・ドレイクがいなければ、世界史は大きく変わっていたかもしれない。
アメリカ大陸への就航ルートが確立した後、ようやく親しみのあるカリブ海の海賊の時代に入る。
『パイレーツ・オブ・カリビアン』で誘拐される女性はポートロイヤるという街の提督の娘だが、ポートロイヤルはカリブ海に実在した都市だ。
また『ONE PIECE』で登場するキャラクターの名前も数々見受けられる。
たとえば、
フランソワ・"ロロノア"
ヘンリー・"モーガン"
"バーソロミュー"・ロバーツ、
"黒髭ティーチ"
エドワード・"ロー"
などの実在した海賊が本書で紹介されている。
" "で囲んだ部分は『ONE PIECE』で登場するキャラクターと同一の人名になっている。
それぞれの海賊がどのような活躍をしたのかは、本書をお読みいただければと思う。
本書では他にも『村上海賊の娘』で有名になった村上水軍や、東南アジア海洋で活動した倭寇なども紹介されているが、ここでは割愛した。詳細をみるコメント0件をすべて表示