コーポレートガバナンス・コードの実践

制作 : 武井 一浩(編著) 
  • 日経BP
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  • Amazon.co.jp ・本 (520ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784822250867

作品紹介・あらすじ

2015年6月1日施行!
数合わせやひな型的対応では意味がない。
「攻めのガバナンス」で持続的な成長へ
[上場企業の役員・取締役必読!]


上場企業を対象にした企業統治指針として、2015年6月1日に施行される「コーポレートガバナンス・コード」の基本的な知識と実務対応のポイントを、対談形式でわかりやすく解説します。最先端企業のIR(インベスター・リレーションズ)担当者、国内外の代表的な機関投資家、企業法務の第一人者など、コーポレートガバナンスの実務に精通したプロフェッショナルの生の声を収録しました。ガバナンス・コードの施行を受け、上場企業各社の経営陣は、自社のコーポレートガバナンスのあり方をどのように見直し、中長期的な企業価値向上を達成するために、どのような取り組みに着手すべきなのか――。「攻めのガバナンス」を実践するための知見とヒントが満載の1冊です。

感想・レビュー・書評

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  • ガバナンスコードの5原則(補充原則と併せて73項目)
    1.株主の権利、平等性の担保
    2.株主以外のステークホルダーとの適切な恊働
    3.適切な情報開示と透明性の確保
    4.取締役会等の責務
    5.株主との対話

    ガバナンスコードは、プリンシプルベースアプローチ(原則主義)で、
    「comply or explain(原則を実施するか、しない場合はその理由を説明する)」が採用されている。

    ガバナンスコードの原則2-1
    上場会社は自らが担う社会的な責任についての考え方を踏まえ、様々なステークホルダーへの価値創造に配慮した経営を行いつつ中長期的な企業価値向上を図るべきであり、こうした活動の基礎となる経営理念を策定すべきである。

    会社は株主から付託された者としての責任(受託者責任)をはじめ、様々なステークホルダーに対する責務を負っている事を認識して運営される事が重要である。(序文7項)


    市場において、コーポレートガバナンスの改善を最も強く期待しているのは、通常、ガバナンスの改善が実を結ぶまで待つ事ができる中長期保有の株主であり、こうした株主は市場の短期主義化が懸念される昨今においても、会社にとって重要なパートナーとなる得る存在である。

    長期志向かつ、資本効率性、収益性への関心が高い投資家は、年金や生命保険と言った長期目線の資金のアセットオーナーとアセットマネージャー。


    重要な非財務情報は、
    1.経営理念
    2.経営理念を踏まえていかにして企業価値を増加させるのか
    3.産業ライフサイクルや競争環境の分析
    4.いかなる経営課題を抱えているか
    5.経営環境の変化に応じた企業価値創造の具体的な経営戦略
    6.5を実現させる執行体制と規律ある社内体制

    本原則2
    近時のグローバルな社会、環境問題等に対する関心の高まりを踏まえれば、いわゆるESG問題への積極的、能動的な対応を含める事も考えられる。上場会社が、こうした認識を踏まえて適切な対応を行う事は、社会、経済全体に利益を及ぼすと共に、その結果として、会社自体にも更に利益がもたらされる、という好循環の実現に資するものである。

    E、、、長期的課題の重要例である環境対応。企業の持続的成長の基盤としていかなる環境対応が行われているかという点。
    S、、、経営理念、倫理観、社員のモラルとモチベーション、消費者との関係、取引先との関係など。例えば経営理念の従業員の現場への浸透度合いは重要で、社会への貢献、付加価値の提供をもって収益性をあげる旨が社内で共有、浸透されている事で、従業員のロイヤルティも高まり、中長期的な企業価値を実現する重要な原動力になる。従業員のワークライフバランスへの配慮、人材育成状況、安全衛生など、従業員の満足度が高い事も重要。一般消費者との信頼関係、サプライヤーとの共存関係、良い企業市民としての取り組みも重要。
    G、、、倫理の遵守の他、企業価値向上に向けた施策を実現させる戦略が採用されているのか?いかなる社内議論を経て採用されているのか?成長投資と資本コストを含めた資本効率性を踏まえた議論がなされているか?経営環境の変化に対する感度、順応性がポイント。課題や改革を実現させる規律ある社内体制や仕組みがあるか?新規投資や成長投資の取り組みについて、進捗状況についていかなる評価基準で管理を行っているのか?収益性の悪化の兆しをいかなるプロセスで読み取るのか?

