バイオハッキング―テクノロジーで知覚を拡張する

  • 白揚社
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (437ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784826902052

感想・レビュー・書評

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  • コンピュータの技術革新により、AIの進歩が目覚ましい。

    AIが進歩してくると、それをハコの中だけに閉じておくなんてことはもったいないわけで、当然人間に応用したくなるわけである。



    本書は、人間が持つ五感をどう「ハッキング」していくか、という各分野の試みの最新ルポ。
    とはいえ、原書は2015年なのでやや古いか。
    この分野4年も昔ならだいぶ様相も変わっているだろうから。
    いくつか面白い章があったが、特に印象に残ったのが、痛みと情動に関する内容だ。
    (本書の一番の眼目からは少し外れてしまうが。。)

    痛みというと、身体的なものと思いがちだが、
    比喩的に使われる、「心の痛み」も身体的な痛みと、根本的には同じ部位で生じているとのこと。
    部位というのは、身体ではなく、脳内の部位のこと。
    身体で起こる刺激は、電気的信号となり脳内のある部位に伝わっていき、そこで「痛み」というシグナルに変換されるのだ。
    つまり、このシグナルの元情報が身体からの刺激か、脳の別の部位からの刺激(=悲しみや辛さ)かの違いという。

    一方、情動というのは、外部からの情報に対してどう処理するかというパターンであり、無限ともいえるほどの情報であふれる世界に対し、どう向き合い、どこに注意を向けるべきか、それを教えるのが文化という。

    また情動は、単に外部からの情報のみで起こるのではなく、
    処理の過程で、自己と他者との関係の中で絶えずフィードバックを試みている。
    つまり外部刺激を自己再生産しているわけだ。

    ということは、
    この情動の働きと先の痛みのしくみを組み合わせると、
    精神的な痛みは、外部からの刺激と、それに対する自己内の処理パターンによって、
    たえず再生産され得るということになる。
    それは身体的痛みとは大きく異なり、かつ深刻でもある事象ではないだろうか。

    ハラスメントとは、単なる嫌がらせにとどまらず、文字通りの傷害ともなり得るということは、もっと自己の言動に慎重になるべきか、とも思う。
    とはいえ、それは自己の処理パターンによるところでもあるので、
    ここをどうにかして痛みにつながらないようにならないものか。
    そして、それは近年特にセンシティブになっているのか、そうでないのか。

    ここは引き続き、要チェックの話題としてアンテナを張っていくことにしよう。

  • 主客の混濁を選り分ければより純粋に楽しめるかな

  • 人間が持つ(或いはまだ持っていない)知覚について、最先端の研究の現場から酒場や病院での会話、さらには実験的デバイスを自らの体に埋め込んでその効果を検証するオタク(「バイオハッカー」)まで、様々な人々への取材を通じて、人間の感覚とは何か、脳の可能性はどこまで拡張できるのかを探求した一冊。

    我々が何かを“感じる”メカニズムにおいては、身体が外部からの情報や刺激を「受容」し、それを電気信号に「変換」して脳に伝え、所定の脳細胞がそれに「反応」することで何らかの「感覚」を作り出している。その際、多くの情報は捨象されており、そもそも受容できる情報の範囲も限定されている。つまり我々は現実に見たり聞いたり味わったりしているつもりだがそれらは全て恣意的に選択された情報を元に脳が勝手に作り出した伝聞のイメージに過ぎない。逆に同じような脳の反応を人工的に作り出せば、我々はそれを“感じる”ことができることになる。「バイオハック」と呼ばれる分野の研究では、何らかの障害によって失われた感覚を補完すること(脳に直結して機能する義眼や義手など)に加えて、既存の感覚の増強(第六の味覚の発見、不可視光線の可視化など)や、新たな感覚の獲得(磁場の知覚など)を目指した取り組みが世界各国で進められており、本書ではその内容や実現に向けて克服すべき課題などが解説される。

    紹介される事例の中には、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)のような実用段階にあるものや、SFホラーまがいのマッドサイエンティストを髣髴とさせるものもあるが、一方でこれらは「ホモ・デウス」でユヴァル・ノア・ハラリが“予言”した「超人」の出現を可能にする技術革新と捉えることもできる。腕に磁石を埋め込んで渡り鳥のように磁場を感じることを目論むハッカーの一人は「見えない世界が存在するのにそれが自分には観察できないというのは我慢がならない」という。未だ限られた領域しか使われていない人間の脳の更なる可能性を探り、その活用を目指すという純粋に科学的な野望に突き動かされた挑戦の数々が、読者の知的好奇心をくすぐる良書。

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