- Amazon.co.jp ・本 (211ページ)
- / ISBN・EAN: 9784800297129
感想・レビュー・書評
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あなたが最近ココアを飲んだのはいつですか?
…と自分で質問を書いておきながら、う〜ん、う〜んと唸ってしまう私。コーヒーなら今飲んでいるところだし、お茶だったらお昼ご飯の時に飲んだよな…、でも、ココア?ココア??ココア???
人によって食べ物の嗜好は異なります。当然、飲み物だってその好き嫌いはマチマチです。冬の到来、あったかい飲み物がとても恋しくなる季節。そんなあったかい飲み物の代表格であるコーヒーと、今回注目したいココア。その両者の消費量を比較した統計が存在します。総務省統計局の家計調査の直近値。それによると一世帯あたりの消費量は
コーヒー : ココア = 14 : 1
と、両者にはなんとも大きな開きがあるようです。個人的には、ここまで書いても自身がココアをいつ飲んだかという記憶が蘇らない感覚からはもっと大きな開きがあってもいいような気さえしてしまうこの両者。とはいえ決して嫌いなわけではないのに、何故か手がのびないという私にとってのココア。そんなココアのことを『一見ふんわりしているようで、実はしっかり存在感のあるイメージです』と語る青山美智子さん。確かにその甘い香りや、飲む前に頭に浮かぶイメージよりも、実際に飲むと確かな存在感を感じる飲み物、それがココアなのかもしれません。そんなココアに優しさを見るとしたら『安心できる信頼感』だと続ける青山さん。そんな青山さんがココアを起点に描いていくこの作品は、その『安心できる信頼感』で、人と人とがどんどん繋がっていく、ココアを飲んで身体が温まるように、この作品を読んだ人の心がホッコリと温まっていく、そんな優しさに満ち溢れた物語です。
『僕の好きなその人は、ココアさんという。ほんとうの名前は知らない。僕が勝手にそう呼んでいるだけだ』という主人公の『僕』。『勤めている「マーブル・カフェ」の、窓際、隅の席』に『半年くらい前から』、『ひとりで来て、必ずそこを選んで座る』というその女性。そんな女性は『決まって木曜日』の『午後3時を過ぎたころに扉を開き、そこから3時間ぐらいこのカフェで過ご』します。『成人式から3年たった僕よりも、たぶん少しばかり年上なんだろう』というその女性。『長い英文のエアメールを読んだり書いたり』しているその女性が『便箋に文字を書きつけている』のを見るのが『とても好き』という『僕』。『唇がゆるやかに弧を描き、白い頬に赤みが差す』、『まばたきをするたび、伏せた目元で焦げ茶色の長いまつ毛が影絵を作る』と彼女がとても気になる『僕』。そんな『僕』が『ここで働くようになったのは、2年前の初夏』のこと。そのとき『無職だった』という『僕』は川沿いの葉桜になった並木の下を『ひまにまかせて木が途切れるまで進んで行』きます。そして『生い茂る葉の陰に店があるのを』、『こんなところにカフェが』と見つけました。『なんともほっとする空間だった』というそのお店。『行き場のない僕に、「席」があることがなんだかありがたく思えた』というそのお店。『店員らしき男性がちょうど壁に「アルバイト募集」の紙を』貼っていたという運命。ホットコーヒーを注文した『僕』が『店長さん』と呼ぶと『マスターって呼んで。夢だったんだよね、喫茶店でコーヒー淹れるマスター』というその男性。差し出された素焼きのカップに淹れられたコーヒーを飲み『じんわりとやわらかなコク』を感じた『僕』は『そのひとくちで決心をし、椅子から立ち上が』ります。『アルバイトの面接、お願いできませんか。ここで働きたいんです』と言う『僕』に『真顔で黙ったまま5秒ほど僕を見て』、『いいよ。じゃ、正社員ね』と答えるマスター。『まだ名前すら伝えていないのに?』とぽかんとする『僕』。『俺、見る目だけはあるんだ。じゃ、決まりね』というマスター。そして働き始めた『僕』に『しばらく留守にするから』と言い出したマスター。そして『2年間、僕はマーブル・カフェをひとりできりもりしている』というそれから。『経営者の名義はマスターのまま』で、雇われ店長の『僕』が切り盛りする『マーブル・カフェ』。そんな『僕』は『店員が客に恋するなんて、あるまじきことかもしれない』とその女性を見て思います。『でも片想いでいいんだ、ぜんぜん』という『僕』は『僕にできうる限りを尽くす』と考えます。そう、『木曜日には、とびきりおいしいココアを彼女に捧げる』と。そんな『僕』視点の物語に続いて、人と人とがどんどん繋がっていく物語が描かれていきます。