    原則2-2
    上場会社は、ステークホルダーとの適切な恊働やその利益の尊重、健全な事業活動倫理などについて、会社としての価値観を示し、その構成員が従うべき行動基準を定め、実践すべきである。

    原則2-4
    上場会社は、社内に異なる経験、技能、属性を反映した多様な視点や価値観が存在する事は、会社の持続的な成長を確保する上での強みとなり得る、との認識に立ち、社内における女性の活躍促進を含む多様性の確保を推進すべきである。

    伊藤レポート
    1.最もイノベーティブな国である日本の企業の収益力について、代表的な指標である総資産利益率(ROA)や売上高営業利益率(ROS)を見ると、欧米企業とはほぼ倍の格差があり、この傾向が20年にわたり続いてきた。
    2.日本企業への中長期投資が低リターンしか生まなければ、合理的な投資はより短期の変動からの収益機会を求めるものにならざるを得ない。ショートターミズムには様々な要因がありうるが、日本では投資機会の短期化がもたらした部分が相当あるのでは。
    3.ROEは経営の目的ではなく結果であり、持続的成長への競争力を高めた結果として向上する。投資家は、企業が内部留保を再投資して成長する事を求めており、有効活用できない場合は株主還元も含めた対応を期待している。ROEを極大化すべきかは議論が分かれるが、最低限資本コストを超える水準を目指すべき。投資家が長期投資できる企業とは、持続的な競争優位により、中長期的に資本コストを上回る利益を創出できると見込まれる企業。
    4.日本企業のROEは他国に比べて低位集中している。資本回転率やレバレッジに大差はないが、売上高利益率が低い。
    5.日本企業によくある例として、資本市場や投資家との対話と、自社内の経営指標が違うダブルスタンダード経営がある。また、資金調達における間接金融比率が高く、資本市場との密な対話が必ずしも必要ではなかった。これらは、日本企業が長期的な研究開発や設備投資等を継続できた理由の一つだが、一方で資本コストやROE等への認識の低さ、内部留保の再投資や配当政策の不明確さに繋がっている。
    6.日本企業は無借金経営を是とし、レバレッジの考え方が馴染まない事や、実際の経営指標として現場に落とし込みにくい事でROEを最重視していない。資本コストを意識する企業は4割、投資家に開示している企業は1割弱。
    7.持続的に低収益状態にある企業や資本規律に対する考え方が明確でない企業で、四半期等の短期業績を意識した利益調整で長期投資を控える傾向やセルサイドアナリスト等の関心が四半期業績や短期的な業績予想に集中する事の影響を受けて短期志向化する懸念がある。
    10.過去20年の低迷期間においても、上場企業1,600社のうち、株式のリターンがプラスとなった企業は200社ある。この企業群の共通点は、
    顧客への価値提供力、適切なポジショニングと事業ポートフォリオ構築の為の選択と集中、継続的なイノベーション、環境変化やリスクへの対応が挙げられた。

    欧米企業の経営計画は、3年等の中期目標数値を詳細明確に示す事はなく、企業の長期ビジョンを踏まえた長期的視点からの企業価値向上のロードマップに重点をおいており、数値目標を出すにしても達成年限を明示しないとか、「EPSの中期成長率は○○%から○○%」といった長期的な下限やレンジ等を示している。(そこから先はアナリストが本来業務として分析すべき事)これで投資家の関心も細かい数値やその達成度合いよりも、企業価値向上の長期ロードマップの方に向かいやすい。(投資家、アナリスト側も詳細な予想数値の開示は、それが一人歩きする副作用を懸念している。)

