悪と魔の心理分析―満たされない心の深層を探る

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  • 大和出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (236ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784804760599

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  •  著者は(元)神戸女学院大学教授。専攻は心理療法,精神病理,性格論.自称「動くたんぱく質」.

     冒頭から,あの頼藤節の炸裂である.

     曰く,悪と魔について述べるのであるが「もとより,われわれ人間にとっての悪と魔なのであって,クジラやゴキブリやチョモランマなどにとっての悪と魔ではない」「ここで,すでにして悪や魔が,絶対的な価値から規定される「よからぬこと」でないことが示唆されている」「われわれにとって意味あるのは,つねに人間からみての価値なのであって」などなど,頼藤ファンにとっては(ほかの著作と同じく)期待を裏切らない書である.

     方法:「人間にかかわるあらゆるテーマを考察する場合,……没人間的な視点,あるいは宇宙規模の視点を見失わないようにする」

     前提:「悪や魔は.人間から極端なマイナスの評価を受けたなにかであるにすぎない」
     宇宙規模の視点から見た魔とはなにか.凡人であるわれわれ全員の中に潜んでいる満たされない欲望の発露である.われわれは,適当に身近な存在を悪と規定し,それを攻撃し始める.人間は基本的に「わたしは正しい」と感じるものである.人間の心の根底には身勝手さや卑劣さが潜んでいる.これらはわれわれ全員の内部に潜む「どうしようもなさ」であり,われわれの心理ではなく生理である.生理的なレベルの問題について正邪善悪は論じることができない.
     では,そのようでしかありえない特定の人間の正体を見定めるにはどうするか.対象を「どうでもよいもの」とみなし,驚異的なまでに冷静に探究すること.言ってみれば,「太陽系第三惑星の表面で右往左往している直立類人猿を,クールに観察する」こと.
     ひるがえって,その悪や魔を担う「本人」とは何か.これも「肉体と環境の相互作用からなる反応の場を「本人」と名づけ,それを社会現象のエレメントとして,ひいては責任の所在として想定」したものである.
     そして,「さいわいなことに,相手もまた,われわれと同じほど手前勝手な小悪党なので」加害も被害も集中しない.我々にとってヒトは「無条件に信用できるシロモノではない」.
     頼藤先生によれば,「価値観というのは,あくまでもその時代に生きる人間たちの利害論理」でしかないし,その「価値観の密室から抜け出すには……当代の「絶対の真理」を相対化できる立脚点を確保する」ことが必要であり「そうした立脚点として天文学や生物学以上のものを知らないのである」.
     すなわち,科学は「どうすればどうなる」という知識を無条件に集積する.「どうあるべきか」については科学からは出てこない.
     自らの内なる「悪」については,それがわれわれの内にあり,われわれが生み出したものであることを素直に認める.しかし何を悪とするかは,われわれが存在する社会が決めたものであって,われわれが決められるものではない.よって生きる上では善悪の判断を完全に放棄するか,「世間では」という限定条件を付けて判断することしかできない.人間には,自分を許す資格もないかわりに弾劾する資格もない.われわれが独自に判断できるのは,不愉快か愉快かだけであろう.
     自分以外の「悪」については,真実かどうかより有用かどうかをまず吟味しなければならない.仇なす者には容赦せず,大多数の構成員とは利害を共有する.
     神仏の存否に関しては判断を保留するのが科学的であり,もし神仏に功徳や果報をなんら期待しないなら信じておけばよい.なぜなら,神仏はわれわれの父祖にそっくりなものなのであり,われわれの想像力の限界の内部にあるから.
     

     いかがでしたでしょうか.この鋭い切れ味は,この本を実際に手に取って堪能してください.しかし残念ながら,頼藤先生は2001年に死去されているので,現在では,この本も含めて著書は,おそらく古本として入手するしか方法はないでしょう.もちろん新刊はのぞめません.(著書のうち何冊かは電子書籍になっているようです.図書館には,たぶん蔵書されていると思われます.)

     合掌.


    2019.01

  • 精神科医による悪と魔について、心理学的見地から論じたエッセイのような作品。

    この本を通して、作者が伝えたいことがよくわからなかった。
    人間ってものはそんなもの ということなのか?

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