12の短編からなるこの作品は、一話に一人ずつ異なる人物に視点を切り替えながら物語が進んでいく連作短編の形式をとっています。一般的に連作短編というと、家族や友人、クラスメイト、またはスポーツのチームメンバーなど、その最初の短編でおおよそその先に移っていくであろう視点の範囲が想像できる場合が多いように思います。それが故に、この人物視点に移ったらどのように見えるのだろう、見えていたのだろう、というような感じで全体を読み進めていく、それが連作短編の魅力だと思います。しかし、この作品では、最初の短編からは全く想像も出来なかった異国の人物にまで視点が移っていく、その視点の移動範囲がとてもダイナミックなことに驚きました。そんな12名の視点回しの中では、最初の短編の主人公である『僕』がどのように見えているかも描かれていきます。前述したように無職の青年というところからスタートするこの物語。カフェに入るのに『財布の中の小銭を確認してからドアを開けた』という無職の厳しい現実に繋がる表現もあって、読者は今ひとつ『僕』がどういった人物なのかが読みきれません。それが次に続いていく短編の中のある人物視点では『店員の男の子が若くてキュートで目の保養にもいい。今どき珍しいタイプの純朴青年』という表現で登場します。また、別の短編のある人物視点では『若いウェイターはきびきびと働きながら、時折、私たちを見守るような穏やかなまなざしをよこした』という描写が続き、次第に一本通った『僕』のイメージが読者の中に形作られていきます。それは、最初の短編の『僕』視点で『僕は、僕にできうる限りを尽くす』という誠実さに溢れた『僕』のイメージをどんどん前向きに補強していくものでした。短編によっては全く登場もせず、登場したとしても、物語の背景にすぎないような描かれ方であっても、最初の短編の主人公を務めた人物に対する読者の興味が消えたりはしません。そんな『僕』のイメージが同じ方向を向いて少しずつ補強されていくからこそ、その結末にじわっと温かいものが素直に感じられるのだと思います。この点、とても上手く構成された物語だと思いました。
そして、年齢、国籍さまざまな人物が登場するこの作品では、人のさまざまな生き方を垣間見ることもできます。もちろん、一話一人のため深く掘っていくまでには至りませんが、それでもなるほどね、と感じさせてくれる言葉がいくつも登場します。そんな中でこの物語の芯を貫いているものが、『マーブル・カフェ』のマスターの生き方にヒントを見る表現だと思いました。謎多き人物であるマスターは、前述した最初の短編でも『僕』に店を任せてあっという間にいなくなります。『俺、見る目だけはあるんだ』というマスター。『俺の役割って、すごい力を持ってるのに埋もれちゃってるヤツを引っ張り出して、世の中に伝えたり広めたりすること』というマスター。人生を振り返ると、その全ての事ごとにおいて何かしらの『起点』があったことに気づきます。その人の人生のドラマはあくまでその人のものです。その起点も当然にその人にとってのものであったはずです。マスターは、そんな本来他人の人生のドラマの『起点』に『誰かのために、何かのために』と、結果としてその人を動かす起点として『好きなんだよなあ、夢が現実になる一歩前の感じ』と関わっていきます。しかし、よくよく考えると、私たちの人生のドラマは、一人で成り立つものなどないことにも気付きます。そう、『多かれ少なかれ、誰もが誰かにとってそういう存在なのかもしれない』という事実。この作品は、前述したようにある一定範囲の集団の中で視点が動いていく物語ではありません。あることがまさかの繋がりで国境を越えてどんどん繋がっていく物語です。私たちは生きている中で日々人との関わりなくしては生きてはいけません。先日、会社で同僚が退職しました。全くの予想外のことで何があったのかと驚きましたが、そんな彼女から最終日にメールが届きました。そこには、かつて私が彼女に語った言葉があり、それが今日までの自分を支えてきた、また退職してもこの言葉を胸に…という言葉が綴られていました。正直なところ、私にはそう言われて初めて思い出した言葉でした。でも一方で、彼女の中ではそれは強く響いていた言葉だったという事実がそこにはあります。『きっと知らずのうちに、わたしたちはどこかの人生に組み込まれている』ということが実際にある。私たちの何気ない言葉が、行動が、知らず知らずのうちに誰かの人生に何かしらの影響を与え、逆に自身も与えられて、それが起点となって私たちの人生が前に進んでいく。知らず知らずのうちに人と人が幅広く無限に繋がっていく。そう、私たちはそんな世界に生きているのかもしれない。それが私たちの人間社会なのかもしれない、そんな風に感じました。
人と人との繋がり。それは私たちが思う以上に幅広く深く滲み入っていくものです。ある人の何気ないひと言が他の誰かの人生に響いていく。他の誰かが前に進むための大切な起点となっていく。そんなさまざまな起点に光を当てたこの作品。『スイッチをオンにしたい時にはコーヒーやミントティーを飲むことが多いのですが、オフにしてくれるのがココアかもしれません』と語る青山さんが描くココアを書名に冠したこの作品。
オンではなくオフの自分の落ち着いた気持ちの中にこそ、人生の次の一歩を踏み出す起点は用意されているのかもしれません。そして、そんな落ち着いた気持ちの起点を作り出してくれる、ほっこりとした安らぎを私たちに与えてくれるココア。『安心できる信頼感』を与えてくれるそんな飲み物の名前を女性の呼び名にする『僕』の物語が起点となるこの作品。思った以上に深く、それでいて優しく穏やかに語りかけてくれる、そんな人の優しさに溢れた絶品でした。 -
凄いの一言
ほっこりとした お話を
各話に登場人物に数珠繋ぎに
凄いスピードで繋げていく
すごいテンポよく話しは繋がって行き
最後は最初の話にもどり
締めくくる
ベテラン落語家の寄席を聞いたような感じでした
お見事!!