    今後の経営計画においては、
    1.どういう長期ビジョンがまずあるのか?
    2.1を踏まえ、どういった経営課題に優先順位をおいて対処する戦略と意志を持っているのか。
    3.それを踏まえていかなる財務係数やKPIが目標値として選択されたのか。
    4.当該目標実現に向けていかなる施策をもって現場への浸透を図っているのか。
    5.中長期的な事業拡大等への成長投資、各種リスクへの対応、株主還元の配分や株主資本の活用方針
    等、経営の意思としてのストーリーに関心が寄せられる。

    建設的対話の場として、企業側からも投資家に質問をし、考え方を聞いた意見交換を行ったほうがよい。

    投資スタイル、企業調査が長期化すると、結果としての決算数値だけでは不十分で、非財務情報の重要度が増す。例えば、企業の経営理念など中期的に目指すべき方向・ビジネスモデル、経営戦略、それを支えるコーポレートガバナンス。

    上場会社は、自らが担う社会的な責任についての考え方を踏まえ、様々なステークホルダーへの価値創造に配慮した経営を行いつつ中長期的な企業価値向上を図るべきであり、こうした活動の基礎となる経営理念を策定すべきなのである。

    ガバナンスコードは、投資家と企業が中長期の視点で対話する手順書。

    企業価値創造のキードライバーは、売上高成長率と利益率の改善。

    長期投資家にとって、非財務情報やESGの見極めは投資の成否を決める重要なプロセス。

    ESG評価が高いほど、予想される超過収益(市場予測比)の幅も大きい。

    長期投資家が運用するポートフォリオにはESG評価の高い銘柄が入る確率が高くなる。

    ガバナンスを含め、企業価値評価に対し、有用な非財務情報を発信している企業は長期的には市場で評価される。

    よい会社はよい投資対象とは限らないが、長期においてはよい会社はよい投資対象である。

    ESGの「ガバナンス評価」とは、議決権行使で議論されるガバナンス形態ではなく、長期的に企業価値、キャッシュフロー創出能力を高める経営・経営体制があるか否かの判断。

    ESGの「社会評価」とは、経営理念などが従業員などのステークホルダーにしっかり浸透して、その思い自体が競争力の源泉となり、企業価値に結びついていると想起されるか否かの判断。

    ESGの「環境評価」とは、将来の業績長期予想に際して、環境技術、将来の環境対策コスト増を見据えた対策を行っているかの判断。

    ESG評価及び、ガバナンス評価が高い企業ほど長期業績予想は高くなる。長期業績予想が高くなるという事は、持続的成長に対する確信度も高くなり、持続的成長をしている企業だという評価になる。

    高い長期業績予想、企業価値評価につながるガバナンスは、形式ではない。株主価値を持続的に向上させる経営陣、経営の仕組みがあるかどうかであり、株主価値を重視しているか、経営、事業戦略の妥当性、資本効率への意識などが重要となる。

    投資家が重視するガバナンス項目
    1.持続的な株主拡大への注力
    2.経営陣への信頼度
    3.事業戦略の妥当性
    4.資本効率の意識

    SABA(Sustainability accounting standards board)では、非財務情報のKPIを業種ごとに決めようとしている。例えば、航空会社では燃料の消費量やCO2排出量など。

    ESG投資の考え方は、2006年に国連から公表された国連責任投資原則(PRI)において提唱され、グローバルで特に大手年金基金などの中長期のアセットオーナーにおいて支持が広がっている。旧来のSRIとは異なり、先ずは長期的な投資パフォーマンスの向上を目指すとしている。現在、PRI署名機関は900を超え、運営資産は30兆ドルを超える。

    SRI投資は、従来の財務分析による投資基準に加え、社会、倫理、環境といった点などにおいて社会的責任を果たしているかどうかを投資基準とする事。投資パフォーマンスを勘案しない側面があり、受託者責任と相容れなかった為、資産運用全体の流れを変えるまでには至らなかった。

