捨てる旅: 精神科医の蒸発ノートから

著者 :
  • 同文書院
4.00
  • (1)
  • (1)
  • (1)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 16
感想 : 1
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (239ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784810371710

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  •  旅は得るためだけでなく捨てるためにもある、というのは「指輪物語」の読者であればご存知の所で。

     とはいえ一般的にはやはり旅は「新しい知見」「新しい出会い」「新しい興味」を得るためのものなのであろう。とはいえそれは単にそれらが言語化され可視化されているだけの話であって、実際の所は旅人達の多くは旅先で何かを捨てているのである。センチメンタルジャーニーというではないか。
     精神医療に携わる著者はこの「捨てる旅」を強く自覚している。一日外を出歩けば(家の中に引きこもっていても)汗はかくし垢もつく。それを洗い流さなければ異臭を放つし痒いしとにかく不快である。そうした垢は物理的なものだけでなく精神的なものもある。たまにはデフラグしてやらなければ心が重く固まっていく。

     そうしたコンセプトの旅であるから、旅先で出会った面白い人や出来事はあまり出てこない。美味しい食べ物も出てこない。ただただ自分の内面を掘り起こしてはいらないものを捨てていく旅である。それでいいのである。それでもいいのである。
     本書で描かれている著者の旅自体は(おそらく著者も意識しているだろうが)どうでもよいことであって、どこに行こうとか、何をしようとか、そうした旅のヒントは一切ない。旅という非日常を日常の中にどのように組み込むのか、という概念を見つめなおせればそれでよいと思う。

全1件中 1 - 1件を表示

著者プロフィール

'1937年群馬県に生まれる。「心の病」治療の権威として、また地域・家族ぐるみの精神衛生活動の先駆者として知られる精神科医である。その活動で出会った人々を描いた本書は、「自分の人生の前半そのもの」と自ら言う。人生の後半は東京のど真ん中の病院で都会人の心の守り人となり、現在も臨床医として第一線にいる。私たちを取り巻く今の時代、この”治す職人”の慈愛に満ちた目と指針はますます貴重になった。

「2007年 『こころの医者のフィールド・ノート』 で使われていた紹介文から引用しています。」

中沢正夫の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×