※だから結局俺が何を言いたいかって言うと…
【買い物中 店内でぶつかってくる人って 観察してると方向転換の際に、頭より先に身体を方向転換させてるよね?】って事!!
(通路の真ん中をヒタスラゆっくり歩いたり、急に立ち止まられるのも嫌ですよね) -
1.この本を選んだ理由
青山美智子さんの『お探し物は図書館まで』を読んでから、他の作品も読みたいと思ってました。
図書館で予約した本が、数ヶ月してやっと入ってきたので、楽しみに読み始めました。
2.あらすじ
小さな喫茶店「マーブル・カフェ」から物語は始まる。
そこで一人の男性が雇われオーナーとして働き出す。
喫茶店のお客様から、一人ひとりの物語が展開して行き、最後にまた、『マーブルカフェ』に戻ってくる。
3.感想
いやー、いいね。というのが第一声。
とても、微笑ましい気持ちになります。
文庫本で読みましたが、ページ数も文字数も少ないので、サクッと読めてしまいます。
真摯な対応、誠実さのある対応は、きっと、誰かの役に立っていると感じさせてくれる。とてもよい作品でした。
全体的によかったですが、最後がよかったです。この最後の感じは、ほんとよかった。
ほんと、ココアって感じでした。ココアが飲みたくなる作品ベストワンかもしれないですね。
4.心に残ったこと
ここでも、『相手の身になるって、難しいわね…』というセリフ。クリティカルシンキングの授業で、痛感させられたばかりなので、余計にこの言葉がささる。
5.登場人物
(1)木曜日にはココアを
ワタル ココアさん
ココアさん マコ
メアリー
朝美
(2)きまじめな卵焼き
朝美
拓海
輝也
えな先生
(3)のびゆくわれら
えな先生
萌香
泰子先生
(4)聖者の直進
泰子先生
理沙
(5)めぐりあい
理沙
ひろゆき
美佐子
進一郎
(6)半世紀ロマンス
美佐子
進一郎
尋子
(7)カウントダウン
優
美佐子
(8)ラルフさんの一番良き日
ラルフ
シンディ
(9)帰ってきた魔女
シンディ
グレイス
(10)あなたに出会わなければ
アツコ
マーク
マスター
グレイス
(11)トリコロールの約束
メアリー
マコ
(12)恋文
マコ
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コメントありがとうございます(^^)
ココアって感じでした ww
情景が想像できて、甘くて、ほわっとした感じでした☕コメントありがとうございます(^^)
ココアって感じでした ww
情景が想像できて、甘くて、ほわっとした感じでした☕2022/06/18
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ブクログを始めてからこの本を知りました。
読みやすく、ほっこり癒されました。
短編集ですが、それぞれ繋がっていて、優しい気持ちになります。この本に出会えて良かったです。 -
表紙の絵が全てを表している。
ゆるやかに繋がった、12色の小さくて素敵な物語。
気分転換の読書としてうってつけ。
作中に出てくる50年間夫と連れ添ったおばあさんの「永遠の愛」についての格言。
「とても難しいことでもあるし、とても簡単なことでもある。愛そうと決めて愛するのではないからね。愛は本来すこぶる自由なものよ」(P98)
「だから結婚式でわざわざ誓いたがるものなのかもしれないわね、人間は」
極めて当たり前のことを言っているのだが、深いなぁ、と。
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喫茶店でココアが飲みたくなる本でした。
疲れた人におすすめ。
ほっと癒してくれる12の色にまつわるお話が詰まっています。どの話もとても素敵で、そっと心に寄り添ってくれます。
短編で気軽に読めてしまうのに、ひとつひとつのお話がしっかり起承転結していて満足感があります。最後には巡り巡ってお話が繋がるのですが、本書に出てくるカフェの名前であるマーブルがぴったり。混ざりあってひとつの模様をなしているという方がぴったりな感じです。
紙の手触りで読みたい一冊で、素敵な本でした。 -
はー。優しくて優しくて、心が解けるってこの事か〜って思いました。
12個の短いお話が一冊に詰まっていて、何処かの町の川沿い、桜並木が終わるところにある小さな『マーブル・カフェ』を起点に始まります。そこに通うお客さん、その知り合い、の知り合いなど物語は続いてゆき、読み終わった時このタイトルの意味が物語として繋がり、旅をして帰ってきたような感じ。