    長期投資家としては、経営理念が従業員にどこまで浸透しているかがポイントになる。

    ESGの本質的なところは経営者と話さないと判らない。

    投資家は、立案された戦略の実現性を確認する為に従業員の評価体系、役員報酬を確認する。中期計画に対する経営陣の本気度を確認し、投資家としての中期経営計画への確信度を高める為。

    コーポレートガバナンスの動きに関して、日本では3回波が来ている。第一の波は、1990年代、カルパースが株主としての申し入れをするスタンスを宣言した事がきっかけとなり、日本の機関投資家の中にも「安定株主」のレッテルを返上しようとする変化の兆しがあった。だが、株式持ち合いや安定株主についての意識改革は現状維持派に封じ込められた。
    第二の波は、2005年の会社法施行前後。企業と投資家との対話が進展する流れがあったがアクティビストが前面に出過ぎた事で世論が警戒的になってしまった。
    第三の波が今回(JPX日経インデックス400、スチュワードシップコード、伊藤レポート、GPIF改革、コーポレートガバナンスコード)。法律ではなくコードという形で規律を促すので、簡単に導入に反対できない。コンプライしない場合はエクスプレインするという選択肢の提供も大きな変化。

    ペイシェントオーナーは年金が圧倒的に大きな存在。

    海外の長期投資家が日本企業に投資しない理由の第一位は、株主を軽視していると思われている事。

    投資タイムホライズンと判断材料
    日、週:ポジション、ニュースフロー、株価チャート分析
    1-6ヶ月:テーマ、市場心理、計量分析、月次・四半期データ、業績
    1年:事業ファンダメンタルズ、テーマ
    1-5年:ビジネスモデル、中長期経営戦略、経営改革、執行力
    5年超:経営能力全般、支配株主としての関与。将来の不確実性の下で、企業がどのようなリスク管理能力、問題解決能力、決断力、執行力を発揮できそうか評価する。

    日本市場は落ち着いて長期投資ができる対象企業が少ない。

    三菱重工のアニュアルレポートは、「Output」で売上高、営業利益、営業利益率を示し、「Outcome」でROE、配当支払額、CO2削減量、雇用延長者数をハイライトしている。

    日本企業の多くが抱える問題は、ROEが資本コストを下回っている事。

    国内の平均株主資本コストは6.3%。海外は7.2%。従って、グローバル投資家が想定するコストを上回る最低ラインとして伊藤レポートでは8%のROEが設定された。

    効率を追求してもROEは上がるので、企業自体の成長は縮小均衡してしまう。ROAが年々悪化していても、自社株買いなどで株主資本を減らし、有利子負債を増やしてレバレッジをかけるとEPSもROEも向上する。こうして破綻に近い状態になっていったダウ30銘柄もいくつもある。

    国内で、リキャップCBが広まっている。

    群れる現象はハーディング現象という。同業者が一斉に同じ市場に参入する事。横並びで同じ行動を取ったら差別化などできるわけがない。

    同業他社がやってないという事は、そこには何らかのリスクがあるのではないか。何か理由があるから誰もやらないんじゃないかという思考が働くとしたら、それは自分たちの判断を信じていないという事。

    米国の競争力の高い企業は、発注企業の言葉を鵜呑みにせず、最終需要を独自に調査する。

    持続的成長を命題に掲げる事。

    経営が行き詰まっている状態から再興するような場合は、いったん縮小して経営を効率化する。選択と集中に向かう際に、一部の事業から撤退して「稼ぐ力」を回復させてから、今度は自分たちの強みのあるところに成長原資を投入していく。どんなときでも「成長だ」「拡大だ」をやっている事が「持続的成長」に繋がるわけではない。

    選択と集中の後で、これから成長軌道に入るのだという時に、ROEを押し上げる重要なドライバーは営業利益率、ROSなどの利益率であるべき。

    日本では、なんとなく納入業者と顧客の間には上下関係があり、納入業者がなぜ客である我々よりも稼ぐのだといった考え方が依然として強い。

    日本の上場企業には営業利益率10%の壁がある。

    費用として研究開発費が聖域になっている事が多いが、長期投資家はこの費用を削減対象には安易にしない。

    価値創造を持続しようとすれば必ずリスクを伴う。そこでリスクを避けて価値創造を追求しないという無作為が蔓延しないようにする事が重要。

    資本コストは投資家側から見れば、資金の余剰、逼迫感、リスクを反映したハードルレート。両者の見方が一致すれば「WACC=資本コスト」となるが、現実にはそうならない。資本コストはその会社をどう評価しているかに直結する。単にBS右側の負債と資本の比率で決まるのではなく、コミュニケーションが影響する。

