もっと知りたい藤田嗣治 ―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)
- 東京美術 (2013年8月25日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (96ページ)
- / ISBN・EAN: 9784808709686
感想・レビュー・書評
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藤田嗣治(レオナール・フジタ)といえば、あの、おぼろげに発光する大理石のような「乳白色」。
藤田はこの乳白色をいわば企業秘密として秘していたというが、写真家・土門拳が1941年に藤田の制作を記録した際にその企業秘密が写っている。それは「ベビーパウダー」。
本書が詳しく説明してくれている。
まず、手作りしていたカンヴァスの支持体は「漂白された非常に目の細かい麻布」を使い、下地となる油性塗料はシルバーホワイトとカルシウム化合物を主成分としている。さらに下地からは、彼の作品の修復のさい、「タルク」(滑石粉)という成分が検出された。これがベビーパウダーに多く含まれているのだ。
とくにオリジナルの絵を見るとあの乳白色はほんとに独特。ようやく疑問がほどけた。とはいえタルクを用いたきっかけは何だったのだろう。
さて藤田嗣治は父の上司である森鴎外(!)のすすめで東京美術学校にすすみ、そして渡仏。世界を旅するついでに一時帰国。戦争画家として従軍。その後1年のニューヨーク生活を経てふたたび渡仏。フランス国籍を取得し、洗礼によりレオナール・フジタと改名。晩年をすごす。
それぞれの時期ごとに魅力があるけれど、個人的には、子どもや宗教画を描いた(そしてミニチュア模型を制作した)晩年がいちばん好き。
これでもかと乳白色を用いた若かりし頃の裸婦の絵もいいけど、晩年は黒や茶系統の暗めの色などといっしょに乳白色を効果的に使っている。「フレール河岸(ノートル=ダム)」「アージュ・メカニック(機械の時代)」「聖母子」など。ランスで見たフレスコ画の無垢な神々しさは一生忘れない。
この晩年の作品があるのは、あの巨大でダークな戦争画を通り抜けてきたからだろう。
戦中に従軍画家になることを選択したのは、父が陸軍軍医総監だったことも関係しているかもしれない。戦後は誹謗中傷にさらされもしたようだけれど、そういう政治とか倫理とか、いやそんな立派なものではない世間の愚かな変わり身の速さは抜きにして、この戦争画群も迫力があってすばらしい。さすがにこの時期にあからさまな乳白色は用いられない。
(この頃、1940年に「猫のいる静物」という、卓の上に満載された食材を猫が狙っているような光景を描いた作品が描かれている。これ、個人的に藤田作品のベストな作品の1つ)
最後に、中南米を旅したときに現地の風俗を描いた作品、そして日本に帰国して秋田などを描いた力作も見逃せない。この時期と晩年の子どもたちの絵がいちばんユーモラスで愉しい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
とても、わかりやすかったです。藤田嗣治の作品や、その特徴、人間性を感じられて面白かったです。
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藤田嗣治の概要を知る。この本を読んだ後に、絵の内解説本を読むと分かりやすい。
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海外で成功を収めた日本人画家の草分け的存在である藤田嗣治(レオナール・フジタ)の、81歳、パリで亡くなるまでの創作活動を追う。
画家を一躍有名にした乳白色の肌の裸婦がよく知られるが、以降、中南米への旅、日本への里帰りと戦場各地への取材、渡米、そしてフランスへの帰化というように創作拠点と年代により、作風も変化をとげている。 本書はその多様性を知り、画家をトータルな視点でとらえることができる。(アマゾン紹介文)
忘れがたい自画像を数回何かで見ていましたが、まとまった内容を読むのは初めてです。
戦中の戦意高揚絵と戦後の子供の絵が強烈でした。とくに後者。
無表情な彼ら彼女らは人形じみているような…画一的な顔にマニエリスムを思い出しました。 -
十代のはじめ、大規模な藤田嗣治展があって、その時の感動は今でも忘れることはありません。女性や少女を描く藤田の筆は冴え渡り、乳白色の肌、視線を合わせてくる瞳に未だに釘付けです。猫もいいですよ。本書は総花的なせいでしょうか、レイアウトのせいでしょうか、印象が凡庸でした。とにかく、今年の大規模な美術展が楽しみです。
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近代美術館と目黒美術館に行こうっと。
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図書館で読む。やはり、この画家はすばらしい。それを再確認する。
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藤田の白、とは良く言われる魅力だけれど、実物見るとホントうっとりなんですよ。
と自信持って言えるのは、ポーラ美術館で結構たくさん見られるからなんだけどね。
藤田が5回結婚してたってのは、これ読んで知ったけどな!w