人と人の繋がりや思い遣り、とにかく優しいお話でじわじわ気がつくと涙が出ていました。
青山美智子さんのお話は「鎌倉うずまき案内所」から二作品目。どちらも本当に優しいお話でとても穏やかな気持ちになりました。傍にいてくれる人を大事にしようって思えるような読後感。
私もちょっと落ち着いたカフェで、本を読みながらココアが飲みたくなりました。これから寒くなるしね。 -
図書館で借りました。先に『いつもの木曜日』を読んでいたので、登場人物の裏話を知っている気分でした。
人の心にある嫉妬や劣等感も描かれるけれど、決して後味が悪くない温かいお話でした。
「きっと知らずのうちに、わたしたちはどこかの人生に組み込まれている。」という文が印象的でした。たしかに、友人や同僚から影響を受けることは多いけれど、自分が誰かの人生に関わっているとは考えたことがなかったなと思いました。 -
いやいや違うんだって、ちょっと聞いて、一回聞いて、図書館で『月曜日の抹茶カフェ』借りてきたの、そんで読み始めようとしたら続編ですって言うのよ、『木曜日にはココアを』の続編ですって、えーそりゃないわって急いで『木曜日』借りようと思ったら、『木曜日』貸出中でね、『月曜日』先読んじゃおうかなって思ったんだけど、やっぱりちょっと気持ち悪いじゃない?で調べたら別の図書館に文庫版の『木曜日』があってお取り寄せしてみたの、そんで届いたのはいいんだけど、そうこうしてるうちに『月曜日』の返却期限が近づいてきちゃって、読みかけの『正欲』は一旦中断して『木曜日』を読んだってわけなの、だいたいさぁ、『月曜日』と『木曜日』だったら『月曜日』が先だって思うじゃない?『木曜日』が先で『月曜日』が続編ってどういうことよ?「日曜日」『月曜日』「火曜日」「水曜日」『木曜日』なわけじゃん?これってもう神様が決めた順番なわけよ、「金曜日」「土曜日」って続いてまた「日曜日」に戻る、これが世の理なわけ、それを『木曜日』の方が先ですって言われてもさぁ、で、肝心のお話のほうなんだけど、ふんわりとした麗かな「日曜日」に始まって「日曜日」に戻るみたいに、「ココア」に始まって「ココア」に戻る、そんな素敵な連作短編集でした(ただただ読みづらいわ!)
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2023/07/15
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2023/07/15
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ひまわりめろんさん、お返事ありがとうございます。
初コメじゃない?!
ナンデストΣ(゚Д゚)
ひまわりめろんさんが野党にいたら、毎日が日曜...ひまわりめろんさん、お返事ありがとうございます。
初コメじゃない?!
ナンデストΣ(゚Д゚)
ひまわりめろんさんが野党にいたら、毎日が日曜日でも生活費くれ!!
の議案で可決に難航しますわ。2023/07/15
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12の短編集。甘酸っぱい表題の「木曜日にはココアを」で、次の章に期待したら全く違う話になって混乱する。このまま表題作が続いたらとも思ったが、どの短編も最後は心温まる内容だった。ただ、毎回の主人公が前の短編に微かに出た人だったり、他の短編に居た人だったり、一覧表が欲しくなる。
最後は表題作に戻り、二人の関係が前進する様子にホッとする。
久しぶりに自身のレビューを読み返してみて、当時そんな風に感じたんだ、と私も読み返した...
久しぶりに自身のレビューを読み返してみて、当時そんな風に感じたんだ、と私も読み返したくなりました。青山美智子さんの作品は私にとって直球ど真ん中!六冊読みましたがどれも甲乙つけ難い傑作揃いだと思います。
味わい深いとお書きいただいてとても嬉しいです。レビュー頑張らないと(笑)
どうぞよろしくお願いいたします。
来月予定の青山さんの新作も楽しみです...
来月予定の青山さんの新作も楽しみです。三冊セットでしか読めない私は、もう一冊待ちですが…(苦笑)。
どうぞよろしくお願いいたします!