    資本コストを引き下げる要素は、成長性、収益性、予見可能性、経営力。

    中計は外国企業ではあまり作成されない。しかも、計画は右肩上がりに作っておいて、結果的には未達が多い状況に陥っているという点も珍しい。

    長期投資家の観点から言えば、5年が妥当。例えば米国市場で株価を評価する際、またはセルサイドのアナリストの予想値を集計する際に、今年、来年のEPSと長期(3-7年)のEPS成長率を算出する。

    日本の企業はセグメントの積み上げが先ずありきで、そこに追加目標が上乗せされている中計が多いので、「長期成長率をどう考えるか?」の質問に即答できない。

    部門長はトップの顔色を伺い、トップは市場の反応や同業他社を気にする。そういう過程で少しづつ「見栄え」が上乗せされていくので結果的に未達が多くなる。これでは長期投資家が本当に知りたかった「長期ビジョンと達成への具体的取組み策」からドンドンずれていく。

    サプライズはコミュニケーションが上手くいてない証拠。
    具体的な数字は別の憶測を招くので言う必要はないが、市場の期待を修正するガイダンスは必要。

    米国の法律の基本姿勢は、「AとBはしてはいけない」と書かれていれば、「AとB以外はしてもよい」という意味。

    アナリストの課題としては、投資候補を選別する際、業績予想モデルを作成するが、売上高、営業利益、当期純利益、一株当たり当期純利益のみを出す。また、企業をセグメント毎に分けて丁寧に分析する一方で、最終的に連結ベースでトータルの売上高や営業利益を考える時はセグメント別の合計をするだけになり、セグメント間の戦略的な経営資源の再配分を考慮しない。

    欧米企業は「3年後にROE何%」とは開示せず、起点終点を出さずに、変化率なり効率なり、それが私たちのビジネスモデルが目指すところだというベンチマークのようなもので表現する。それを上回る時も下回る時もあるが、長期では軌道上にあるというものを開示している。

    持続的成長という意味では、売上高や利益の額へのコミットより、成長率や収益率へのコミットの方が重要。これは率なので、維持していけば、継続的な価値創造になる。

    M&A、新規事業、撤退などの議論の際に、リスクの取り方や時間軸の考え方などの点でリマインドする事。

    日本人は人を「育てる」と言うのに対し、欧米では「育つサポートをする」と言う。「育つ」とはその人の意思で成長していくという事。

    長期目線の投資家が独立社外取締役に逢いたい時は、会社が構造改革に取り組んでいる時に、どれだけ「why」と「how」の議論がなされたのか、その動機と本気度を確かめたい時。その他、社長交代、後任指名のプロセス、根拠や会長の役割など。

    後継者計画の有無、人材プールの作り方、セレクションプロセス、監督する仕組みなどの体制をヒアリングする。

    M&Aや部門売却を積極的に行う市場では、3年程度なら好業績を無理矢理創り出せるが、5年となると例えば3年前の買収成果などが問われるので実力が見える。そこで、賞与に連動する業績評価期間を5年程度に延ばす動きが広がっている。

    伊藤忠の場合、中計の考え方の中で、「安定的かつ継続的に当期純利益1,000億円を稼ぎ出す収益構造へ」と謳い、取締役賞与は、「当期純利益マイナス1,000億円」に係数をかける計算式になっているので、判りやすく、信頼感が増す。

    エンゲージメントの仕方について、アクティビストは経営者に逢わず、手紙で「あなたの会社はこういう事をすべきだ」と主張し、会社が全く取り合わなければそれをメディアに伝える。

