それでも日本は原発を止められない

  • 産経新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784819111454

感想・レビュー・書評

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  • こんな事態になっても日本は原発をやめることができないという、アンチ原発派の書かと思いきや全くその逆であった。3.11以来「反原発」「脱原発」の声が一挙に高まったことを受けて、そうした流れは将来の日本を危ういものにするということに気がつくべきだと、原発の必要性を対談形式と書下ろしで説いていく。ただ、随所に出てくる、反原発の人々に対する極端とも思えるくくり方には、かなり引っかかるものがあり、そうした表現は、逆に原発の必要論としては逆効果になっているように思える。

  • 東北電力が学祭で無料配布していた本の2冊目。一見、原発は妥当だと思うかもしれないが、騙されてはならない。特に対談部分(1~5章)は突っ込みどころ満載だ。それらを列挙していくと以下の通りだ。

    第1章
    ・「東電は規制を守っていた」(p.27)というのは嘘である。点検漏れや故障箇所の虚偽などが日常茶飯事であったことは、福島第一原発事故以前から指摘されていた。
    ・「自然がアンノウンである」(p.30)にもかかわらず、「そこまでやっておけば、福島のような形にはならない」(p.31)と言い切ることはできない。福島の事故は国会事故調でも指摘があったように、シビアアクシデントに対する備えが不十分だったことが原因だ。事故が起こることを前提にして、最善の策を練ることが重要である。
    ・「放射能については、原子炉が止まると徐々に落ちていきます」(p.31)と述べている。しかし問題となっているのは、何千年経っても高濃度の放射線を発する放射性物質があることで、それを処理する能力を現人類が持ち合わせていないことである。
    ・東電が「ビジネスライクにコスト競争にかまけてしまった」のは事実だろう。しかしその原因が「電力市場の自由化という制度設計の問題」(p.48)というのは成り立たない。電力自由化はまだ行われていない。

    唯一説得力があるのは第1章にある『「電力自由化」論こそ事故に学んでいない』(pp.32-34)だけだ。中野が指摘しているように、福島第一原発事故が経済性を重視していった結果であれば、電力自由化や発送電分離も同じく、経済性を考えてのことなので、この二つは矛盾する。
    しかし擁護するわけではないが、そもそも電力自由化は経済性を重視するものかどうか疑問が残る。電力自由化によって、高くても自然エネルギーを求める人もいれば、安くすむ原子力エネルギーを求める人もいるからだ。このように考えると、経済性うんぬんの話はお門違いなのではないだろうか。

    2章
    ・固定価格制度は「10年後になっても10年後の古い技術にもっとも高いお金を払うことになる」(p.53)とあるが、電力料金が日々変わるように、固定価格も変わるように設定すればよい。それは政策で容易にできるはずだ。
    ・固定価格制度は「逆進性がある」(p.53)というが、だからこそ電力自由化が叫ばれているのだ。
    ・ウランを輸入している以上、「エネルギーの独立性」(p.63)を実現することはできない。使用済み核燃料の再処理技術も日本ではまだ確立されていない。

    3章
    ・使用済みMOX燃料を再処理する技術は日本にはまだない。またその再処理は最初の使用済み核燃料を処理するよりも難しい、すなわち事故を起こす危険性が増すということだ。
    ・「深い地下は、何十万年にも渡って何の変化も起こってない」(p.107)と言うが、直接処分が数万年後に与える、生態系への影響は未知数である。またフィンランドではオンカロ(直接処分した使用済み核燃料が貯蔵してある場所)に地下水が侵入し始めていることが問題になっているようだ。既に直接処分の課題が浮き彫りになっている。

    5章
    山名は「原子力なら安定したエネルギーを確保できる」(p.164)と言うが、その論拠はなにか。海外から輸入しなければウランは手に入らない。リプレースについて「地元の方々はよく理解されていると思います。男性だって女性だって原子力についてよく知っている。」と述べているが、その論拠がない。

    このように突っ込もうと思えばいくらでも突っ込める。「原子力は安全」、「環境に優しい」という主張は一面的なもので、多面的にみたら成り立たないことは明からだ。「原子力発電は経済性に優れている」と言い張る人も居るが、政府や事業者がきちんとした数値を公表していない以上、その真偽は定かではない。また事故補償のことや廃炉、使用済み核燃料の処理のことまで考えると、明らかにコストが高くなるはずだ。あらゆる側面から原子力発電について考えると、本当に原子力発電が妥当か疑問が残る。

  • 反原発,脱原発を唱える人にはぜひ読んでもらいたい本。

    2012/06/24図書館から借用;07/05朝の通勤電車から読み始め;7日で読了

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    民主主義国家として国民が自分たちの生活や経済を決定していくとき、他国や国際市場に制限されるようなことがあってはなりません。日本に原子力発電が必要な最大の根拠も、そこにあります。(…)日本では、どうもこの議論が説得性を持ちません。それは、わが国の国民の間で、とりわけ安全保障や国の独立性のためにコストを払い、リスクを背負おうという姿勢が弱いからです。だから原発の安全保障上の重要性を説かれても、あまりピンと来ないのではないでしょうか。(中野) 59
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    核燃料を廃棄物にせず、リサイクルして使っていくという優れた性能を持つにしても、高速増殖炉は、現在のところ、経済的に軽水炉にはとても勝てません。(…)ただし、技術的な面から見ると、高速増殖炉が理想的な炉であることは間違いありません。軽水炉が「使い残した」プルトニウムを燃焼して減らすこともできるし、意図的に増殖することも可能です。また、その他の寿命の長い放射性廃棄物を燃焼させることも可能です。(山名) 87
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  • タイトルからして、反原発の人が悲観している本を想像したけれど、そうではなかった。やや、推進的な意見だけれど、今にして考えてみると冷静である。客観的に問題点を整理している。

    その中でも、普天間問題、TPP問題、脱原発で、民主党は日本をいったいどうしようとしているのか、という記述が印象的であった。国家が国家として成り立つには、防衛能力、食糧、エネルギーの確保の3つが欠かせないが、そのいずれもボロボロにしつつあるというのだ。日本人はこのことを、もっと真剣に考えなければならないと思う。

  • 所謂アンチ「脱原発」本で、そのうち出るとは思っていたが予想外に早い出版。著者・山名氏は原子力工学専門家で、技術者の独りよがりを避ける意味から他の人との対談も入れた、とあるが人選が自分の考えに近い人だから余り牽制にはなっていないようだ。エネルギー自給の為に原子力は必須、というのが持論で石油・ガス・石炭ではセキュリティ上問題と言っているがウランと何処が違うのかはかなり感覚的に思える。また現在の軽水炉で出てくるプルトニウムを再利用するための高速増殖炉は技術的帰結であるとの持論を展開。動いていない「もんじゅ」で基本的な技術は習得し終わった、と言い切る当たりが原子力村の論理全開という感じ。いずれにしろ脱原発を言うのであればこうした人たちが相手になるわけで論破するためにも読んでおくべき本かも知れない。

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著者プロフィール

京都大学名誉教授
東北大学大学院工学研究科を修了後,動力炉・核燃料開発事業団で核燃料サイクル研究開発に従事。平成8年より19年間,京都大学原子炉実験所にてアクチニド化学研究に従事。

「2017年 『原子力安全基盤科学2』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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