    アクティビストは、企業価値に変化がなくても一時的に株価が上がれば売り抜ける事で目的を達成できる。

    アサヒグループの経営理念は、「最高の品質と心のこもった行動を通じて、お客様の満足を追求し、世界の人々の健康で豊かな社会の実現に貢献する」事を掲げ、この理念に基づいて全ての事業活動に取り組んでいる。長期ビジョンも無理に数字を示すより、顧客、取引先、社会、社員、株主に対する大きな方向性を示している。日本株全体の外国人比率は30%。持ち合い解消の流れで増えていった。

    「ニーズを踏まえた適時、適切な情報開示」→「適正(理論)株価と実勢株価の乖離縮小」→「市場見解の的確なフィードバック」→「経営革新による企業価値(適正株価)の向上」をサイクルで回す。

    自社で2,3年後の予想EPSに業界平均なり海外大手平均のPERを掛け合わせて適正株価を試算するが、この数字は公表する為ではなく、市場が予想するEPSやPERとの差は何から生じているのかを思料し、改善する為に使う。

    個人株主拡大プロジェクトとして、単元株を1,000株から100株に変更し、大株主の放出株を個人向けに販売した。また、株主総会の改革(日程や場所)や、株主向け限定ビールなどの優待制度も導入した。

    IR優良企業大賞受賞理由は、
    1.経営トップが投資家と対話し、企業価値向上という目的を共有し、経営改革や資本改革を実施している。
    2.持続的な成長に向けての取組みを、各種の説明会や取材対応で的確なロードマップを示して説明している。
    3.IR部門は社長直轄の組織であり、業況把握、経営陣との意思疎通などを緻密に実行している。
    4.業績予想修正やM&A、自社株買いなどの発表も、説明責任を果たし、要点をとらえている。
    が挙げられた。

    PL目標だけだと、外部環境の変化によりリスクが高くなるので、自己株式の取得も含めた総還元性向も併用する事で、ROEやEPSの目標達成確度を高め、株主や投資家の安心感や信頼関係の醸成につなげている。

    商社の中には、安定配当と利益金額を連動した配当を合わせて示している。

    中長期の経営計画にM&Aを含めた数値目標を掲げると、M&A自体が目的化してしまう。

    社会を良くしながら競争力、競争優位性も高めていくという姿勢は、消費者、顧客側の社会に良い事をしている企業かどうかの意識の高まりと、特にリーマンショック以降のSRI投資やソーシャルインパクト投資といった社会的課題を解決する企業に中長期投資を行う株主・機関投資家の意識の高まりという各種の経営環境の変化への対応でもある。

    株価の長期の波動は、業績の動きとパラレルになる。これを株式市場における公理と言う。業績が良くなる事が予見される時点で株価が反応する。

    企業と投資家の高貴な対話
    ・恋人(真の長期投資家)との静かな別れがこない為に。株を手放す投資家は怒ったり文句を言わず、黙って売る。その後に怖い人がやってくる。
    ・SC署名投資家が想定している対話項目は殆ど想定問答集化できる。
    *恋人以外にCEOが1 on 1mtgに出席する必要は無い。
    ・企業側の選別の重要性。どういう投資家に買ってもらいたいのか、顧客のサーベイをしっかり行う。
    ・対話の極意は精神分析医であり、投資家がより多くを与えなければならない。

    CFOはデットとエクイティ両方をハンドルすべき。財務戦略だけでなく、desired investorやdesired stockholderをきちんとマネージする事。

    法制度の先取りをする事。
    第一段階:法令に未対応
    第二段階:法令を遵守、、規制による要請や強制。社会からの圧力。
    第三段階:法令を先取り、、環境効率、規制による脅威、広報危機
    第四段階:戦略への反映、、事業機会、リスク管理
    第五段階:目的やミッション、、価値観や信条との整合

    ESGのSの観点で言うと、従業員の満足度の重要性を意識していない会社は長期投資家の株式保有対象となるのは難しい。

    コストコが小売業の中では従業員満足度、顧客満足度が最も高い。これらの要素が長期的には売上高や利益や株価に関連性を持っている事がいろいろな実証研究から明らかになりつつある。

    エンゲージメントとは、影響力を行使する事ではなく、投資対象となる会社の状況を真摯に把握して、尊敬し、対話をする事。

    アセットオーナー側が株式運用資産の中でアクティブ運用の比率を半分程度にまで高めないと、アセットマネージャー側にそういう資金が回ってこない。

    日本株式会社として眺めると、パッシブで良しだとお金は回らない。日本全体でアクティブ運用に取り組むべき。その為の建設的な議論は本来楽しいはず。来期の見通しなどと言った目先の話をするのではなく、例えば重工業メーカーがシーメンスと戦っていくにはどうしたらいいか?製薬企業がメルクやロシュとどうやって戦ってくのか?といった壮大な戦略をすり合わせていくこと。

    理念として株主資本コストを上回るROEを目指す考え方は正しいが、社内で議論する際には、ROICやROAの方がマネージしやすい。

    ROE議論の盲点は、貨幣価値変動の激しい国とそうでない国、法人税負担が異なる企業では意義が異なる。また、ROEは過去を問うのではなく、中長期の結果を問うべき。

    経営者が変わると新規性を打ち出そうとしてくるが、長期投資家から見ると、会社の哲学や理念がそんなに短い間隔で変わるのは不自然で、20,30年同じでもよい。3年毎に中計が変わる度にROE目標が変更される事を望んでいない。

    ノヴォルノディスクの中期目標提示
    Operating profit growth. previous target 15%, updated targets 15%.
    Operating margin. pt35%, ut40%.
    Operating profit after tax to net operating asset. pt90%, ut125%
    Cash to earning. pt90%, ut90%.

    ノヴォルノディスクはステークホルダー間の利害対立とESG課題への取組みを、「サステナビリティーの20年史」という冊子で見せている。

    日本の会計基準では原則として研究開発費は費用化される為、PLの利益は圧迫される。会社によってはROEが2-3%まで下がるが、長期投資家は気にしない。5-8年先のROEを議論して、今は2%だが、例えば8年後には20%になるだろうと予想する。

    会社のサステナビリティーに対する執念とか方向性について、経営者が明確なメッセージ示して、それに対して投資家なり取締役会が定期的にレビューする事で十分。

    統合報告を作成する上で必要な3条件。(公準)
    1.憲章や経営理念を盛り込む(普遍性)
    2.過去との連続性
    3.新規性

    K統合報告の18項目
    1.企業理念、哲学
    2.産業・企業の特性
    3.歴史的経緯(過去と現在)
    4.自己分析(強み、克服すべき弱み)
    5.中長期戦略の課題と目標→企業価値向上のロードマップ
    6.ビジネスモデルとポートフォリオ
    7.CEOのメッセージ
    8.研究開発の重点
    9.マーケティングの効率性
    10.生産効率
    11.従業員のモチベーション
    12.ダイバーシティ&インクルージョン
    13.地域社会との関係
    14.環境への取組み
    15.コーポレートガバナンスシステム
    16.財務データ
    17.財務政策
    18.サステナビリティーへの執念

    インテルはには充実した食堂があるが、これは優秀なスタッフを集めて集中的に仕事をしてもらうには当然必要であるとしており、会社に余裕があるからという事ではないとしている。

    GSKの役員在任期間は、7-10年と長いが、これは会社をある程度深く知る必要がある反面、関与しすぎてもいけないというバランスから設定している。

  • 武井先生のコンパクトな概説に引き続いて、ニッセイアセットの井口さん、フィデリティ投信の三瓶さん、アサヒの石坂さんと日本IR協議会の佐藤さん、青山学院の北川先生との対談、鼎談を収録したもの。巻末にコード原案を掲載。
    さて、この本から何を吸収し、どのようにCGコード対応に、ひいては中長期的な企業価値向上にどう活用できるか。読み方の検討が必要らしい(´・_・`)

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著者プロフィール

弁護士

「2010年 『金融商品取引法セミナー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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